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新型コロナウイルスを分析する世界のAI企業まとめ

連日新型コロナウイルスの話題で持ち切りです。政府や国連機関だけでなく、民間企業の間でも支援の動きが多々見られていますが、ニュースで私たちが見聞きするのはマスクや金銭の寄付が中心。もちろんそれらも重要ですが、具体的に感染拡大の防止や予測という形で地道に動いている企業・機関もあります。

今回は世界各国のテック企業が、AIやディープラーニングを用いて新型コロナに対してどんな動きを見せているのか、英語メディアの情報をまとめてみました。

※一部、新型コロナ以前から公開されているサービス・取り組みも含みます。

各国AI企業の新型コロナ(と感染症)に関する動きまとめ

カナダ

Blue Dot(トロント)

日本でも一時WIREDなど一部メディアで取り上げられたのでご存じの方も多いと思いますが、世界保健機関(WHO)や中国政府に先駆け、武漢でのパンデミックをAIで“予報”したのが健康モニタリング事業を展開するBlue Dotでした。大量の外国語ニュース(1日当たり65言語10万の記事)や動植物の病気に係るネットワーク、政府機関等の公式発表、航空券の販売データを自然言語処理や機械学習で精査し、昨年の大晦日には武漢他危険地域とされた場所を避けるよう顧客に警告しています。なおWHOが今回の新型コロナについて言及したのは(当時は『インフルエンザに似たアウトブレイク』という表現をしています)今年2020年1月9日。

WIREDの記事では同社の詳しい情報が書かれていませんが、健康モニタリングと言ってもBlue Dotのサービスは感染症に特化しています。企業HPで“Global Early Warning System”と紹介されているソリューションが今回のアルゴリズムだとすると、上記材料の他にリアルタイムの天候など100以上のデータセットから導き出したことが分かります。
ちなみにSNSの情報は『ごちゃごちゃし過ぎ』なので、精査対象にはしなかったそう。

なおBlue Dotが感染症の流行を予測したのは勿論初めてではなく、17年のアメリカフロリダ州で流行したジカ熱も事前に予測していました。こちらは何と、最初の症例が発見される6カ月前。
実は同社CEOのKhan氏、2003年にSARSがアウトブレイクした際にトロントの病院で感染症のスペシャリストとして勤務していた経歴がありました。WIREDの取材に対して同氏はこう語っています。

『今はちょっとしたデジャブを感じています。2003年にウィルスが街を覆い、病院が機能不全になっているのを見ていました。精神的にも肉体的にも大変疲れてこう思ったんです。“もう繰り返さないぞ”と。』
同社が感染症に特化している理由でしょうか。

アメリカ合衆国

最も企業の情報が出てきたのは、やはりアメリカでした。

Facebook(カリフォルニア州)

Facebook社は、保健機関や研究者に向けた30メートル単位まで表示されるAIベースの人口密度マップを開発しています。

具体的には人々の居住地や動き、人口密度、そしてそれぞれがどう繋がっているかといった情報を表示するマップで、未就学児や再生産年齢(妊娠・出産できる年齢)の女性の人口密度まで掲載可能です。アウトブレイク発生の可能性がある場所や感染拡大の恐れがある地域を推定することができます。ソースは確認出来ませんでしたが、今回の新型コロナでも活用されていると推測されます。

事例として、キャンペーンで活用しているアメリカ赤十字社が挙げられます。なお、マップで使用しているのは国勢調査や衛星画像のデータであり、Facebookのユーザー情報を活用しているわけではないとのこと。

MIT(マサチューセッツ州)

こちらも新型コロナに限った事例ではありませんが、MIT(マサチューセッツ工科大学)のチームでは、承認薬や天然物を含んだおよそ2,500の分子を用いてAIに学習させ、新しい抗生物質を生成するという研究を行っています。既にマウスを使った検証までは実施済み。なんと同時に1億以上の化合物を数日間で検証することが可能なんだとか(素人にはどれくらい凄いのか分かりませんが(;´・ω・))。

Metabiota(カリフォルニア州)

サンフランシスコに拠点を置くヘルステック。新型コロナの拡大について正確な分析を行い、韓国、台湾、日本国内での感染発覚をその1週間前に予測しました。

MetaboiaもFacebook同様、“Epicdemmic Tracker”と呼ばれるマップをリリースしています(発表は2019年)。こちらはリアルタイムで世界各国の伝染病の情報をトラッキング・表示するもので、アクセスすれば無料で閲覧可能(英語)、もちろん新型コロナの情報も更新中です。

98point6(ワシントン州)

次は東海岸から。
98point6は、プライマリ・ケア(身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療)のアプリを開発する企業です。症状が出てから医者へ行くまでの確認、診断時のサポート、症状に関する疑問の解消、更にはパーソナライズされた治療の提案など一連の診療プロセスをAIでスムーズに進めてくれるサービスです。

このサービスでは通常、まずチャットbotがユーザーに現在の症状を尋ねるところから始まるところ、直近では『最近中国へ渡航しましたか?』『最近中国へ渡航した人が周りにいますか?』等、ケースによっては新型コロナを意識した質問が表示されることもあるそうです。

その質問が実際にされたかどうかは不明ですが、ユーザー2名に新型コロナの疑いがあることが判明、同社からCDC(アメリカ疾病予防管理センター)へ報告するという事案が発生しました。
(いずれの人物も新型コロナの検査・隔離まではされていない)

まだデータが溜まっていないこともあり、AIにとっては、特に軽微な症状の場合通常のインフルエンザとの区別が難しいという課題があります。98point6社のAIも基本的な症状の確認はするものの、あくまで診断を行うのは人間の医師であるという大前提が基本となっています。

