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【書籍】細部に宿る卓越性: ミシュラン三つ星、米田肇氏からから学ぶ組織運営の極意

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp282「9月1日:「三つ星」を取れる人と取れない人の差
(米田 肇 HAJIMEオーナーシェフ)」を取り上げたいと思います。

 米田氏のミシュラン三つ星獲得に向けた洞察は、料理の世界における成功の要素を詳細に解説しています。米田氏の見解では、三つ星を獲得するかどうかの分かれ目は、全てのシェフが頂点を目指し日々努力する中で、細部に対するこだわりの度合いにあるとされます。このこだわりは、料理がわずかに焼き過ぎた場合にも明確になり、米田氏自身がスタッフからの質問に対して、その微妙な差異を見極めることの重要性を語っています。このような微細な差異への追及が、料理の品質管理に大きな影響を与え、結果的にミシュランの評価にも反映されるというのです。

 米田氏は、一流のプロフェッショナルに必要な要素として、高品質な仕事の実行とその継続性の二つを挙げています

私は一流プロの条件は二つあると思っていて、一つは高品質な仕事をすること。そしてもう一つはそれを継続して行うことです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p282より引用

彼の考えによると、日々の努力の積み重ねと、小さなミスにも真摯に向き合う姿勢が、技能の向上と成長に不可欠です。また、2012年に自身が行った改革後にミシュラン二つ星に格下げされた経験から、料理のレベルや安定感を評価するミシュランのプロセスを理解し、それを踏まえた上での再評価を経て三つ星を再獲得した経緯を述べています。これは、一流を目指す上での過程と評価の理解がいかに重要かを示しています。

 さらに、米田氏は坂村真民の詩「本気 本腰 本物」を引用し、それぞれの概念がプロフェッショナルとしての成功においてどのような意味を持つのかを解説しています。「本気」は自分自身が設定した限界を超える意欲、「本腰」は全ての責任を受け入れる覚悟、「本物」は流行に流されず、固有の中心軸を保持する能力を意味します。これらはすべて、変化する時代や流行の中でも、自身の信念を貫き、高い品質を維持し続けるために必要な資質です。

 坂村真民さんの詩に「本気 本腰 本物」とありますが、本気とは、自分で勝手に決めてしまっている限界を超えることだと思います。車のリミッターと同じで、本当は三百キロ出せるエンジンがついているのに、百八十キロまでしか出せない設定にしている。そのリミッターをカットし、真の力を出すには本気になって打ち込むのみです。
 本腰とはすべての責任を背負う覚悟。いつも逃げ腰で、人のせいにするような中途半端な人間は成長できません。
 そして本物とは、ぶれない中心軸を持つこと。時代や流行はどんどん変わりますが、本筋って意外と変わっていなくて、それに気づける人が本物でしょう。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p282より引用

 米田氏の言葉からは、ミシュラン三つ星を目指すシェフに限らず、どの分野においても一流を目指す者が持つべき姿勢と価値観が浮かび上がります。それは、日々の細かなことに対する注意とこだわり、持続可能な高品質の追求、そして何よりも自己の限界を超える努力と責任感です。これらの要素は、目標達成のためには欠かせないものであり、プロフェッショナルとしての成長と成功への道を照らしています。

人事の視点から考えること

 ここでは、ミシュラン三つ星を獲得するために必要な要素と人事管理や組織運営における成功の要素がどのように重なり合っているかを掘り下げ、その相互作用を詳細に解析することでさらに深く理解を深めることを実施しまてみたいと思います。。料理の世界での極めて高い成功と、ビジネスや組織運営での成功の共通点はあるのでしょうか。

細部へのこだわりと人事管理

 ミシュラン三つ星のような最高峰を目指す場合、細部にわたるこだわりが不可欠です。これは、人事管理においても、従業員一人ひとりの能力や特性を精密に理解し、その上で最適な配置や育成を行うことに相当します。

