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スターバックスはAIやビッグデータをどう活用しているのか?

スターバックス(以下スタバ)にどんなイメージがありますか?豊富なバリエーションのフラペチーノ、ラップトップで作業するビジネスマン、東海岸らしいリベラルな社風、と意識の高い社会人から十代の女の子まであらゆる層を虜にするみんな大好きな場所だと思いますが、AIとかビッグデータの会社だと思っている人は少ないんじゃないでしょうか。

実はスタバは、そのオシャレでリベラルなイメージとは裏腹に徹底したデータ至上主義企業でもあります。店頭のメニューから公式アプリのレコメンドまで、顧客とのあらゆるエンゲージメントにおいてAIによるパーソナライズが行われていると思いきや、エスプレッソマシンのIoT化、データサイエンスによる店舗計画や商品開発、そして最近では新型コロナのワクチンにもスタバのテクノロジーが関わっています。

今回はスタバのAIと呼ばれている“Deep Brew”の驚きの機能とアルゴリズムの仕組みや、同社のデータサイエンスの多岐にわたる活用シーンを取り上げたいと思います。あなたが次にスタバへ行った時、目に入る色々なものがこれまでと違って見えるかも知れません。

スタバのAI と呼ばれている“Deep Brew”とは?

Deep Brewは、Microsoft社のAzureをベースに開発されているスタバ独自のAI。名称はIBMが20年以上前に開発したチェス対決で有名なディープ・ブルーと『(コーヒーを)入れる』という意味の“brew”から来てる気がします。

Deep Brewが実現してきたこと

Deep Brewは強化学習型のAIです。強化学習とは、トライ&エラーを繰り返し、フィードバックを得ることで状況に応じたベストアンサーを導き出していく機械学習の方法を指します。2017年の運用開始以来、後述する様々なポイントでスタバの事業を支えています。

エスプレッソマシンのIoT化

スタバの店頭ではマトレーナというエスプレッソマシンが使われているのですが、このマシンはAzureとリアルタイムで同期されており、コーヒーの抽出の記録を一カップずつすべてデータセンターに集約、モニタリングすることが可能となっています。いわゆるIoTですが、これによりマシンの不調をすぐに察知、故障で店舗における提供スピードがスローダウンする前に先手でメンテナンス等を手配出来るという訳です。

出店計画

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地域の所得水準、人口、交通量、競合店の有無などから売上や利益を予測し、出店に最適なロケーションを分析します。凄いのは既存のスタバ店舗もちゃんと考慮に入れられており、近隣に出店した場合に既存店の売上へ与える影響まで予測してくれるそうです。

メニューを動的に制御

注文時の時間や当日の天気、顧客、場所に応じてメニュー画面を動的に変更。その時々でオススメのドリンクやフードを変えながら運用しています。商業施設や駅で見かけるデジタルサイネージを用いたデジタルメニューの形を取っており、2021年3月時点では約3,800店舗にてドライブスルーでも活用されています。

ドライブスルーに関して言えば、パンデミック以降、多くのファストフード店はここの顧客体験を快適にするための施策としてメニューの削減や変更を行ってきました。サプライチェーンへの懸念などパンデミックによる影響が生じている為です。これに対しスタバはメニュー品目を減らさず、その最適化によってドライブスルーのパフォーマンスを引き上げる方法を選択しました。2021年第一四半期、スタバのドライブスルーの売上はパンデミック以前より10%も増加したそうです。なお現在は店員が操作する為のドライブスルー専用デバイスも実装が進められており、更なる提供スピードの向上が見込まれています。

商品開発

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言うまでもなくスタバには数百万以上の顧客がいますが、その傾向に着目すると購買習慣が見えてきます。膨大な購買習慣データを分析した結果、既存の品目から新商品の開発やキャンペーンが生まれることも可能となり、過去にはハロウィーンの時期にパンプキンフレーバーのドリンクがここから誕生したこともありました(今日のパンプキンフラペチーノの始まり?)。また店頭で得られたデータを家庭用、つまりスーパー等で売られているスタバのコーヒーの展開に活用した事例もあり、店頭のデータをその他のエンゲージメントで使うことにも長けています。当然アプリ内ストアでも店頭のデータが何らかの形で使われているでしょう。

在庫注文の自動化

全米数百店舗において、日々の店舗在庫の注文を自動化しています。

スターバックスリワードのパーソナライズ化

しかし何と言っても、このnoteでも度々紹介してきたプラットフォーム上におけるパーソナライズこそ機械学習の真骨頂と言えるかもしれません。スタバ公式アプリでは支払いやテイクアウトの予約、ポイントの交換等々が出来るのですが、このアプリでスタバの収益に大きく貢献しているのがスターバックスリワードと呼ばれるポイント制度。

