風に消えたスリーフィンガー
「あ!時間だ!」
時計を見る素振りの後、
僕は文化祭当日の教室を後にした。
早足で彼女との待ち合わせ場所、
山田十竹先生銅像横に向かう。
我がクラスの窓から
ちょうどよく見える場所。
友人達の視線を感じつつ
「待った?」
「ううん、今きたところ」
と定番のやり取り。
野郎どもの羨ましがる様子が
目に浮かぶ。ふふふ←性格悪し
それはさて置き、
実は少し緊張もしている。
この日は野外ステージで、
弾き語りをする予定なのだ。
甘い恋の歌を奏で、
彼女のハートを鷲掴み(予定)。
この日のために毎日練習を重ね、
土曜の夜はオールナイト!
徹夜で8時間弾きっぱなしもあった。
天気も上々。
6月の明るい日差しの中、
野外ステージは輝いていた。
「じゃあ、ここで聞いてて」
最前列ど真ん中にエスコートすると、
愛機の待つステージ裏へ。
YAMAHA-FG300s
ブリッジをヤスリで削り、
ギリギリまで弦高を下げた
手に吸い付く様な弾き心地。
「失敗する要素は何もない」
この油断が、
この後の悲劇を招いたのかも…。
「次は、2年6組ヒデマエ君、
“裸一貫、ギターで勝負”!」
司会の紹介に続いてステージへ。
譜面台に手書きのスコアを置き、
「どうも!ヒデマエです!
まずは自己紹介代わりに
一曲目“夏祭り”!」
と長渕風のオープニングをかました!
軽快なスリーフィンガー。
チラッと客席を見る余裕もある。
クラスの友達の顔もチラホラ。
ハンマリングオン!
プリングオフ!
そして歌い出す。
「夏もそろそろ終わりねと…」
その時、一陣の風が吹いた。
ルーズリーフに書いた僕のスコアは
あっという間に譜面台から消えていった。
…何かが終わった。
曲を途中で止められず、
歌詞もコードも間違いまくり。
一曲終えてスコアを拾いに行くも、
この動揺は大きすぎた。
二曲目以降もメロメロだった。
この後、彼女とどんな話をしたのか、
どうやって家まで帰ったのか、
全く記憶が無い。
教訓だけが残った。
「スコアは洗濯バサミで、
譜面台に固定すべし(野外は)」
この時の録音テープは
一度も聞けないまま手元にある。
永久封印盤。
うお〜!リベンジ、どうする!
【続く】
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