「小世界大戦」の【記録】 Season1-16
吾郎は、涼美の一言が気に掛かっていた。
「あたしのような子・・・?」
吾郎は少し訊くのを躊躇した。
考えれば、恋人であって、結婚を約束したにもかかわらず、
吾郎は涼美の「家庭」とか生い立ちとかは、
おぼろげにしかわかっていなかった。
考えればバカな話で、
こうやって同棲までしてるのにもかかわらず、
おたがい込み入った「家庭」の話はあまりしてこなかったのだった。
それは、吾郎にも同じ事が言えた。
涼美に説明するには少し複雑な家庭環境だから、
別に話もしては来なかったという経緯はあったのだ。
そして、涼美もまた、あまり自分の「生育」については話さなかった。
・・・そうだった。考えれば、お互いわからない事だらけだったのだ。
だけれど、お互い、なんとなく触れられない感じが
自然とあったのかも知れない。
「うん、ちょうどよかった・・。」
涼美はショーツをはき、素肌にそのままTシャツをかぶると、
吾郎の真向かいにちょこんと座ってじっと見つめて言った。
「吾郎ちゃん、あたしの名前言ってみて。」
「え???」
突然のむちゃぶりの質問に、吾郎はうろたえた。
「ゆうき、すずみ」
「うん、そうだよ。でも、まずその結城という名字をはずしたいんだな。」
吾郎は単純に涼美の甘えのような気持ちでいた。
「涼美ちゃん、結婚したら名字が変わるじゃん。」
「・・うん、そうだけど・・。」
涼美はふうっと小さなため息をついたあと、
もう一度吾郎を見た。
「ね、吾郎ちゃん、ホントにあたしと結婚してくれる?」
意外な言葉だった。本来なら逆なのだ。
吾郎は大きくうなずいた。あたりまえの事じゃないか。
と、そんな事を思ったが、涼美は少し寂しげな目をした。
「うん、よかった、それ聞いて安心した。」
そういって吾郎に抱きつき、小さく口づけをした。
そのあと、じっと吾郎を見据えながら、
涼美は正座をした。
「酒巻吾郎さんに、結城涼美の生い立ちについて
お知らせしたい事があります。」
「え??」
涼美はそのすんだ大きな瞳を吾郎に向けて、
凜とした雰囲気でそこに座っていた
・・・何を言い出すのだろう・・・。
「吾郎ちゃん、ホントの事言うとね、
あたし、自分の本当の名前知らないんだ。」
「え・・・?」
To be CONTINUE
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