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世界各国の新型コロナ接触確認アプリに効果はあったのか?

昨年、新型コロナウィルス接触確認アプリのCOCOAが出るか出ないかの時期、日本に先立ってリリースされていた各国の新型コロナウィルス接触確認アプリ(以下、接触確認アプリ)を20か国ほど、主に利用テクノロジーを中心に紹介しました。最近はすっかりWithコロナの風潮になり、話題も接触確認アプリよりワクチンの方に集まっていますが、そろそろ接触確認アプリがどれくらい効果的だったのか、現在出ている情報をまとめました(*'ω'*)

アナログで追跡するより効率的だったか、が一つの基準

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まず何をもって効果とするかですが、仕様にバラつきがあるにしろ、接触確認アプリの目的は『濃厚接触者を追跡、隔離し、感染の拡大を抑制する』ことで大方一致しています。10年前だったら電話やメールで、各保健機関が人力で濃厚接触者に連絡するのが普通でしょうが(この追跡方法は日本では今でもメインですが...。)、スマホが一人ひとりに普及した今、従来のアナログ作業よりも効率化されているか、具体的にはアナログで追跡するよりも早く、正確な追跡と隔離が行われたかがアプリを評価する一つの指標と言えます。

大きく変わった世界の接触確認アプリ

本題に入る前に、前回と今日までの間に起こった接触確認アプリの変化について述べねばなりません。

日本でもリリースが遅いだのバグだのと話題になりましたが、接触確認アプリを巡っては世界中でも色々ありました。例えばフランスでは6月にアプリをリリースしたものの、ユーザーに殆ど使われない→濃厚接触者への通知も無いという本末転倒な状況に陥ったため同年10月に新しいアプリ“TousAntiCovid”がリリース。ノルウェーでは当初独自のフレームワークで開発・リリースしたものの、プライバシーへの懸念からGoogle/AppleのAPIへ切り替えました。イランにいたってはプライバシーを著しく侵害する仕様のためアプリストアから削除とも(;^ω^)。などなど実はリリースされた中で効果の検証まで至っているアプリはごくわずか…なので本稿でも実例は少しだけの紹介になります。

先進国はGAEN一択に

GAENとは ”Google Apple Exposure Notification”の略で、両社が共同開発したBluetoothのAPI。Bluetoothの識別子を交換してデバイス間の距離を推測、ユーザー同士で「接触」があったかどうかを判別するシステムです。GPS等ユーザー個人の行動・情報に関するデータが要らず、Bluetoothの識別子があればOK、そしてそれらを異なるOS間で展開できるため、浸透性、匿名性が極めて高いと言えます。正直これで十分では…という感じですが、当初、各国ではGAENを使わない独自開発のアプリをリリースしていました。

例えばイギリスのアプリ“NHS COVID-19 App”は国民保健サービス(NHS)の技術部門によるものでしたし、スイスやエストニアはヨーロッパ独自のプロトコル“DP-3T”でリリース。シンガポールにいたってはプロトコルの独自開発(“Blue Trace”)に留まらずニュージーランドがその導入を検討するなど、各国競うように多様なアプリをリリースしてきました。

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“NHS COVID-19 App”の紹介画像(画像:アプリ公式Facebookより)

ところが1年弱経ってどうなったかというと、少なくとも先進各国に関しては次々とGAENを導入した仕様へ「変更」しました。これには大きく2つの理由があると思われます。

①個人情報保護への配慮

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シンガポールの接触確認アプリ“TraceTogether”の紹介動画。(画像:Help fight COVID-19 with TraceTogetherよりキャプチャ)

一つは、接触確認アプリの話が持ち上がった当初から議論を呼んでいた個人情報保護への憂慮。GPSデータ等個人に関わる情報を中央サーバーに集約させる仕様は、感染拡大防止が目的とは言え批判の声が根強く、当初独自フレームワークでリリースしていたノルウェー、フィンランドは後にGAENへリプレイス。またニュージーランドも“Blue Trace”の導入を検討していたと思いきや、蓋を開けるとGAENに蔵変えしていました。現にシンガポールはアプリで収集したデータを警察が使えるようになっており、国によっては確かに本来の目的を超えた機能が実装されているようです。

とはいえ、GAENは異なるOS間でのBluetooth識別子の交換を実現するAPIで、同じようなフレームワークは各国も開発していました。それでもGAENに流れたのは何故でしょうか?というのが、2つ目の理由。

②バグが多い

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オーストラリアの接触確認アプリ“COVIDSafe”は、特定の状況下だとandroidの自動アプデが無効になるなど様々なバグが発生。ただ現在でもGAENは採用していません。(画像:アプリ公式HPより)

イギリスがリリースしていた中央型のアプリ“NHS COVID-19 App”は、アプリがiPhoneを検出するとクラッシュするというとんでもないバグが発生したこともありGAENの導入へ。日本のCOCOAも2度のバグ発生によるアプリ停止で批判の声が上がりましたが、実はいくつかの国でもアプリのバグは度々報告されており、こうした技術的な問題も背景として存在しました(日本はGAENを使っていますが)。

感染抑制効果はあったのか?

