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【書籍】心の持ち方が未来を創るー尾車浩一のリハビリと再起」

『一生学べる仕事力大全』(致知出版社、2023年)のp170「怒濤の人生、かく乗り越えん(尾車浩一 尾車部屋親方)」を取り上げたいと思います。

 尾車浩一氏(元大関琴風)は、相撲界で長年活躍した後、巡業部長として務めていた2012年に、公演中の事故で首を強打し、脊髄を損傷するという大怪我を負いました。この事故により四肢麻痺と診断され、一時は全く動くことができない状態に陥りました。しかし、尾車氏は長期にわたる手術とリハビリを経て、杖をついて歩けるまでに驚異的な回復を遂げました。このような困難な状況を乗り越えた彼の経験は、多くの人々に大きな影響を与えています。

 尾車氏のリハビリ過程は非常に厳しいものでした。リハビリの専門家たちと共に、日々の厳しい訓練を重ね、少しずつ身体機能の回復を目指しました。特に、彼が力を入れたのは、失われた四肢の動きを取り戻すための訓練であり、その過程で「一日一ミリの進歩」を心掛け、絶え間なく努力を続けました。この地道な努力が、彼の身体能力を少しずつ回復させる原動力となりました。

先生から「神経は一日一ミリ伸びていくから、最初は効果が見えなくても絶対に希望は捨てちゃダメだ、いや、捨てないでく「ださい」と言っていただいたことも支えになりました。

『一生学べる仕事力大全』(致知出版社、2023年)p174より引用

 事故の報道を受けた多くの人々は、尾車氏の元気な姿とは異なる、突然の不運に深い衝撃を受けました。しかし、彼自身はこの困難を乗り越えるために、相撲で培った精神力を最大限に活用しました。特に、相撲指導者としての経験から、「心の持ち方が人生を左右する」という信念を持ち続け、それを自らのリハビリにも活かすことで、困難に立ち向かっています。

 尾車氏は現役時代、多くの怪我に見舞われながらも、その都度回復し、相撲界での地位を確立しました。この経験が、重度の怪我からの回復においても彼の大きな支えとなっています。彼は怪我を乗り越える中で、「怪我に泣いて、最後には笑う」という心持ちで日々を過ごし、多くの人々にその姿勢を示しています。

 現役時代、サインを求められると「稽古に泣いて土俵に笑う」と書いていました。怪我をして休場した時は、「この日のことを笑って話せる日が来るまでは絶対に泣かないぞ、辞めないぞ」と思ってリハビリをしてきました。今回も一緒です。この怪我によって私も、弟子も、家族も、一度は笑いを失いました。だけどもう一度心からの笑顔を、笑いを取り戻したい。最後には絶対に笑ってやる。
「怪我に泣いて、最後に笑う」
 いまはそんな気持ちでいます。

『一生学べる仕事力大全』(致知出版社、2023年)p179より引用

 さらに、尾車氏はリハビリ中も相撲界への貢献を続けています。巡業部長としての役割を全うする一方で、後進の指導にもあたり、自らの経験を生かした教育を行っています。彼の指導法は、形や技術だけでなく、心構えや精神性を重視する内容であり、これが若い力士たちに大きな影響を与えています。

 尾車氏の話は、人生のどんな困難も乗り越えることができるという希望のメッセージを伝えています。彼の生き方と心の持ち方は、多くの人々にとって大きな勇気となり、彼自身の回復が「奇跡」と呼ばれる所以です。彼は今後もリハビリを続けながら、多くの人々に影響を与え続けることでしょう。

人事の視点から考えること

 尾車氏の話は、ただ単に相撲人としての逆境を乗り越えた経験以上のものがあります。それは、人生と職業における困難に直面したときの心の持ち方、リーダーシップ、および回復力についての教訓を私たちに提供します。彼の経験から学べる点は多岐にわたりますが、特に人事の観点から考察すると、以下のような重要なポイントが見えてきます。

1. リーダーとしての責任感

 尾車氏は、相撲協会の巡業部長としての役割において、リーダーシップの重要性を強調しています。リーダーは、単に指示を出す立場にあるのではなく、部下やフォロワーに対して模範を示し、支援を提供する責任があります。彼の場合、身体的な障害にもかかわらずその役割を全うしようとした姿勢は、リーダーが直面する困難に立ち向かうべき姿勢を示しています。

2. 困難に対する精神的アプローチ

 尾車氏の心の持ち方は、特に人事の観点から見ると、組織内での困難やストレスに直面した際の精神的な強さを育てるためのモデルと言えます。困難に直面した際には、その状況を乗り越えるための心理的な準備と回復力が必要です。尾車氏は、怪我という極限状態下でも前向きな心持ちを保ち続けることで、不可能と思われる目標に向かって進む姿勢を教えています。

3. モチベーションとエンゲージメントの向上

 尾車氏は、自身と部下に対して常に高いモチベーションを求めています。これは、人事において非常に重要な要素であり、従業員が自分の仕事に対してどれだけ熱心であるかが、そのパフォーマンスと直結します。彼のように、個人的な挑戦を乗り越える姿勢を示すことで、他の従業員のエンゲージメントを引き上げることができます。

4. 教育とトレーニング

 尾車氏の話からは、教育とトレーニングが持つ回復と成長への力も見て取れます。リハビリテーションプロセスにおいて、彼は一貫して学び、自己を向上させることに注力しました。この考え方は、職場での継続的な学習と個人の開発にも応用可能です。従業員が新しいスキルを学び、挑戦を乗り越える能力を身につけることは、組織全体のレジリエンスを高めることに寄与します。

5. 組織文化とコミュニケーション

 最後に、尾車氏は、どんな状況でもチームや組織と密接にコミュニケーションを取り続けることの重要性を示しています。困難を共有し、支援を求めることは、逆境を乗り越えるうえで欠かせないプロセスです。これは、企業が従業員との間に透明性を持ち、信頼関係を築くための良い例といえるでしょう。

 尾車氏の経験は、個人の逆境だけでなく、職場での日々の課題に直面する際の心構えやアプローチにも多くの洞察を与えてくれます。彼の物語から得られる教訓は、人事管理の専門家にとっても、より良い職場環境の創出と従業員のポテンシャルの最大化に向けた重要なガイダンスとなるはずです。

重大な怪我からの素晴らしいカムバックを遂げた姿が描かれています。前景には、杖をついて歩く尾車氏が描かれ、彼の回復への意志と決断の証としています。周りには医療専門家やリハビリの専門家が彼を支え、厳しいトレーニングを行っています。背景には相撲の土俵があり、彼の過去の栄光を象徴しています。柔らかい自然光が場面に希望と粘り強さを感じさせる雰囲気を加えています。


 792頁にのぼる大作です。まさに仕事のバイブルとなります。名経営者のインタビューや伝説の名講演、一度きりの師弟対談、創業者同士の対談などが、54話を収録されています。



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