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中高年社員が直面する逆パワハラの現実と人事としてどう対応するのか?ー日経ビジネス記事より

 日経ビジネス2024/04/15の記事に『逆パワハラに怯える中高年社員 部下にもの言えず無気力状態 』が掲載されていました。この記事は、中高年社員が職場で直面する逆パワハラや複雑な人事評価制度によるストレスについて深く掘り下げています。40〜50代の社員が特に強いストレスにさらされており、これが彼らの働く意欲や精神的健康にどのような影響を与えているかが詳述されています。人事の立場として、これにどのように向き合って行くべきなのか、検討してみたいと思います。

逆パワハラストレス

 中堅不動産企業の営業課長である山下明夫さん(仮名、40代)は、部下とのコミュニケーションに大きな悩みを抱えています。彼は部下との良好な関係を築くためにランチや飲み会に誘おうとするものの、部下からは断られることが多いといいます。「無理に誘うとパワハラのように感じられるし、女性社員を誘うとセクハラと言われかねない。だから諦めるけど、仕事がやりづらい」。このような状況が続くことで、山下さんは次第にふさぎ込むようになり、趣味の庭いじりにも手がつかなくなりました。結局、彼の妻の勧めで会社のクリニックを受診することになりました。

 産業医は山下さんについて、「部下から何でも『ハラスメントだ』と騒がれることを過度に恐れている。他社でも同様におびえている40〜50代の管理職が増えている」と述べています。山下さんの会社は、個々の営業員が会社の管理する不動産物件に張り付く仕組みを取っており、普段はなかなか顔を合わせないため、別の形でのコミュニケーションが重要ですが、それができないことが大きなストレスとなっています。

複雑化する人事評価制度

 国内大手IT企業のシステムエンジニア(SE)である木下英俊さん(仮名、30代)は、人事評価に対する不満を産業医に打ち明けました。毎年1回実施されるストレスチェックで高ストレス状態にあることが分かり、産業医との面談が実施されました。木下さんは、部署の人数が減少し労働時間が増加しているにもかかわらず、上司からの評価が変わらず、賞与や役職も変わらなかったことに強い不満を抱いています。

 木下さんの会社では、職務内容や仕事の成果、組織への貢献度に応じて報酬が決まる評価制度が採用されていますが、評価基準が不明瞭であり、フィードバックも不足しているため、不満が蓄積しています。2023年に実施された調査によると、人事評価に不満を感じている人は75%を超えており、年功序列の賃金制度から成果主義へのシフトが背景にあります。木下さんの場合、SEとしての作業量や成果が評価されず、「部下を巻き込む働き」「会社のミッションに沿った行動」などが評価基準となっていることに不満を感じています。

企業の対応策

 企業は社員のメンタルヘルスを守るために、コミュニケーションの手段を多様化することや、社員へのフィードバックを充実させることが必要です。例えば、日々の業務報告の仕方を工夫したり、部内で定期的に対話集会を設けたりすることで、対話の機会を増やす方策があります。これにより、部下との新たな接し方に悩む中高年社員の不安を軽減し、働く意欲を向上させることが期待されます。

 さらに、企業は公平・公正な評価制度を整備し、社員の納得感を高める努力が求められます。特に、評価基準やフィードバックを明確にし、社員が自分の評価に納得できるような環境を整えることが重要です。これにより、社員の生産性低下や精神的健康問題を防ぐことができます。

まとめ

 中高年社員が直面する逆パワハラや複雑な人事評価制度によるストレスは、企業にとっても大きな課題です。社員のメンタルヘルスを守り、働きやすい環境を整えるためには、企業側の積極的な取り組みが必要です。コミュニケーションの多様化や評価制度の改善を通じて、社員のストレスを軽減し、働く意欲を向上させることが求められます。

人事の視点から考えること

 人事の視点から考えると、企業が中高年社員を含む全社員のメンタルヘルスと生産性を向上させるために、以下のような具体的な対策や取り組みが必要と思います。企業の成長にとっても大変重要です。

コミュニケーションの改善

  1. オープンな対話の促進

    • 定期的なフィードバックセッション
       管理職と部下の間で定期的なフィードバックセッションや1on1ミーティングを設け、上司と部下が自由に意見交換できる場を提供することが重要です。これにより、部下が不安や疑問を解消しやすくなり、上司も適切な指導がしやすくなります。

    • コミュニケーションスキルのトレーニング
       会社全体でコミュニケーションスキル向上のためのトレーニングを実施し、全社員が効果的な対話を行えるようにすることが求められます。特に、ハラスメントを避けながらも建設的な指導を行うスキルは、管理職にとって重要です。

  2. ハラスメント対策の強化

    • 明確なポリシーの制定と周知徹底
       ハラスメントに関するポリシーやガイドラインを明確にし、全社員に周知徹底することが必要です。これにより、全員が適切な行動基準を理解し、守ることができます。

