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"かしわおにぎり"の思い出

 ”かしわおにぎり”とは、鶏の炊き込み御飯をおにぎり状にした物です。九州のうどん屋さんでは、白いおにぎりいなり寿司とともに、この”かしわおにぎり”は、たいていの店に置かれています。また、うどん屋さん以外でも、コンビニなどにもかしわおにぎりは普通に置かれています。かしわとは、茶色の羽の地鶏を褐色羽(かしわ)と呼んでいたので、鶏全般を指すようになったそうです。九州だと、お肉屋さんでも鶏肉の事を”かしわ”と書いてある所があります。

 かしわおにぎりには、今でも時々思い出すエピソードがあります。大学三年生の時に、地質実習で津屋崎というところに行きました。今では廃線区間になっていますが、当時は西鉄宮地岳線が津屋崎まで続いていて、九大からは貝塚駅から電車一本で行けました。地質実習は現地集合で、午前9時から午後3時くらいまでのスケジュールでした。

 事前に引率の先生から、「昼食は各自で用意するように」と言われていました。今のように、どこにでもコンビニがある時代ではありませんから、パンか弁当を準備する必要がありました。私が住んでいた下宿には、台所が無いので弁当は作れません。パンでも買って持っていこうと考えていましたが、仲のいい友達が「俺んちにはキッチンがあるから、俺が弁当を作って来てやるよ」と調子のいいことを言いました。そこまで言うのならと、その友達を信じてパンは買いませんでした。

 地質実習の当日、その友達は集合場所になかなか来ません。その友達より弁当のことが心配で、ヤキモキしていましたが、集合時間ギリギリになってその友達がやって来ました。開口一番、「寝坊した・・・」。もちろん弁当はありません。弁当を安請け合いして寝坊した友達は悪いのですが、大変な弁当作りをお願いした手前、強く非難することもできません。「仕方ない。今日は昼めし抜きか・・・」と覚悟しました。

 午前の実習が終わり昼食の時間になりました。自宅生は、母親に作ってもらった弁当を持ってきていました。また、下宿生の多くも何らかの食べ物を持ってきていました。食べ物のない昼をどのように過ごそうかと考えているその時、「回せ、回せ」という声が聞こえてきました。”回せ”と言われたモノの正体は、大きな四角いバットに並べられた大量の”かしわおにぎり”でした。

 なんと、津屋崎に実家があるM君のお母さんが、我々学生のために大量のかしわおにぎりを作って、差し入れてくれたのでした。大きなプラスチック製のバット2枚分でしたから、少なくとも50-60個はあったと思います。我々の学年は学生数が35名だったので、弁当を持ってきている学生を除けば、余裕で2個は食べられる量でした。もちろん、味も絶品で、皆で感謝しながら頂きました。

 あの時のかしわおにぎりの味は、忘れられません。M君とM君のお母さん、本当にありがとうございました。

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