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【書籍】生成AIと共に学び、人事企画・業務にも活かすー野口悠紀雄氏『ChatGPT「超」勉強法』

 野口悠紀雄氏の著書『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社、2024年)を拝読しました。近年登場した生成AIの一つであるChatGPTを活用することで、より効果的かつ効率的な学習方法を実現できると説いています。

 第Ⅰ部では、ChatGPTが従来の「超」勉強法の理想的な手段となり得ることが説明されています。ChatGPTを用いれば、知りたい情報を「ピンポイント」で得ることができ、自分の興味関心に沿って学習を進められるため、学習者の知的好奇心を刺激し、モチベーションを高く保てるというメリットがあるとのことです。「ピンポイント」というのは従来の「Web検索」ではなかなかなし得なかったところもあるでしょう。

 ChatGPTがこれまでの手段に比べて優れているのは、知りたいことに対して答えてくれることだ。これまでの情報源は、教科書にしても参考書にしても、書いてあるのは、著者が読者に伝えたいと思うことだ。つまり、著者の問題意識で重要とされていることだ。ところが、それが読者の観点と一致している保証はない。読者はそこに書いてあることとは違うことを知りたいと思っている場合もある。そうした場合、いくら参考書や教科書を読んでも、答えを得ることはできない。
 検索エンジンでウェブの記事を調べても同じことだ。検索エンジンでヒットするのは、検索語が含まれている記事であり、こちらの知りたいことがその記事に書かれている保証はない。
 このような場合、従来は人間に聞くしか方法がなかった。学校の先生や物知りな人に聞けば、こちらが知りたいことに対して答えてくれるかもしれない。しかし、そうした人たちに必ず聞けるわけではない。家庭教師を雇っていれば、知りたいことを聞けるだろうが、そうであっても、24時間365日、知りたいと思ったときに答えてくれるわけではない。それに、人間の場合、どんなに物知りであっても、その知識には限度がある。だから知りたいことを必ず教えてくれるとは限らない。

野口悠紀雄著『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社、2024年)p23より引用

 ただし、野口氏は同時に、ChatGPTの出力には誤りが含まれる可能性があることを指摘し、注意を喚起しています。この問題は、ChatGPTに代表されるAIが「シンボル・グラウンディング」、つまり記号と実世界の対象を結び付ける能力を持たないことに起因していると分析しています。AIは言葉と言葉の関係性から学習しているため、時として現実とかけ離れた出力をしてしまうとのこと。こうしたChatGPTの限界を踏まえ、著者は対策として、ChatGPTの使途を情報の確認や表現の参考程度に限定したり、ChatGPTの出力を書籍や検索エンジンで丹念にチェックしたりすることを提案しています。従来型の検索もそうですが、「ファクトチェック」は欠かせません。

 第Ⅱ部では、ChatGPTを活用した教科別の具体的な学習法について詳述されています。特に、外国語学習においては、ChatGPTが丸暗記法の教材を大量に提供してくれるため、従来の「分解法」、つまり単語の意味を一つ一つ辞書で調べて理解する方法からの脱却が可能になるとのこと。

 一方、数学に関しては、ChatGPTの能力には限界があると指摘しています。数学的な推論や計算においてChatGPTは時折誤った回答をするため、全面的に依存するのは危険だと警告してます。従来通り、公式や定理を暗記し、問題演習を重ねることが肝要だと説いています。ただし、ChatGPTを活用して、数学の各分野が実社会でどのように応用されているかを学んだり、自分の理解度を確認したりすることは有効だとも述べています。

 理科・社会の学習では、ChatGPTを使って自然の不思議や歴史上の出来事を深く探究することを推奨しています。知識の断片をChatGPTが「関連付けて」説明してくれるため、今まで分からなかったことが腑に落ちる経験ができると。ただし、やはりChatGPTの出力をそのまま鵜呑みにせず、批判的に吟味する姿勢が大切のこと。

 第Ⅲ部では、ChatGPTに代表される生成AIが教育制度全体に与える影響について考察しています。野口氏は、ChatGPTの登場によって教師の役割が大きく変化すると予測します。知識の伝達はChatGPTが担うようになり、教師はカリキュラムの作成や学習者の評価に注力するようになるだろうとのことです。また、教師はChatGPTの適切な活用法を生徒に指導する必要があると説く。

 野口氏は、学校教育においては、ChatGPTの利用を禁止するのではなく、積極的に活用すべきだと主張しています。ChatGPTは、どうもレポートの剽窃ツールとして見られます。だからといって、規制するのは生産的ではなく、むしろChatGPTを活用して思考力を鍛える方法を編み出すべきだとしています。一方で、エントリーシートの作成にChatGPTが使われている現状を問題視し、企業は学生の専門知識を評価すべきだと提言もしています。

 大学には、ChatGPTの登場によって専門家育成の必要性が薄れ、大学の存在意義が問い直されるだろうと指摘しています。知識の伝達はChatGPTが担うようになるため、大学は社会との接点を持つ研究機関として、また学生を厳格に評価する機関としての役割に特化していく必要があるとのこと。ただし、学校での集団生活を通じて社会性を育むという役割は、AIでは代替できないととも述べています。