    • ハラスメント防止研修
       ハラスメント防止のための研修を定期的に実施し、管理職も含めた全社員が正しい知識と対応方法を身につけることが重要です。特に、日常的に部下と接する管理職に対する教育は不可欠です。

人事評価制度の透明化

  1. 評価基準の明確化

    • 具体的な評価基準の設定と共有
       人事評価の基準を具体的かつ明確にし、全社員に共有することが重要です。これにより、社員は何を評価されるのかを理解し、自分の働き方を調整しやすくなります。また、評価基準を数値化しやすいものにすることで、客観的な評価が可能になります。

    • 評価基準の見直しと改善
       評価基準が不明瞭であることがストレスの原因となるため、定期的に評価基準を見直し、改善することが求められます。特に、社員からのフィードバックを基に、評価基準を更新していくことが重要です。

  2. フィードバックの充実

    • 評価結果の適切なフィードバック
       評価結果を適切にフィードバックし、社員が自分の強みや改善点を明確に理解できるようにすることが必要です。これにより、社員のモチベーションを維持し、成長を促すことができます。評価結果が受け入れられない理由として、フィードバックが適切に行われていないということが結構あります。

    • バランスの取れたフィードバック
       フィードバックはポジティブな点と改善点の両方をバランスよく伝えるようにし、社員が前向きに受け取れるように配慮することが重要です。また、フィードバックの際には具体的な行動例を挙げることで、社員が何を改善すべきかを明確に理解できるようにします。

メンタルヘルスのサポート

  1. メンタルヘルスケアの充実

    • 相談窓口の設置
       社内にメンタルヘルス相談窓口を設置し、社員が気軽に相談できる環境を整えることが重要です。専門のカウンセラーや産業医を配置し、社員が安心して相談できる体制を整えます。相談窓口の設置は、外部からも求められることが多いです。

    • メンタルヘルス教育・研修
       メンタルヘルスに関する教育や研修を定期的に実施し、社員が自分自身のストレスサインに気づき、適切に対処できるようにすることが求められます。また、ストレス管理の方法やリラクゼーション技術を学ぶ機会を提供することも有益です。

  2. ワークライフバランスの推進

    • 柔軟な働き方の導入
       フレックスタイムやリモートワークなど、柔軟な働き方を導入し、社員のワークライフバランスを支援することが重要です。これにより、社員が仕事とプライベートの両立を図りやすくなり、ストレスの軽減が期待できます。

    • 休暇取得の奨励
       休暇取得を奨励し、社員がリフレッシュできる時間を確保することが必要です。特に、有給休暇の取得促進や長期休暇制度の導入を検討することが求められます。

中高年社員への特別な配慮

  1. キャリア開発支援

    • キャリア開発プログラムの提供
       中高年社員向けのキャリア開発プログラムを提供し、彼らが自身のキャリアパスを見つけ、成長できるようにサポートすることが重要です。これにより、社員のモチベーションを維持し、企業に対する貢献意欲を高めることができます。

    • メンター制度の導入
       メンター制度を導入し、中高年社員が若手社員と交流し、お互いに学び合う機会を作ることが有益です。これにより、社内の知識共有が促進され、組織全体のスキル向上が期待できます。

  2. 健康管理の強化

    • 定期健康診断の充実
       定期健康診断や健康管理プログラムを充実させ、中高年社員が健康を維持できるように支援することが重要です。また、健康診断の結果を基にした個別の健康アドバイスを提供することも有益です。

    • フィットネスプログラムの提供
       フィットネスプログラムや健康促進活動を社内で提供し、社員全体の健康意識を高めることが求められます。特に、中高年社員に適した運動プログラムを導入することで、健康維持をサポートします。

まとめ

 人事部門は、社員のメンタルヘルスを守り、働きやすい環境を整えるために積極的な取り組みが必要です。コミュニケーションの多様化や評価制度の透明化を通じて、社員のストレスを軽減し、働く意欲を向上させることが求められます。
 特に、中高年社員に対しては特別な配慮が必要であり、彼らのキャリア開発や健康管理をサポートすることで、企業全体のパフォーマンス向上につなげることができます。これらの取り組みを通じて、企業は離職率の低減や生産性の向上を実現し、持続的な成長を目指すことができます。

中高年社員が直面する職場のストレスとコミュニケーションの難しさを表しています。中央には心配そうな表情でデスクに座る中年男性社員が見られ、周囲の若い同僚たちは無関心または冷淡な態度を示しています。もう一人の中年男性管理職がチームと対話しようとしていますが、部下たちは反応が薄い様子です。オフィスの雰囲気は全体的に緊張感が漂い、職場のストレスとコミュニケーションの課題が浮き彫りになっています。


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