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科学で重要なのは『再現性』

 科学では再現性が重要です。再現性は科学的手法の主要な信念です。再現性というのは、条件を同じにすれば、同じ現象や同じ実験が同一の結果を与えることをいいます。再現性の対立概念は、事象が再現しないことであり、一回性や再現不可能性などと呼ばれます。

 Aさんが、ある実験をして大発見をします。次に、その手法をAさんが論文として公表します。論文を見たBさんは同じ条件で実験をしますが、同じ結果がでません。これは再現性が無いので、Aさんの大発見は”科学”とは言えません。誰がやっても再現できなければ、科学とは言えないのです。その人だけしかできないのであれば、それは科学ではなく”魔法”のようなものです。

 しかし、学術分野でも”魔法”のようなことがしばしば起きます。記憶に新しいのは、STAP細胞です。「STAP細胞はあります!」で有名になった”STAP細胞”が、本当にあるのかどうかは私にはわかりません。しかし、論文通りに何度も実験したのにSTAP細胞は出来ませんでした。つまり、このやり方ではSTAP細胞は作れなかったのです。しかし、別の方法では作れるかもしれませんので、将来どなたかが”新しいSTAP細胞”を発見するかもしれません。

 同じようなことは、20世紀にも起こっています。それは、1989年に観測したとされた”常温核融合”です。通常、核融合は超が付く高温でないとできません。しかし、その核融合が何と”常温”で出来たというのです。常温核融合(Cold Fusion)は、凝縮系核反応や低エネルギー核反応と呼ばれる、室温で水素原子の核融合反応が起きるとされる現象です。

 1989年3月23日にイギリス・サウサンプトン大学のフライシュマンとアメリカ・ユタ大学のポンズが、この現象を発見したとマスコミに発表しました。この発表で、フライシュマンとポンズは、重水を満たした試験管に、パラジウムとプラチナの電極を入れ暫らく放置、電流を流したところ、電解熱以上の発熱が得られ、核融合の際に生じたと思われるトリチウム・中性子・ガンマ線を検出したと説明しました。

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 しかし、1989年の発表直後より数多くの追試が試みられたものの、多くは過剰熱の確認ができず、過剰熱の観測に成功したとする実験でも再現性は低いままでした。紆余曲折の末、『常温核融合が観察されたという確かな証拠は存在せず、将来的なエネルギー源として研究する必要性はない』という内容の報告書が提出されました。数々の疑問点を突き付けられたポンズはユタ大学教授の地位を失い、1990年、家族とともにアメリカを去りました。各学会でも全面的に否定され、疑似科学扱いされるようになりました。この一連の”常温核融合”騒動は、20世紀最大の科学スキャンダルといわれています。

 疑似科学扱いの常温核融合ですが、夢を諦められない少数の科学者たちが研究を続けています。これは、”何事も諦めない”ある種の研究者のさがみたいなものです。私自身は専門分野が違うので、常温核融合の研究はしませんが、確率が極めて低い”逆転勝利”を秘かに応援しています。もちろん、再現性が大前提ですが・・・。


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