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虚数なくして宇宙なし

NHKの数学番組『笑わない数学』で、”虚数”が取り上げられていました。虚数の歴史や虚数の重要性が、平易に(?)解説されていましたが、ある程度数学が好きじゃないと、ちょっとピンと来ないかもしれません。私は好きですけど・・・。NHKのチャレンジ精神には脱帽します。

横に実軸、縦に虚軸をとった複素平面(ガウス平面)上に位置する数を複素数と言い、そのうち実軸上にあるものを実数、虚軸上にあるものを純虚数と呼びます。このとき、純虚数の基本単位で、”二乗すると-1になる数”が虚数単位と言われるものです。

番組では、虚数を導入したことで数学の世界が一気に広がったので、「虚数なくして数学なし」と説明されていました。また番組の後半には、シュレディンガー方程式中に現れる虚数単位のことを触れ、現実世界との関係も解説されていました。シュレディンガー方程式は、量子力学などの基本となる偏微分方程式ですが、理論物理学などを専門とした研究者でもなければ、日常的に遭遇することは無いでしょう。

虚数を身近に感じることができる典型的な物理現象は、波動でしょう。波動は振動が時間・空間的に伝播する物理的な現象です。物理探査にも、弾性波探査や地中レーダ探査に、波動の原理が利用されています。高校の数学の授業で三角関数の導入時には、測量などに使われる三角比を使って説明されますが、三角関数の数学的な正式の定義は、”eの純虚数乗”を用います。複素数を極座標すなわちeの複素数乗の形で書き直せば、複素数の絶対値がその複素指数の実部に、偏角は複素指数の虚部に、それぞれ対応します。

虚数は物質世界と深く結びついていますが、世の中は物質だけで構成されているわけではありません。宇宙空間には、暗黒物質(ダークマター)や暗黒エネルギー(ダークエネルギー)という未知のモノで満たされています。ダークマターは宇宙の所々に塊で存在し、目に見えないのに重力を持つ物質です。ダークマターは天の川銀河の回転速度から、その存在が推定されました。天の川銀河には無数の星が存在していますが、そのすべての星の質量を足しても、今の回転速度を説明できませんでした。そこで、見えないけど質量がある不思議なダークマターが考え出されました。

一方、ダークエネルギーは宇宙全体に均等に分布していて、宇宙の膨張を加速する力を持っています。ダークエネルギーの登場は、比較的最近の1998年です。そのキッカケは、遠くにある超新星が、これまでの理論で予想される速度よりも速く遠ざかっていることが発見されたことでした。つまり、宇宙が膨張する速度は加速していることがわかったのです。それまでの宇宙論では、宇宙全体の重力でブレーキがかかり、宇宙の膨張は遅くなっていくと考えられていたため、重力に逆らって加速しながら宇宙を押し広げる未知の力は、ダークエネルギーと名づけられました。

しかし、ダークマターとダークエネルギーの正体は、どちらもまだ不明です。ただし、ダークマターについてはニュートラリーノと呼ばれる未発見の素粒子が本命とみられていて、いろいろな実験でその検出を試みています。最新の観測では、この2つが宇宙全体の95%(ダークマターが27%、ダークエネルギーが68%)を占めていることがわかりました。

物質世界については『虚数なくして宇宙なし』ですが、宇宙の大部分を占める、物質ではないダークマターやダークエネルギーを考えるためには、”虚数ではない新しい数”を導入する必要があるのかもしれません。

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