 野口氏は、ChatGPTを活用することで、学習者の興味関心に沿った楽しく効率的な学習が可能になると結論づけている。一方で、ChatGPTの限界にも十分な注意を払い、過度に依存することは戒めてもいます。生成AIがもたらす変化の中で、人間にしかできない高次の判断や創造性を発揮することが今後ますます重要になると著者は訴え、我々が新しい時代の教育のあり方を模索していく必要性を説いています。

 人工知能は確かに学習の強力な助けにはなる、ただ、真の学びは人間の営みであり続けるというのが、本書の根底にあるメッセージでしょう。我々は生成AIを適切に活用しながらも、自ら思考し、他者と協働し、時に試行錯誤しながら学んでいく姿勢を忘れてはなりません。本書は、ChatGPTを単なる便利ツールとしてではなく、人間の知性を引き出すパートナーとして、どう付き合うべきかを改めて考える材料となるでしょう。

人事領域ではどのように活かすべきか

 野口氏の『ChatGPT「超」勉強法」』の中で展開されるChatGPTを活用した学習方法は、教育のみならず、ビジネス世界、特に人事領域における人材育成や採用戦略においても多くの示唆を与えています。これは、新しい技術が人材開発や組織運営の方法をどのように変えうるかを考える良い機会となります。

人材育成におけるChatGPTの利点

 ChatGPTを活用した教育がもたらす最大の利点は、個別化された学習経験の提供です。従業員一人ひとりの学習スタイルや進度、興味に合わせて、柔軟に対応できる教材や情報を提供することができます。これは、伝統的な集団研修では難しいことです。特に新入社員教育やリーダーシップトレーニングにおいて、ChatGPTを利用することで、参加者が自分自身の課題に対して自ら答えを見つけるプロセスを通じて、深い理解と実践的なスキルを身につけることが可能になります。

 また、ChatGPTの能力を活用して、従業員が仕事の中で直面する具体的な問題に対するソリューションを模索するプロセスを支援することも考えられます。例えば、マーケティング戦略を立てる際に、関連する市場データや消費者トレンドについてChatGPTに問い合わせることで、より迅速かつ広範な情報収集が可能となり、戦略立案の効率化が図れます。

採用活動におけるChatGPTの活用

 採用プロセスにおいてChatGPTを活用する場面としては、応募者の選考プロセスの一環として、ChatGPTによる初期スクリーニングが挙げられます。取り扱いには注意が必要ですが、応募者から提出された履歴書やエントリーシートの内容をChatGPTが解析し、求めるスキルや経験にマッチする候補者を事前にフィルタリングすることで、人事部門の負担を軽減できるでしょう。また、応募者との初期コミュニケーションをChatGPTを介して行うことで、より迅速なフィードバックを提供し、応募者のエンゲージメントを維持することができるでしょう。

 しかし、ChatGPTの活用には課題もあります。特に、応募者がChatGPTを用いてエントリーシートを作成することにより、その人物の実際の能力や思考プロセスを正確に把握することが困難になる可能性があります。このような状況を踏まえ、面接や選考プロセスの中で、人間が持つ独自の判断力や洞察力を活かすことが一層重要になります。たとえば、面接においては、応募者が提出した資料を超えた深い対話を通じて、その人物の価値観や動機、解決能力を見極める工夫が求められます。ここは、面接力も求められるところになります。

組織文化とChatGPT

 ChatGPTをはじめとするAI技術の活用は、組織文化にも影響を及ぼします。従業員が日常的にChatGPTを用いることで、知識の共有や学習の促進がより自然なものとなり、組織全体の学習能力が向上する可能性があります。しかし、これには組織内でのAI技術への理解を深め、適切な使用を促進するための教育やガイドラインが必要でしょう。また、AIの使用がもたらす倫理的な問題やプライバシーの保護に関する懸念にも対処する必要があります。課題は多くありそうです。

まとめ

 『ChatGPT「超」勉強法」』を通じて提案されるChatGPTの活用方法は、教育分野だけでなく、ビジネスの現場、特に人事領域においても多くのインスピレーションを提供しています。人事部門は、これらの技術を効果的に活用することで、人材育成の効率化や採用プロセスの最適化を図ることが可能です。しかし、技術の進化に伴う課題にも適切に対応し、人間の能力とAI技術の長所を最大限に生かすバランスを見つけることが求められます。

 最終的には、AI技術を活用しながらも、人間が中心となって判断し、創造し、協働することの価値を再認識することが重要であり、この点が本書が提唱する学習法の本質と言えるでしょう。人事部門にとっては、これからの時代を見据え、新たな技術を取り入れつつ、その中で人間性をどのように育んでいくかが、大きな課題であり続けるでしょう。

教育と技術の融合が見事に表現されています。未来的な図書館の中で、様々な年齢層の学習者たちが、AIを活用して知識を深めている様子が描かれています。外国語の練習にはホログラフィックディスプレイが、数学的な問題解決にはバーチャルAIチューターが用いられており、学習へのアプローチが多様化していることが伺えます。この画像は、AI技術、特にChatGPTのような生成AIが人材育成や教育分野でどのように活用され、それが持つ可能性と課題を象徴しています。柔らかな照明と開放的な空間は、知識と技術の調和を感じさせる暖かく招待的な雰囲気を作り出しています。



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