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往復しながらデザインする

この記事はGoodpatch Design Advent Calendarの23日目の記事となります。

はじめまして。GoodpatchでUIデザイン領域のDesign Leadをしている坂本といいます。
Design Lead」とは、いわゆるマネジメント職で、チーム・メンバーを持つチームリーダーです。

入社した2019年当時、デザイナーとしてプレイヤー気質がまだまだ強く、マネジメント職への興味はあまりありませんでした。
それから約2年半経ち、Goodpatchでのデザイナー経験を元に思い悩みながらもマネジメント職に挑戦することを決めましたが、本記事ではその思考の過程を振り返りたいと思います。


両軸を往復しながらデザインする

振り返る上で触れたいのが「ある両軸を往復しながらデザインする」手法です。Goodpatch入社以降、アウトプットの精度が高まる、議論が前に進む、自分の理解が深まる、など実際に成果につながった経験から徐々に癖づいていきました。
癖づき、実践していくなかで、デザイナーとしての価値観の変化が起こり、視野が大きく開けたと感じています。

往復するのは具体的にどんな軸か?何を得られるか?についてと、自身の価値観の変化にどう繋がったか?についてそれぞれ見ていきたいと思います。

抽象と具体

まず一番初めに思い浮かび、よく意識するのが「抽象と具体」です。目に見えるものづくりをするのがデザイナーの価値だと疑うことなく確信していたこともありましたが、Goodpatchでその確信は良い意味で揺らぎ崩れました。

GoodpatchのUIデザイナーは参加するプロジェクトにおいて多種多様なアウトプットを作成しますが、アウトプットたちが表す内容には抽象度/具体度にかなり幅があります。
たとえば、UX5段階モデル上で表層に位置する最終的にユーザーが目にする状態に近いアウトプットも制作します。また一方で、要件や構造に位置する抽象的な概念を視覚化・具体化し、ステークホルダーの共通認識化を促すこともあります。
デザイナー職のなかでもこの軸の振り幅が大きい職種なのではないかと感じています。そして、重要なのは往復することで、一辺倒に片方だけを突き詰めても煮詰まってしまうところを行ったり来たりを繰り返すことで着実に前進させられる価値があります。

デザイナーがコミットする対象はどうやら自分が思っているより広いらしい、と感じはじめたきっかけの軸です。往復することの効用を感じた軸でもあります。

定性と定量/情緒と合理

2組の軸ですが、UIデザインにおいて常に悩ましい思いをさせてくれる軸です。

定性と定量
事業とユーザーを繋ぐ接点をデザインするのがUIデザイナーと考えているので、ユーザーと事業の理解は重要です。
Goodpatchに入社してから、仮想的にユーザーと対話するユーザーインタビューの経験が飛躍的に増えました。クライアントの上層部に位置する方へのエグゼクティブインタビューも未知でしたが経験しました。
それらのインタビューから抽出される事実は事実でありつつ、解釈の余地が大いにあります。そこを主観をもって切り込み、ひとつの解に落とし込むのがデザイナーの職能であると思うのですが、簡単ではないなと思います。

情緒と合理
情緒的価値、非言語的な表現にデザイナーとしての価値を感じてキャリアをスタートさせたのですが、UIデザイン領域に取り組みはじめると徐々に認識は変化していきました。思考があっていたんだと思います。
普段より合理を積み上げてデザインを進めますし、数値の事実が意思決定の重要な指標になることを痛感しています。一方でやはり、UIデザインにおいても情緒的価値が捨て置かれている訳では決してありません。
目標は体験価値の最大化なので、どちらかに寄せれば達成されるような単純さは感じません。

往復しながらもバランスをとることが必要と共通して感じた2つの軸でした。

理論と実践(実際)

デザインにおいて、正しさと実現性を兼ねる良さの体現につながりうるのが「理論と実践(実際)」だと思います。
理論なくして原理原則に基づくデザインはできませんし、実践(実際)なくして千差万別に状況の異なる事業領域、案件特性の不確実性に対応しながらプロダクト・事業を世に出すことはできません。
プロダクト全体としても、ある画面のデザインひとつをとっても、両軸から何度も検討を重ねることになります。どちらか一方だけを重視しては、頼れるデザインパートナーにはなり得ないと考えています。

専門性の高いデザインスキルの成長を支援する上でも、この両軸を意識することは不可欠でした。成長支援の観点で理論と実践を考えると、理論なくしてプロセスの全体像や背景を掴むことはできませんし、実践なくして再現可能な状態にスキルレベルを持っていくことは難しいです。
以前、講師として参加させてもらっていた社外講義でも、この両軸のバランスを取りつつ講座を構成したことがうまく作用したと思っています。
その後担当した新入社員向け研修の設計でもそのノウハウを活かせたことから、研修をうける側のメンバーにとっても、理論と実践を通じてGoodpatchの持つデザインプロセスを体得していくことは理にかなっているようでした。