 たとえば、個々の従業員が直面している困難や課題を見逃さず、それに対してカスタマイズされたサポートを提供することで、個人のパフォーマンスだけでなく、チーム全体の成果も最大化できます。ミシュラン三つ星の料理人が原材料の選別から調理、盛り付けに至るまで細かな部分にこだわるように、人事部門も従業員一人ひとりの強みや弱み、興味関心、スキルセットなどを徹底的に把握し、それに応じた適切な役割と責任を与えることが重要となります。このようなきめ細かな配慮と管理を通じて、従業員の潜在能力を最大限に引き出すことができます。

日々の努力と成長の継続性

 料理での成功が日々の継続的な努力に依存することは明白ですが、これは人事管理においても同様です。従業員の能力開発やキャリアパスの設計においては、一時的な成果ではなく、長期にわたる成長と学習へのコミットメントが求められます。

 例えば、継続的な学習機会の提供、キャリア開発のためのメンタリングやコーチングプログラムの導入など、従業員が自らの能力を継続的に向上させるための サポート体制を整えることが重要です。一流の料理人が日々練習と実験を重ね、新しい調理技術や素材の組み合わせを探求し続けるように、従業員一人ひとりにも自己研鑽の機会を与え、スキルアップを後押しすることが不可欠なのです。長期的な視点に立って、従業員の成長を支援し続けることで、組織全体の実力は着実に向上していきます。

品質の維持と継続性

 高品質な成果を出し続けることは、ミシュラン三つ星獲得のみならず、ビジネスの世界においても同様に重要です。人事管理におけるこの原則は、従業員のパフォーマンスマネジメントや評価システムの設計と密接に関わっています。定期的なフィードバックの提供、目標の明確化、達成度の測定といったプロセスを通じて、従業員が一定の品質を保ち、さらにはそれを超える成果を目指すように動機づけることができます。ミシュラン三つ星レストランが、常に最高の味と品質を維持し続けるために、厳しい自己点検と改善を重ねているように、従業員一人ひとりにも、自らの業績を振り返り、課題を発見し、改善点を見出す機会を設けることが不可欠です。上司や同僚からの建設的な指摘や意見も参考にしながら、質の高い成果を持続的に生み出せる環境を整備することが求められます。

変わらない中心軸と組織の理念

 時代や流行が変わっても、変わらない中心軸、つまり組織の核となる価値観や理念を持つことの重要性は、どの分野においても共通です。人事部門は、この中心軸を明確にし、組織文化として根付かせる役割を担います。具体的には、採用からオンボーディング、継続的な教育プログラムに至るまで、組織の価値観を反映させ、従業員がこれを共有し、実践できるようにすることが重要です。一流の料理人が、伝統的な調理法や食材の組み合わせを大切にしながらも、新しい試みを取り入れていくように、組織も基本的な理念を守りつつ、時代に合わせた進化を遂げていく必要があります。採用段階から、組織の中心となる価値観を明確に示し、入社後の研修を通じてそれを浸透させていきます。さらに、日常業務の中でも、価値観に基づく行動を評価し、促進することで、組織文化の維持と発展を図ります。

具体的なアプローチと戦略

 これらの考え方を、実際の組織運営に生かすためには、具体的なアプローチと戦略が必要です。例えば、細部へのこだわりを実現するためには、従業員のスキルや能力を細かくマッピングし、それに基づいた個別の成長プランを作成する必要があります。また、日々の努力を促進するためには、継続的なフィードバックと正しい目標設定が欠かせません。品質の維持と継続性を確保するには、パフォーマンスの評価とフィードバックを定期的に行い、改善点を明確にすることが重要です。そして、組織の中心軸を維持するためには、組織のミッション、ビジョン、価値観を定期的に見直し、それらが従業員に浸透しているかを確認する必要があります。

 具体的な施策の一例としては、スキルマップの作成と個別の育成計画の策定が挙げられます。各従業員の強み、弱み、希望するキャリアパスなどを詳細に把握し、それに基づいてオーダーメイドの研修プログラムや配置転換、昇進などのキャリアデベロップメントプランを設計します。また、定期的な目標設定と振り返りの機会を設け、上司や同僚からの建設的な指摘を受けられる場を設けることで、日々の努力を促し、質の高い仕事を維持することができます。さらに、組織の理念や価値観を社内の各種研修やイベントで繰り返し共有し、実際の業務においてもそれらに基づいた行動を評価していくことで、組織文化の醸成を図っていきます。

