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ぶったん箸休め

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物理探査のことを略して、物探(ぶったん)と呼びます。ここでは、物探とチョッとだけ関係ある話題を集めました。智の箸休めです。楽しんで下さい。
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#物理探査

アクティブセンサとパッシブセンサ

物理探査では、目に見えない物性値の変化を、目に代わるセンサを使って測定します。多くのセンサは、様々な物性値を最終的には電気信号に変えて出力します。これは、電気信号に変えることで微小な信号を増幅したりできるからです。 センサは大きく分けると、受動的なパッシブセンサ(passive sensor)と能動的なアクティブセンサ(active sensor)に分類できます。パッシブセンサは、人工的な信号源を必要としないセンサで、多くのセンサがこのタイプになります。現在、MT法プロジェ

分野が違うと専門用語が違う

以前にも同じような記事を書きましたが、専門分野が違うと同じ意味のことでも、異なる名称で呼ばれることが結構あります。例えば、物理探査の専門用語に比抵抗というのがありますが、これは高校の物理の教科書では抵抗率と書かれています。また、昔の教科書などには固有抵抗と書かれていたりします。また、物理探査では比抵抗の逆数となる物理量を導電率と呼びますが、その他の分野では電気伝導度と呼ばれたりします。 物理探査では、飛行機やヘリコプタなどを使った空中からの磁気探査や重力探査などがありますが

物理探査と野生生物 鹿との出会い

物理探査を実施するために山中に入ると、様々な野生生物に遭遇します。哺乳類では、エゾリス・ウサギ・イノシシ、鳥類ではキジ、ヤマドリ、オオミミズクなどです。今年のフィールド調査では、これらの野生生物にニホンジカが追加されました。 野生の鹿は、奈良では街中で普通に見られるので、それほど珍しい動物ではありませんが、山中で出会うと違った感動があります。福岡市内の街中でニホンザルを見たことはありますが、まだ山中では見たことはありません。カモシカも遠目で見たような記憶があるのですが、少し

日本地熱学会@岐阜#3 三日目(最終日)

今日は地熱学会の最終日です。今日の午前には、「物理探査」のセッションがあり、朝の9時半から3つ続けて研究成果の発表をしました。今回の発表はこれまでに試作した、測定機器を使ったフィールドでのテスト実験の成果です。 最初は、ホームグラウンドである九州大学伊都キャンパスでのテスト実験です。この発表では、伊都キャンパス内にある”生物多様性ゾーン”で測定した結果を示しました。キャンパス内には電気を使う様々な機械が設置されているので、電磁ノイズが多いだろうことは予測していましたが、意外

日本地熱学会@岐阜#2 二日目

今日は二日目、そろそろ講演発表を聞くのに飽きてきました。今日面白かったのは、日本地熱学会賞を受賞した論文の受賞講演でした。この講演は、現在我々が進めているMT法プロジェクトに関する研究でした。 物理探査のデータ解析で、常に問題になるのが”地上の地形”の問題です。物理探査では地下の物性値分布に興味があるのですが、大気(空気)と大地の境界となる地形が、地下の物性値分布を解析する妨げになります。 最近はコンピュータとプログラミング技術の発達で、地表の形状(起伏)を考慮した解析も

物理探査の次元について 2次元と3次元

言葉だけで表現するのは難しいですが、次元は空間の広がりを表わす一つの指標です。数学では、線は1次元、平面は2次元、立体は3次元と認識されます。我々が直接認識できる空間は、3次元までです。しかし、物理学では空間に時間軸を含めた4次元も出てきます。さらには、理論物理学などで出てくる超ひも理論では、10次元や11次元が出てきます。 物理探査でも1次元、2次元、3次元と三種類の次元が出てきますが、これまでの次元と少し考え方が異なります。物理探査で扱う地下(場合によっては空中も)は、

物理探査のモニタリング考

テレビ番組の名前にも使われている”モニタリング”とは、監視、観察、観測のことを意味し、対象の状態を継続または定期的に観察・記録することを指します。 物理探査は、鉱物資源やエネルギー資源などの”動かない/移動しない”ものを対象にしてきました。しかし、ここ最近、”移動する資源”に対する探査の要求が高まっています。例えば、地熱資源は地下から蒸気や熱水を取り出しますが、取り出した蒸気や熱水の量が変わると、地下の状態が変化します。 継続または定期的な観測を長期間実施していれば、通常

