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人生100年時代のキャリア設計ー人事による経済的自立支援モデル

 いわゆるESBIモデル(雇用(E)、自営業(S)、ビジネスオーナー(B)、投資家(I)の四つのカテゴリーに分け、個人が経済的自立を達成するための道筋)について、人生100年時代を見据えたキャリアと経済的自立の戦略という意味で、人事の立場から考えたいと思います。

 企業人事の立場からすると、Eを中心に考えるわけですが、企業としても、永続的にEを保証できるわけではありません。一方、従業員が不確実な未来に対してより準備を整え、自分たちのキャリアと財務状況を積極的にコントロールする手助けとなります。

人事の立場から見たESBIの意義

E(雇われる)からの脱却

   21世紀の労働市場は不安定さを増しており、安定した雇用が約束される時代は終わりを告げました。企業は人件費を削減するため、正社員よりも非正規雇用を増やす傾向にあり、従業員の雇用は一層不安定になっています。解雇や賃金の引き下げ、労働条件の悪化など、従業員が直面するリスクは高まる一方です。このように、多くの人がEのカテゴリーに留まることは、経済的自立や自由を制限する可能性があります。これは、人事が従業員のキャリア開発を支援する際に重要な考慮事項となります。

 人事部門は、従業員が単に雇われる立場に留まらず、自らの経済的基盤を確立できるよう、ESBIの他のカテゴリーへの移行を促す必要があります。

S(自分自身を雇う)とB(ビジネスオーナー)への移行

   SとBへの移行は、個人が直面する経済的リスクを分散させる有効な手段です。自己雇用やビジネスの創設は、収入源を多様化し、将来的な不確実性に対する耐性を高める方法となります。自分自身のスキルやアイデアを活かして独立することで、他者に雇われる必要がなくなり、収入の上限がなくなります。
 また、ビジネスを所有することで、利益の一部を自分のものにできます。このように、SやBのカテゴリーに進むことで、経済的自由度が高まります。しかし同時に、起業リスクや経営の難しさといった新たな課題にも直面します。

 人事部門は、従業員がこれらの分野でスキルや知識を開発できるように支援するプログラムを提供することで、従業員の経済的自立を促進する役割を果たすことができます。具体的には、起業家精神の涵養、ビジネスプラン作成、マーケティング、財務管理、リスク管理などに関する研修を実施することが考えられます。

I(投資家)への進化

   投資家としての地位は、経済的自立を達成し、人生100年時代を生き抜くための鍵です。資本のレバレッジを利用し、収入を生み出す資産を構築することは、長期的な財務的安全を確保する上で不可欠となります。投資を通じて資産を積み重ね、将来の収入源を確保することができます。しかし、投資には様々なリスクが伴うため、適切なリスク管理と分散投資が重要です。

 人事部門は、従業員が金融リテラシーを高め、賢明な投資決定を下す能力を育むための研修やワークショップを提供することで、この過程を支援できます。具体的には、投資の基礎知識、リスク管理、ポートフォリオ構築、不動産投資、株式投資、債券投資などについての教育プログラムを用意することが望ましいでしょう。
 また、税制や相続、遺言作成などの知識も不可欠です。投資を通じて資産形成を図ることで、従業員は経済的自立を達成し、安心して人生を送ることができるようになります。

人事戦略におけるESBIの統合

キャリア開発の多様化

 従来の人事は、Eに重きを置きがち、というよりもEのみでしたが、時代の変化に合わせてSやBへの移行を支援する必要があります。従業員に対して、Eだけでなく、SやBになるためのスキルや知識を提供することで、彼らのキャリアパスの多様化を促します。これには、起業家精神の涵養、ビジネスマネジメント、マーケティング、財務管理、投資に関する教育が含まれます。

 多様なキャリアパスを用意することで、従業員一人ひとりの適性や志向に合わせた選択肢を提示できます。また、従業員がキャリアの途中でSやBに移行する際の支援制度も重要です。キャリアカウンセリングやメンタリングプログラム、スキルアップ支援などを通じて、従業員の移行を後押しすることができます。

パーソナルファイナンス教育の強化

 従業員が自分の財務を管理し、将来にわたって経済的に自立できるように、パーソナルファイナンスに関する教育を強化します。これは、退職計画セミナー、投資戦略ワークショップ、財務計画に関する相談サービスを通じて実現できます。金銭的なリテラシーを高めることで、従業員は自らの人生設計を主体的に行うことができるようになります。
 具体的には、家計管理、債務管理、税金対策、保険、年金など、様々なテーマを取り上げることが重要です。特に若手社員に対しては、早期からの資産形成の重要性を啓発する必要があります。定期的な金融教育を実施することで、従業員の経済的自立に向けた意識を高めることができます。

組織内起業家精神の促進

 従業員が新しいビジネスアイデアを提案し、試行することを奨励し、支援します。組織内に起業家精神を持った人材を育成し、イノベーションを促進することで、従業員がBへと進化する機会を提供します。具体的には、アイデアコンテストの開催、事業化支援プログラムの提供、ベンチャー支援制度の整備などが考えられます。
 このようなイニシアチブを通じて、従業員の創造性と起業家精神を刺激し、組織の活性化にもつなげることができます。さらに、社内ベンチャーを支援する制度を設けることで、従業員が安心して新規事業に着手できる環境を整備することも重要です。

投資教育プログラムの実施

 従業員が資産形成の基本を理解し、長期にわたって資本を増やす方法を学ぶための投資教育プログラムを実施します。これには、株式投資、不動産投資、その他の収益性の高い投資機会に関する情報が含まれるべきです。投資のリスクと利益のバランスを理解し、長期的な視点に立ってポートフォリオを構築する能力を養うことが重要です。

 また、税制やリスク管理についての知識も不可欠です。このような包括的な投資教育を提供することで、従業員がIへと進化し、経済的自立を達成できるよう支援します。投資に関する知識は、SやBのカテゴリーでも役立つため、ESBIの各側面を包括的にカバーすることができます。さらに、投資クラブの設立やセミナーの開催など、従業員同士が学び合える機会を設けることも有効でしょう。

まとめ

 人生100年時代を迎え、経済的自立と持続可能なキャリア構築がこれまで以上に重要になっています。人事部門は、従業員がESBIの各カテゴリーを理解し、自分たちのキャリアと財務の将来を積極的に形成できるようにすることで、この変化に貢献することができるでしょう。
 従業員一人ひとりが経済的自立を達成し、充実した人生を送れるよう、多角的なアプローチを用いてサポートすることが人事に求められています。教育プログラムの提供、起業家精神の育成、キャリアパスの多様化、投資支援など、様々な施策を通じて、従業員の自立と成長を後押しすることが重要な使命となるでしょう。

 このように、ESBIの概念を人事戦略に組み込むことで、従業員の経済的レジリエンスを高め、不確実な時代を乗り越えていくことができます。経済的自立は単なる富の問題ではなく、人生の質や精神的な自由とも深く関係しています。人事部門が先駆けとなり、この重要な課題に取り組むことで、組織と従業員の双方に大きなメリットをもたらすことができるでしょう。

雇用から自営業、ビジネスオーナー、そして投資家への移行と成長の道筋を示す洗練されたインフォグラフィックです。それぞれのカテゴリーを象徴するアイコンやシンボルが矢印で結ばれており、経済的自立を達成するための進行を視覚的に表現しています。また、この旅を促進するための人事戦略、例えば教育プログラム、キャリア開発、起業家精神、投資教育などの要素も取り入れられています。背景は柔らかく、パステルカラーを使用して温かみのある教育的なトーンを作り出しています。

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