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副業人材の越境活用:企業の新たな取り組みー果たして中小企業まで届くか?ー日経ビジネス記事より

日経ビジネス2024/7/10の記事に『新しい働き方のカタチ キリンHDやJTなど27社、副業人材を相互派遣 「越境」で社員鍛える』が掲載されていました。

 キリンホールディングスやJTを含む大手企業27社は、社員の副業を促進し、新たな働き方を模索するため、3ヶ月間にわたる画期的な実証実験を行いました。この実験では、参加企業が自社の社員を副業人材として他の企業に派遣し、同時に他社からの副業人材を受け入れるという相互派遣の仕組みを構築しました。

 この取り組みの背景には、副業市場の伸び悩みという課題が存在します。政府が副業を推進し始めてから数年が経過しましたが、副業を解禁する企業は増えても、実際に副業人材を受け入れる企業は少ないのが現状です。人事手続きの煩雑さや情報漏洩のリスクなどが、企業側の受け入れを阻む要因となっています。一方、副業を希望する社員からは、「自分のスキルアップにつながる求人を見つけられない」という声が聞かれます。このように、副業市場は需要と供給のバランスが崩れている状態にあります。

 今回の実証実験は、このような状況を打開するための試みです。期間を限定することで企業側の受け入れハードルを下げ、事務局が用意した雇用契約のひな型や、信頼性の高い企業の社員を安心して受け入れられる環境を提供することで、副業市場の活性化を目指しました。

 例えば、サッポロビールは、女性管理職候補者の育成を目的として、関西電力、ポーラ、小田急電鉄から経験豊富な女性管理職をメンターとして招き、メンタリングプログラムを実施しました。JTは、障害者雇用に関する相談だけでなく、オフィス改革や中途採用に関する副業求人も行い、自社の課題解決に役立てています。

 アンケート結果によると、副業人材を受け入れた企業の86.3%が「満足」または「非常に満足」と回答し、副業を経験した社員の97.5%が「今後も社外からの依頼を引き受けたい」と回答しています。

 この結果を受け、パーソルキャリアは、今回の実証実験で得られた知見を活かし、7月から相互副業のマッチング事業を開始しました。このサービスは、企業が副業求人を出したり、自社の副業希望者を他の企業に紹介したりすることを可能にするもので、2027年までに100社の利用を目指しています。

 副業人材の相互派遣は、まだ小規模な取り組みではありますが、プラットフォームが整備され、参加企業が増えれば、人手不足解消の一つの有力な手段として期待されています。

 かつて日本では、「本業がおろそかになる」という理由で副業に否定的な見方が根強くありましたが、副業を通じて得られる社外の経験は、社員だけでなく企業にとっても大きな学びとなります。社員だけでなく、企業も視野を広げ、新しい働き方を受け入れることが求められていると言えるでしょう。

本当に副業が必要な企業に行き届くかどうか


 今回の事例は、大企業同士のやりとりが中心でした。副業人材の受け入れによる効果が一定程度あるとは思います。一方、限界もあるかも知れません。大企業は、一般的に多様な人材を豊富に抱えており、社内で専門知識やスキルを持つ人材を確保できる体制が整っていることが多いです。そのため、副業人材を活用しなくても、社内リソースでプロジェクトを遂行できる場合や、コンサルティング会社など外部の専門機関に委託する選択肢も考えられます。

 もちろん、大企業であっても、常に全ての分野において人材が充足しているとは限りません。しかし、副業人材を受け入れる際には、情報セキュリティやコンプライアンス、企業文化との適合性など、考慮すべき点が多く、導入に慎重になる傾向があります。また、副業人材のマネジメントには、通常の社員とは異なるコミュニケーションや評価制度が必要となるため、新たなコストや負担が生じる可能性も考慮しなければなりません。

 一方で、地方の中小企業にとっては、副業人材の受け入れは大きなメリットをもたらす可能性があります。地方では、人材不足が深刻化しており、専門性の高い人材を確保することが困難な状況です。副業人材を活用することで、都市部の大企業で働く優秀な人材の知識や経験を、地域課題の解決や新たな事業創出に活かすことができます。

 私自身、地方で活動する中で、地方の人材不足の深刻さを痛感しています。副業人材の受け入れを促進するためには、企業側の意識改革だけでなく、行政による支援体制の強化や、副業人材と企業のマッチングプラットフォームの充実など、多角的な取り組みが必要不可欠です。これらの取り組みを通じて、地方の活性化に繋げることができるでしょう。まだまだ、取り組みは道半ばといったところでしょうか。

企業間で副業人材を相互に派遣する革新的な働き方を描いています。オープンプランのオフィスで異なる企業の社員たちが協力し合い、チームミーティングやブレインストーミングセッション、一対一のメンタリングが行われています。コンピューターで作業する人々やテーブルでアイデアを話し合う様子、プレゼンテーションをする場面などが描かれ、スキルと知識の交換が強調されています。生き生きとしたプロフェッショナルな雰囲気が感じられます。


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