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物理探査に関する古い新聞記事『地底を拓く科学の夢』

 神戸大学の新聞記事のサイトで、色々と検索していたら、物理探査に関する古い新聞記事を見つけました。記事は、中外商業新報の1939.5.24 (昭和14)の日付で、タイトルは『地底を拓く科学の夢 : 時局下の総動員 弾性波探鉱法で五班に分れ内地大陸に資源調査』です。以下は記事の引用です。

地底の奥深く埋蔵されている金属、石炭、石油その他の地下資源を発見して不足物資の潤沢な供給を図るべく昨年四月日本学術振興会が、その附属機関として設置した物理探鉱試験所ではその後愈々金原信泰所長以下十数名の研究員を総動員して一大地質調査団を編成、数班に分れ内地の主要地は勿論、満洲、朝鮮、台湾等において六月上旬から十月下旬まで約四ヶ月間に亘り炎天下の実地踏査を行い埋もれた宝庫の発見に努めることになった

 昭和12年は盧溝橋事件を契機とした日中戦争が勃発昭和16年にはハワイ真珠湾攻撃により太平洋戦争が勃発した年です。昭和14年はこの中間の年ですが、ヨーロッパではドイツがポーランドに進撃して、第二次大戦が勃発しています。

 日本は、石油や金属鉱物の獲得を目指して、日本や満州・朝鮮・台湾に大挙して物理探査の旅に出かけています。以下は、さらに記事の引用です。

◇第一班は東大教授工学博士青山秀三郎、東大教授理学博士松沢武雄、東大教授西松唯一の三氏共同で七月十五日から八月下旬まで満洲国ジャライノール及びタブスノール附近における石油鉱脈の弾性波探鉱法の探査
◇第二班は九州帝大教授小田二三男氏の岩手、熊本、北海道における金属鉱脈の磁力及び電気探鉱法による探査
◇第三班は京大教授工学博士藤田義象氏の岩手、秋田、静岡の各県下、朝鮮平安北道、黄海道及び満洲国錦州省揚家杖子附近における金属鉱の重力、磁力、電気探鉱法に依る探査
◇第四班は京大教授理学博士松原厚氏の北海道後志国、愛媛、愛知、台湾台北州基隆郡金包里、満洲国吉林省盤石県下の諸地方に於ける金属鉱の電気探鉱法による探査
◇第五班は京大教授、理学博士松山基範氏の秋田県南秋田郡払戸油田地附近及び満洲国タブスノール附近ジャライノール附近に於ける石油鉱脈の重力、磁力探鉱法による探査

 この記事を見ると、帝国大学の工学部や理学部の教授を団長とした5つの調査団を各地に派遣しています。第二班の小田二三男教授は、日本で初の物理探鉱学講座を作った九州帝国大学の教授です。私が今いる研究室は、この小田教授の流れを汲んでいます。第五班の松山基範教授は、地磁気の逆転を発見した人です。

 昭和14年は、資源、特に石油や鉄鉱石を求めて必死に探査を行っていた時期です。このときに大きな油田がどこかで発見されていたら、歴史が変わったかもしれません。その後、日本は資源を求めて当時フランス領のインドシナ半島へと侵攻します。しかし、これがアメリカの石油禁輸の強硬措置を招き、太平洋戦争へとつながっていきます。

 歴史にタラ/レバはありませんが、物理探査の技術が進んでいたら、太平洋戦争は起きていないかもしれません。でもそうなっていたら、満州・朝鮮・台湾は現在でも当時のままなので、今のような平和な日本は無かったかもしれません。


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