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「小世界大戦」の【記録】 Season1-9


「すべては、学校再建への戦略ですね。ぼくはそう分析しました。」

財前先生は、まるで評論家のような口調でそう話し始めた。
満仲は、途中参加した瀬野先生と息が合って
なんだか盛り上がっていた。
そのこともあってか財前先生は、
もっと核心的なことを話してきた。

「結論は、本間の仲間の親が、金を動かして、
さらには羽田校長が人事を動かしたって事です。」
「・・つまりは、なかったことに?」

財前先生はしずかにうなずいた。

「まずは。イメージ戦略ですよ」
「・・・というと?」

「文部省指定の生徒指導研究指定校。って、どういうイメージ沸きます?」
「このご時世ですから、ずいぶんと前向きな学校だと・・。」
「そうです、そこなんです、だからみんな動く。
いや、動かざるを得ない。」

吾郎はだんだん「裏側」が見えてきたような気がした。
つまり、指定校に選定してもらう条件があった。
そういう動きで、金と人事が動いたと言うことだと。

「動かない、動けない先生のケツをひっぱたいたって事でしょうね。
だから、指定校が決まった段階で、大量の異動希望がでました。
その結果があなたたちの大量採用です。」

「・・・なるほど・・。」

吾郎はおぼろげながら、
この学校がどういうことを目指しているのかが理解できはじめていた。
そこで、ちょっとした疑問がわいてきた。

==とすれば、自分はどのように行動するべきなんだろうか==

当然と言えば当然な疑問だった。
財前先生は、それを察したかどうかわからないが、
なんとなく吾郎の疑問に答えるような感じでぽつりと話した。

「・・・細かいことはさておいて、”醒めた視点”で、方針に乗っていく。
ということかなぁ。ぼくはそういうスタンスです。」

「・・はぁ・・。」

どのみち、四の五の言える立場でもなかった。
週明けには生徒たちが普通通り登校してくるのだ。
まずは、それからだというごく当たり前の気持ちになっていた。

「ま、前夜祭です、とにかく呑みましょう、
酒巻さんや満仲さんのことも、もっと知りたいしね。」

「おう!同感だ、のも!のも!」

瀬野先生がジョッキを差し出しながら、陽気な声で言った。
どうやら、満仲と同じ思考回路を持ったキャラクターなのだと、
吾郎は密かに愉快な気持ちになっていた。

そんな中で、吾郎はあることを思い出していた。

それは祖父の事だった。

祖父は、旧軍隊にいて戦争を実際に戦ってきた人だった。
子どものころ、祖父の家に行くと
「戦友」という人たちが訪れていて、いつも酒を酌み交わしていた。
 なんだかそういう雰囲気に似ているなと、
そんなことをふと思っていた。
 たぶん、「生死の境の共有」なんだろうなぁ、と・・。

その、「共通点」が、次の日から始まる。
吾郎にはそれを知るよしもなかった、
おそらく、同期の満仲もだ。

ただ、財前と瀬野の両先輩教師は、
身にしみて知ってるに違いなかったのだ。

そうして、「前夜祭」は賑やかに終わった。

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