イギリス

Benevolent AI(ロンドン)

AIで新薬の開発を行っているスタートアップ。
今回は既存の承認薬から、ウィルス感染拡大防止に有用なものがあるか調査しています。
方法としては、まず専門的な文献を含めた膨大な量の医療データを通じ、新型コロナウィルスの性質に則った薬をAIに探させました。
そうして吐き出された大量の選択肢を削ぎ落していった結果、通常は関節リウマチの治療に使われている薬が該当するということになったそうです。

ただ現在中国国内で実験を行う権利を有していないこともあり、同薬が実際に効果を発揮する保証はありません。創業者の一人Griffin氏曰く『(この結果を)医学的アドバイスとして受け取るべきではありません』と言っています。

マレーシア

より中国に近くキャリアと接触するリスクも高そうなアジアの国はどうでしょうか。

MYEG Services(クアラルンプール)

同国首都に拠点を置くMYEG Servicesは、2月19日に同国およびフィリピン政府に対してAIサービスの提供を行ったと発表しました。

同社のシステムは中国から入国した人物の地理的な行動・滞在履歴、心拍数、血圧といった情報に、公共交通機関の乗降者数および感染症発生率の相互参照といった膨大なデータを収集、完全自動で健康リスクのプロファイリングを行うというものです。

中国からのビジターが国内でどう動くかといった現在進行系の情報も提供できるため、政府に素早くアラートを出し、それを受け政府も感染の疑いがある人物の隔離や避難指示を迅速に出せるということです。日本政府のスタンスと比べるとかなり思い切っているように見えますが、それだけシビアな危機管理を徹底させているということですね。

中国

まず企業以前に、中国では当局が既にAI技術を用いた感染症拡大の防止策を講じています。

現在中国の主要都市の各駅では、改札を通過した利用客の体温を自動的に計測するシステムが設置されており、万が一異常な体温を計測した際は別室へ移動、キャリアであることが判明すれば当人と同じ車両に乗り合わせていた利用客へ通告する体制が整っているのだとか。
また高速道路、病院、空港でも体温を瞬時に計測するロボットが配備されています。

Megviiの記事でも触れた通り、中国政府はAIの導入が日本では考えられないほど浸透していますね。

Megvii(北京)

そのMegviiですが、2月9日に駅・空港向けの顔認識・身体認識および赤外線カメラや可視光線を組み合わせたソリューションの開発に取り組んでいると発表。
アルジャジーラによると当局直々に開発の依頼があったそうです。深い繋がりのあるMegviiならではですね。

TMiRob(上海)

特段新型コロナ向けに動いたという情報はありませんが、医療用ロボットの開発を行うTMiRob社の製品は現在中国内の病院で活躍中。UVライト等で防菌されたロボットが院内の感染者を廻り、体温等の測定から薬の配給まで人間に代わって行っているそうです。
これまでは看護師が一人ずつケアする必要があったため、体力的な問題、特に現在は感染の恐れも懸念されました。しかしロボットを導入することで10名の患者を同時にモニタリングすることが出来るようになったとか。

韓国

中国国外では感染者数が多い国の一つです。

Deargon(テジョン)

新薬の開発を行うAIプラットフォームを提供。治療に使える可能性のある抗ウィルス薬の発見にディープラーニングを使用していると述べています。

最後に

いかがでしょうか。あまりテレビや国内のメディアでは報じられない情報があったんじゃないかと思います。
色々な記事で共通して書かれていたのが、データが少ない現段階では正確な予測や診断が難しいということ。98point6の項で触れたように軽微な症状では他の感染症との差異を認識できません(この辺りは人間と同じですね)。

ただでさえデマが広がりやすい時代なので、各企業の努力には敬服しつつ、AIが算出した結論には今一度慎重になる必要がありそうです。

今回はAIに限定しましたが、他のテクノロジーを使った新型コロナ対策も英語圏のメディアでは色々出てきましたので、興味がある方はぜひ調べてみてください。

参照記事
https://www.vox.com/recode/2020/2/7/21125959/artificial-intelligence-coronavirus-benevolent-ai-treatment
https://www.predictiveanalyticsworld.com/machinelearningtimes/an-ai-epidemiologist-sent-the-first-warnings-of-the-wuhan-virus/11062/
https://artificialintelligence-news.com/2020/02/21/mit-researchers-use-ai-to-discover-a-welcome-new-antibiotic/
https://www.google.com/amp/s/mobile.reuters.com/article/amp/idUSKBN20D1WJ
https://www.google.com/amp/s/singularityhub.com/2020/02/05/how-ai-helped-predict-the-coronavirus-outbreak-before-it-happened/amp/
https://www.engadget.com/2019/05/20/facebook-ai-disease-prevention-maps-demographics-movement-network-coverage/
https://www.google.com/amp/s/jp.techcrunch.com/2019/04/18/2019-04-16-want-to-know-where-epidemics-are-flaring-up-around-the-world-metabiota-has-the-tool-for-you/amp/
https://www.statnews.com/2020/02/05/chatbots-screening-for-new-coronavirus-are-turning-up-flu/
https://www.wired.com/story/ai-epidemiologist-wuhan-public-health-warnings/
https://www.statnews.com/2020/03/04/innovation-mitigating-coronavirus-threat/
https://www.shine.cn/news/metro/2003033358/
https://www.vox.com/recode/2020/2/7/21125959/artificial-intelligence-coronavirus-benevolent-ai-treatment
https://bluedot.global/
http://metabiota.com/
https://www.epidemictracker.com/
https://deargen.me/
http://www.tmirob.com/
https://benevolent.ai/
https://www.98point6.com/

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