 このように、ミシュラン三つ星を獲得する過程で重要となる原則を、人事施策や組織マネジメントに取り入れ、具体的な施策を講じることで、持続的な成功と組織の発展を実現することができるでしょう。料理に限らず、あらゆる分野で卓越した成果を生み出すためのエッセンスは共通しており、それらを体現することが求められています。

まとめ

 ミシュラン三つ星を獲得するための努力や姿勢は、人事管理や組織運営においても極めて有効な示唆を与えます。細部へのこだわり、日々の努力と成長の継続性、品質の維持、そして変わらない中心軸の維持は、どのような分野でも成功への鍵となります。これらの原則を組織運営に取り入れ、具体的なアプローチと戦略を通じて実践することで、組織と従業員は共に成長し続けることができるでしょう。人材こそが最大の資産である現代ビジネスにおいて、ミシュラン星付きレストランに見られる徹底したこだわりと努力を人事管理に取り入れることは、組織の持続的な発展に大きく寄与するはずです。

ミシュラン三つ星を目指す情熱と精神性が人事管理や組織運営に応用された場合の様子をイメージしています。細部へのこだわり、日々の努力、品質の維持と継続、そして変わらない中心軸の重要性が、様々な活動を通じて描かれています。画像の柔らかな画風は、努力と成長の過程における温かみと人間味を感じさせます。この環境では、従業員一人ひとりが個性を活かしながらも、共通の目標に向かって協力し合う文化が育まれていることが伺えます。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。


『致知』2023年5月号に岸田周三シェフと対談もされました。

 この対談は、米田氏と、フレンチレストラン「カンテサンス」のオーナーシェフ、岸田周三氏が、料理人としてのキャリア、哲学、そしてミシュラン三つ星を獲得するまでの道のりについて語り合う内容です。二人のシェフは異なる背景を持ちながらも、高い目標を追求する過程で共通の価値観や哲学を共有しています。

 米田氏は、26歳で料理の道に進む決意を固め、辻フランス料理専門カレッジを経て、大阪と神戸のレストランで経験を積みました。フランスへの渡仏後、ミシェル・ブラスでの修業を経て、35歳で「HAJIME」をオープン。独特のクリエイティビティと完璧を求める姿勢で、オープンから1年5ヶ月でミシュラン三つ星を獲得しました。その後、フランス料理の枠を超えた独自の料理を追求し続けています。

 岸田氏もまた、料理人を目指す夢を持ち、名古屋調理師専門学校を卒業後、フランスへ修業に行きました。パリの一流レストランでの勤務を経て、帰国後に「カンテサンス」をオープン。素材の持ち味を最大限に引き出す料理で高い評価を得ています。また、岸田氏は、フランスでの経験から学んだ「素材と対話する」ことの大切さや、チームワークと環境への配慮を重視する姿勢を強調しています。

 対談では、二人のシェフが料理への情熱、自己研鑽の重要性、そして困難に立ち向かう勇気について語り合っています。米田氏は、フランスでの修業時代に学んだ「完璧を求め続けること」の大切さを、岸田氏は、若い頃に自分が立てた「三十歳までに料理長になる」という目標と、それを実現するために具体的な行動を起こした経験を共有しています。二人は、料理を通じて常に挑戦し続けることの重要性を強調し、料理人としての成長は、自ら積極的に学び、行動することから生まれると語っています。

 また、両シェフは、料理人として成功するためには、自分自身で問題を見つけ、改善案を考える能力が重要であること、そして何よりも自分の料理に対する信念を持ち続けることの大切さを強調しています。彼らの対談からは、高い目標を持ち、それに向かって努力し続けることの重要性が伝わってきます。これらの教訓は、料理人だけでなく、あらゆる分野で夢を追い求める人々にとっても価値のあるものです。

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