現場で手を動かさないと実現できないことがあり、かつ、手を動かすだけでは得られないことがあると実感した軸でした。プレイヤーへのこだわりは持ちつつも、それだけでは達成できないことがありそうだという視座の高まりと個としての万能感の喪失を伴う実感です。

事業と組織

直近、大きく関心を高めている軸が「事業と組織」です。

事業と組織、この2つの軸のどちらも重要なデザイン対象だと知ったのは、入社して1年ほど経ってからでした。この知覚はデザイナーとしてのパラダイムシフトだったと思います。

以前はデザイナーがデザインすべき対象をもっと狭く認識していました。
UIデザイナーでいうと、あくまでプロダクトのデザインをする職であり、その裏側にある組織はプロダクトの質とはまた別の世界だという理解です。結論それは誤りだったと思います。

最大のきっかけは代表の土屋から「プロダクトの質を追求するには、それを創る組織の充実が不可欠」と教えてもらったことでした。デザイナーとしてどんな価値提供をしたいか、ということだと思います。

ある時点での質の高低を見ても仕様がなく、継続して担保されているか、向上しつづけているかが重要なはずで、その意味で土台になる組織が崩壊していてはいけません。
また、プロダクトの質をあげることはHOWの一つであり、成し遂げたいのはクライアントのビジネス的成果だとすると、プロダクトの良し悪しだけに目を向けていてはいけません。
ひとつめはただ不明だったゆえの気付きですが、ふたつめは職能の宛先がなくなる、無力化されるような気づきでした。(Goodpatchに依頼いただく場合そういった要望であることは稀だと思うのですが。)

これがLeadに挑戦している理由に強く結びついています。
・組織を対象としたデザイン能力を高めること
・職能を拡張すること
大きくは上記2つの目的達成に集約されそうです。どちらも独力では為し得ません。
GoodpatchにおけるLead職とは、マネジメント職でもあるし、組織行動を先導するプレイヤーでもあると理解しています。その理解であれば目的を達成できると考えました。
(もちろんマネジメント職なので事業成長への寄与は大前提かと思います。)

事業

Goodpatch独自のプロセスを携えてUIデザイナーはクライアントワークにて価値提供していますが、オペレーションエクセレンスの観点で向上する余地があると考えています。その整備・土台づくりをする施策を進めていたりします。シニアデザイナーの協力を仰ぎながら先導を試みています。

また、職能を拡張すべく、新たな提供価値を探索しています。プロダクト以外の宛先の探索や、そもそもの職能の抽象化をすることで応用範囲が拡がる余地はあるのだろうと考えています。
デザインパートナー事業とは別にクライアントとなりうる世の事業・経営者の理解をさらに深めていくための挑戦もしていて、そこで得た視点も活かせそうです。

組織

先述の通り、デザイナーの成長支援にも関わっています。デザイナーが資本の事業なので成長支援施策は複数ありますが、中でも研修の形式で仕組み化し、新卒・中途問わず新しく入社したメンバーがGoodpatchのデザインプロセスを漏れなくキャッチアップできるよう施策の先導を試みています。
また、チームを持つことで直接的な成長支援や組織デザインにも注力しています。

まとめ:手法について

「両軸を往復しながらデザインする」ことで良い成果を得られたという成功体験が、事業と組織の両軸に触れることを動機づけ、Leadへの挑戦を後押ししてくれたのは間違いありません。そして、まだ未熟ですが、Lead業務を勤める上でもこの動き方は役立ってくれています。

具体例にいくつか触れてきましたが、「両軸」といっても二元論的思考をしたいのではなく、その間のグラデーションに目を遣り、バランスをとるのが有用と理解しています。片方しか見えていなければバランスの取りようもないはずなので、まず認識することが自分にとっては重要でした。
また、軸自体を極と捉えるなら両極を突き詰めて拡張する・高めるのも重要に感じています。これまで触れてきた軸たちも往復する振り幅が大きいほど、得られる成果も高まりそうです。

おわりに

おわりにですが、Leadに挑戦する機会をくれた会社に感謝しています。
初めてLeadの打診を受けたとき業務理解が浅かったのも相まって、全く素っ気のない断りをした記憶があります。自己弁護する訳ではないですが、ずっとプレイヤーでいたい、手を動かし続けていてこそ、と思っているデザイナーの方は多いと思います。
だからこそ決め倦ねていましたが、今思えばそれは早計でGoodpatchは自身がマネジメント職に初めて臨むのに良い条件の揃った環境だと思っています。
Goodpatchは国内初の上場デザイン会社であり、各事業が規模の拡大をつづけています。(所属するデザインパートナー事業も然りです。)
会社が大きくなり受ける仕事の数が増えてくると、事業と組織の両軸について接する機会が増すのが道理ですが、それを実感しています。これこそ今の自分にとって最良の成長環境だと確信しています。
(また単純にデザイナー数の多い会社であるとは即ちデザイナーをマネジメントするマネージャー数も多いということなので、頼れる先輩マネージャー陣もありがたいです。)

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