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天災は忘れた頃にやってくる

 今日は3月11日。多くの人が忘れることのできない、東日本大震災の起こった日です。私も、あの日のことをよく覚えています。私が住んでいる場所は福岡市なので、地震の直接の被害はありませんでしたが、ある出来事があって、鮮明に覚えています。

 当時、3月11日が締め切りの原稿を頼まれていて、締め切り日にようやく完成した原稿を東北大学の先生にメールで送りました。しかし、メールは届きませんでした。少しして、東北で大きな地震があったことを知りました。あとでわかった事ですが、この地震で東北大学のメールサーバがダウンしたそうです。

 東北地方では約30年周期で、大地震が起こっています。そのため、地震や津波を警告するような本が30年周期で出版されています。地震の研究者なら、漠然とは認識していたでしょうが、これほど大きな地震が来ることは予想していなかったようです。

 『天災は忘れた頃にやってくる』というのは、東京帝国大学の寺田寅彦先生の名言とされています。寺田先生のことは知らなくても、この言葉はどこかで聞いたことがあるでしょう。しかし、本来の表現は『天災は忘れた頃来る』となっていますし、実際には本人が言っていない疑惑すらあります。

 このフレーズが広く流布したのは、寺田寅彦の弟子であった中谷宇吉郎(雪の結晶研究で有名な研究者)が自著の『一日一訓』に、寺田寅彦の言葉として取り上げたためだと言われています。寺田先生は有名な随筆家でもあり、多くの著作を残していますが、寺田寅彦全集のどこを探しても、このフレーズは見当たらないとも指摘されています。

 寺田寅彦本人が言ったか言わないかは別として、このフレーズは”忘れっぽい日本人”に警鐘を鳴らしています。過去に起こった震災は無しにすることはできませんので、様々な教訓を記憶にとどめて、次に生かすことが重要です。寺田先生は、地震に関する次のような言葉も残しています。

『 地震の研究に関係している人間の目から見ると、日本の国土全体が一つのつり橋の上にかかっているようなもので、しかも、そのつり橋の鋼索があすにも断たれるかもしれないというかなりな可能性を前に控えている。』

 日本に住んでいれば、どこにいても地震から逃れるすべはありません。ただし、地震の知識があれば、災害を最小限に抑えることも可能です。そのために、科学的な研究や技術が重要になってきます。地震とは関係ありませんが、寺田先生の名言を調べていて、私の琴線に触れるものがありました。

『ケガを怖れる人は大工にはなれない。失敗を怖がる人は科学者にはなれない。科学もやはり頭の悪い命知らずの死骸の山の上に築かれた殿堂であり、血の川のほとりに咲いた花園である。』

 科学は万能ではありませんが、少しづつ社会を豊かにし、人類に貢献しています。しかし、成功の陰には多くの失敗が横たわっていることを、科学者は肝に銘じておく必要があります。

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