そのエビデンスは本当ですか? ビフォー&アフター

ダイエット食品やスポーツジムのCMでは、必ずと言っていいほど、痩せる前(before)と痩せた後(after)の写真が対比されて、その効果を目に見える形で示しています。顔を見れば、どちらも本人ということは分かりますが、本当に痩せたのでしょうか?。 私は疑り深い性格なので、ひょっとすると痩せている方がbeforeで、太った方がafterなのではないかと邪推したりします。写真は確かに本人でしょうが、時間のエビデンスがありません。動画などで、痩せていく時間経過がわかれば確実ですが

Juliaで物理探査#0 準備編

新年度になったので、新しい試みとして、Julia言語を用いた物理探査の手法の紹介をしたい考えています。今回は準備編ですので、Juliaが使える環境をPC上に構築します。皆さんのPCのOS環境は、Windows、McOS、Linuxなどで異なると思いますが、Juliaの本家WEBサイト↓↓から、必要なファイルをダウンロードして、環境を整備して下さい。 Windowsの場合、Julia公式サイトからWindows用のインストーラをダウンロードします。あとは、インストーラを起動し

今世紀最大の発見!? ピラミッドの空間

エジプトの首都カイロ近郊のギザにある、世界最大のクフ王のピラミッド内に、通路のような新たな空間が発見されました。エジプト考古学の権威ザヒ・ハワス博士によれば、「今世紀最大の発見だ」とのことです。しかし、今世紀はまだ始まったばかりです。今後も”もっと凄い発見”があるかもしれません。この研究成果は、約4500年前に建てられたとされるクフ王のピラミッドの内部構造の解明の手掛かりになると期待されているようです。 個人的には、「あれほど大きいピラミッドなので、新しい空間があっても不思

フィールド調査雑感#1 現場に行かないとわからないことがある。

「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」という台詞は、映画『踊る大捜査線』(THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間)のクライマックスで、青島俊作こと織田裕二さんが”偉い人たち”に対して発した怒りの名台詞です。 このシーンは、公開当時たいへん話題となり、映画を大ヒットに導きました。そのため、いまだにこのセリフは『踊る大捜査線』全体を象徴する名セリフとなっています。このセリフには、現場捜査員の熱い思いが込められています。やはり、机上の考えだけでは限界があり

ミリしら物理探査#25 探査深度と分解能

 気付いてみれば、ここ最近は物理探査に関連した記事を書いていませんでした。そこで今回は、物理探査法を選択する場合の基本となる『探査深度』と『分解能』の説明をします。この話は、別の記事でも触れたかもしれませんが、重要なので繰り返し説明します。  まずは用語の意味からです。『探査深度』は可探深度とも呼ばれ、”どの深さまで探査が可能か”を示す指標です。英語では”penetration depth”と言います。地下に存在する天然資源や人工物を探査する場合、どの深さに存在するのかを予

No Geophysics, No Life.

 "No~, no life" の直訳の意味は、「~がなければ、人生はない」ですが、「~なくして、なんの人生かな」や「~無くして人生無し」などと訳します。”No music, no life”は、「音楽の無い人生なんて」と訳せますし、"No game, no life" なら「ゲームなくして、なんの人生だ」などと訳せます。この構文は、色々な応用が利くので多用されています。  私がこの構文を使うとすれば、”No geophysics, no life”です。直訳すれば、「地球

物理探査で遭遇した動物

 昨日の記事では、伊都キャンパス内の生物多様性ゾーンで物理探査を実施した話を書きました。生物多様性ゾーンは、自然をそのまま残しているので、野生のイノシシやタヌキに遭遇することも少なくありません。伊都キャンパスは福岡市にありますから、山奥というわけではありませんが、それでも中心部に比べれば自然が多く残っています。  物理探査は、人里離れた山岳地域で行なうことも多く、そんな時には普段滅多にお目にかかれない野生動物に遭遇することも少なくありません。電気探査を行なう場合には、電線を