そんなトラブルを抱えつつ、あるいは乗り越え提供されている接触確認アプリですが、感染抑止効果はどうなんでしょう。早いものではリリースから1年以上経つ国もありますが、現時点(2021年4月)で接触確認アプリの効果について検証している記事・論文は少なく、今回は欧米の研究チームより出されたイギリス・スペイン・スイスの事例を紹介するに留めたいと思います。

イギリス・スイス・スペインの報告

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“SwissCovid app”(画像:アプリのアップルストアページより)

今年2月にイギリスの研究チームが出したレポートによると、“NHS COVID-19 App”ではコロナ陽性が判明(かつ濃厚接触者への通知を許可)したユーザー一人当たり4.4人分の通知が送信されたとのことで、従来のアナログによる通知数の2倍以上というパフォーマンスを発揮しました。またアプリは同月時点でイギリスの全人口中28%にDLされていますが、チームはアプリユーザーが1%増える度感染者数が0.8-2.1%減少すると試算。決して十分ではないが一定の効果を挙げていると評価しています。

またスペインのカナリア諸島で昨年7月に実施されたパイロットのデータによれば、同国の接触確認アプリ“Radar Covid app”の通知数がアナログでの作業の約2倍に達したそうです。更にスイスでは接触確認アプリ“SwissCovid app”によってチューリッヒ全体の(濃厚接触の通知を受けて)隔離措置に入った者の数が5%も増え、うち17%が検査の結果実際に陽性だったという報告が上げられました。

特に大きかったのは濃厚接触者が陽性者と同居していない場合。スイスではの通知を受けた濃厚接触者の隔離措置がアナログ追跡よりも平均1日早かったと出ています。イギリスでも同様で、こちらは1日~2日早く措置が行われていたことが判明。このように、アプリはマンパワーによる追跡よりも良好なパフォーマンスを発揮し、限定的とはいえ感染拡大の抑制に寄与したと評価することができます。

非デジタルの部分がネックに

それぞれの数値は一見少ないような気がしますが、研究チームはその効果を認めています。ただ、スイスやスペインには問題点もあったと指摘しました。

スイスの場合、保健所や病院で陽性判定が出ると被験者にコードを発行します。そのコードをアプリと連携させ、濃厚接触者に通知が飛ぶ仕組みなんですが、何とコードは各機関のスタッフが『入力』、つまりいちいち手入力する仕様となっているそうです。日本でも話題になりましたが感染拡大期の保健機関は多忙を極めている為、実際時期によっては大幅な時間ロスをもたらすこととなりました。

また同じくコード手入力のスペインは地域によってバラつきがあり、そもそもアプリを積極的に奨励せず、速やかなコードの発行も実施されていない所もあるという報告が出ています。このように、アプリが機能的でも現場や地域との連携、具体的にはUXやマーケティング、企画といった部分での詰めが足りなかった所はアプリの反省点と言えるかもしれません(ある意味前出のフランスも同じです)。
この点はアプリのアップデートで容易に直せるものではありませんが、どの道パンデミックから1年経った今、軌道修正の時期を逃している気がします…難しいですね。なおイギリスではコードの自動発行機能があり、リソース不足は解消されています。

ちなみに企画部分で言えば、マレーシアではアプリの浸透率こそ高かったものの、重量化リスクの高い高齢者が30%しかスマートフォンを所持していないことから一部で接触確認アプリ自体への疑問の声が上がりました。もっとも基本的にはどの国も保健機関による感染拡大防止がメイン、アプリは純粋な追跡の効率化というのが背景にあるため、多少のバグや使いにくさには目を瞑るべきなのかも知れません。

各国アプリの検証を待ちたい

検証した国少な!と思うかもしれませんが、早いものではリリースから1年以上経っているにも関わらずパフォーマンスについて検証している記事は非常に限られていました。いくつかの国は途中でフレームワークを変更したことも理由の一つかと思います。多くのアプリがGAENを採用したためリリース当初よりも仕様が均一になっていますが、どのテクノロジーやフレームワークが功を奏したのかを知ることで普段の開発に役立つかも知れません。検証記事が揃い次第追って追記します!(^^)/

参照サイト

https://www.technologyreview.com/2020/12/23/1015557/covid-apps-contact-tracing-suspended-replaced-or-relaunched/
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00451-y
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2021-01/qmuo-spf012621.php
https://jp.techcrunch.com/2020/10/24/2020-10-22-france-rebrands-contact-tracing-app-in-an-effort-to-boost-downloads/
https://www.technologyreview.com/2020/12/23/1015557/covid-apps-contact-tracing-suspended-replaced-or-relaunched/
https://www.freemalaysiatoday.com/category/highlight/2020/11/19/has-mysejahtera-helped-curb-covid-19/
https://blogs.lse.ac.uk/seac/2020/11/16/from-the-ground-up-malaysias-digital-space-amidst-a-pandemic/
https://www.nst.com.my/news/nation/2020/11/642630/mysejahtera-app-helped-health-ministry-detect-9167-covid-19-cases
https://www.theguardian.com/australia-news/2020/jun/17/covid-safe-app-australia-covidsafe-contact-tracing-australian-government-covid19-tracking-problems-workinghttps://www.wired.co.uk/article/singapore-covid-news-tracetogether

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