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どうしてそんな研究をするの?

 プリンストン大学上席研究員の真鍋叔郎さんがノーベル物理学賞を受賞しました。現在真鍋さんはアメリカ国籍を取得していますが、90才での受賞は日本人最高齢です。ノーベルの選考委員会は、真鍋さんの受賞理由について「現代の気候の研究の基礎となった」としています。真鍋さんが考えた気候モデルは、地表面が太陽から受け取るエネルギーから、宇宙に逃げていくエネルギーを差し引いた「放射収支」と、空気や水蒸気が互いにどう影響し合うかを、世界で初めて解明したとされています。

 また、地球科学系の研究分野がノーベル物理学賞を取るのも、たいへん異例です。真鍋さん自身もインタビューで今の気持ちを聞かれ、「全くの驚きです。こういう賞をいただくとは夢にも思わなかった。ノーベル賞というのは、もっと物理学自身だった。気候変動というテーマで賞をもらうというのは全く驚きました」と語っています。

 真鍋さんはインタビューの中で、若い研究者に向けたメッセージも述べています。「研究費を取るには実用的な問題を選ぶということになっているが、やはり本当の研究の醍醐味だいごみは好奇心。なぜこういうことが起きるのか(という疑問)に立って研究していくのが一番良いのじゃないか。そう思います」

 私は真鍋さんに1ミリも及ばない研究者の端くれですが、『研究の醍醐味は好奇心』という言葉に共感します。私の研究の心情も好奇心です。やはり、面白い/面白そうだと思えない研究にはやる気が起きません。ある時、後輩の研究者から、「どうしてその研究を始めたのですか?」と聞かれたことがありましたが、即座に「面白そうだったから」と答えました。その後輩はその回答に不満そうでしたが、私にはそれしか答えようがありませんでした。

 研究成果が社会の役に立つかどうかは、運次第です。工学系の研究者である私は、社会貢献は常に意識していますが、それでもすべての研究が役に立つわけではありません。また、現在は役に立たなくても、将来役に立つかもしれない研究もあるはずです。大学の研究者は穀潰しのような印象があるかもしれませんが、温かい目で見守って頂けると助かります。


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