スターバックスリワードとは、簡単に言うと購入等で貯まったポイント(アプリ内では“Star”と表現)をスタバ商品と交換出来るシステムのことです。一見やってることは普通ですがこれのパーソナライズが半端じゃありません。

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▲リワードプログラムの概要(出典:リワードプログラムHPより)

パーソナライズのアルゴリズムには以下の要素が基準として組み込まれています。

・オファーのタイプ(ディスカウントオファー、BOGOオファーなど)
・オファーを受け取る上で必要な購入金額
・オファーを受け取る上で必要なリワード
・店舗の在庫
・年齢、性別、収入
・位置情報
・アプリのアカウントを作った日付
・過去の注文履歴
・当日の天候

など…ちなみにBOGOとは“Buy One Get One”の略で、一個買うともう一個ついてくるあの割引制度のことです。

オファーはディスカウント他3種類に分けられますが、これを毎週何百万もの顧客へ内容をパーソナライズした上で送っています。もちろんそこから得られたフィードバックが更に何百万もの強化学習データとして返ってくる訳です。ちなみにオファーはアプリ内に留まらずメールでも配信されており、パーソナライズのオムニチャネル化も行われています。

余談ですが、プログラムがリリースされた2008年はパンチカードで管理していたそうです。ここから10年足らずでペーパレスどころか完全なAIドリブンにシフトしたので、時代の流れとは言えスピード感がすごいですね。

このリワードプログラムはただ顧客のロイヤリティを高めるだけではなく、アメリカ国内のデータですが、何と2020年10月時点でスタバの全収益の約50%を創出している同社の重要なサービスでもあります。なお同国のアクティブメンバーはおよそ1,930万人で、パンデミック前と比べて10%増えている計算です。

ワクチン接種率の予測

スタバは、新型コロナのワクチン接種率の予測にDeep Brewを使っています。何でスタバが保健機関みたいなことを?と思うかも知れませんが、店舗は当然に人が集まる為、ワクチンの接種率が客入りに影響を及ぼすのは想像に難くありません。接種率を観察することで各地域の収益を予測出来るという訳です。ちなみにスタバ曰く『(接種進めば)向こう2~3年は会社にとって追い風』。

言われてみれば納得出来ますが、予測技術と言うよりワクチン接種率のデータを経営戦略に活かすことがちょっと意外ですね。

それでも人と人とのつながりは無くさない

熟練のバリスタが一杯ずつ時間を掛けて、最高の豆で最高の時間を…という昔ながらのカフェも人気の一方、アメリカでは最近CAFE Xというロボットがオーダーから抽出までやってくれる完全無人のカフェまでオープンしており、実は現在カフェ業界に大きな変化が訪れているのかも知れません。業務効率化という点でプロ顔負けのデータサイエンスを駆使しており、まさに業界のリーディングカンパニーと言えます。もちろん機械学習やデータサイエンスが優れているだけでなく、データをプロダクトにする商品企画、商品を消費者に届けるマーケティングやブランディングも素晴らしいのは言うまでもありません。

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▲シリコンバレー発の完全無人カフェ・CAFE X(出典:HPより)

ただ、スターバックスはあくまで人間に拘っています。同社CEOは接種率予測の際にIoTの浸透や収益のオンライン偏重が起きても“Human Connection”、つまり店頭における従業員と顧客のやり取りは無くさないと明言しており、未来のスタバがCAFE Xみたいになることは一先ずなさそうですね。

プラスチック製ストローの廃止などCSR的な部分が取り上げられやすいスタバ。今後は世界的なデータカンパニーとしても目が離せませんね。

参照サイト

https://marker.medium.com/starbucks-isnt-a-coffee-company-its-a-data-technology-business-ddd9b397d83e
https://risnews.com/starbucks-adds-1-million-loyalty-members-it-grows-ai-engine
https://www.fool.com/investing/2021/04/29/heres-why-starbucks-ceo-is-tracking-the-covid-19-v/
https://one12th.io/2020/04/20/how-starbucks-employed-ai-for-a-better-customer-experience/
https://formation.ai/blog/how-starbucks-became-1-in-customer-loyalty/
https://robotstart.info/2019/05/14/starbucks-azure.html
https://www.businessinsider.com/starbucks-drive-thru-menu-changes-customization-orders-2021-3
https://cafexapp.com/

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