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ぶったん箸休め

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物理探査のことを略して、物探(ぶったん)と呼びます。ここでは、物探とチョッとだけ関係ある話題を集めました。智の箸休めです。楽しんで下さい。
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2021年11月の記事一覧

遺跡探査へのいざない

 私はガチの理系ですが、なぜか考古学が好きで、物理探査の応用の一つとして遺跡探査の研究も行っています。遺跡探査によく使われるのは磁気探査や地中レーダ探査です。磁気探査は地中に埋まった鉄製品を見つけるのに威力を発揮します。また、地中レーダは深さ2m程度なら、高分解能で地下を可視化できます。  現在、遺跡探査というと、地中レーダを思い浮かべる人が多いかもしれません。これは早稲田大学の教授だった吉村作治先生の影響が大きいと思います。最近はテレビであまり見かけませんが、『世界ふしぎ

防災に役立てたい『流体流動電磁法』

 日本では毎年のように、台風や大雨による洪水や、地震などが原因の地すべりなどの自然災害が頻繁に起きています。大雨による堤防の決壊などは、地表を流れる川の急激な増水が原因となりますが、地すべりなどは地下水位の急激な上昇が引き金となります。しかし、多くの場合、地すべり地域の観測は地表面での地形変化や、限られた井戸などでの水位観測に頼っているのが現状です。しかし、地すべりの直接の原因は地下にあるので、地下の観測が必要不可欠です。  私共の研究室では、独自に発明した『流体流動電磁法

ぶったん偉人伝#2 Louis Cagniard

 Cagniardは、「フランスの地球物理学者であり、数学的地球物理学の様々な分野で重要な業績を残したことで知られています」と紹介されますが、私の中でのCagniardは、”地球のことに興味を持った数学者”です。  私の専門は、物理探査の中でも電気探査や電磁探査が主なので、CagniardはMT法という電磁法の論文で、初めて名前を知りました。しかし、彼の代表的な著作であるReflection and refraction of progressive seismic wav

ぶったん偉人伝#1 エトベス

 エトベス・ロラーンド(Eötvös Loránd)は、日本人にはあまり馴染みが無いかもしれませんが、ハンガリーの物理学者です。正式な名前は、ヴァーシャーロシュナメーニ男爵エトベス・ロラーンドだそうです。日本では爵位制度は現在はありませんが、エトベスさんは男爵だったようです。日本語読みでは、姓をエートヴェシュ、エトベシュ、エトベスなどと表記されたりしますが、ここでは発音しやすいエトベスで統一します。名前の方は少し間違いやすいのですが、ローランド(×)ではなくロラーンド(〇)で

見えない世界をお見せしましょう

 ディズニーアニメの『アラジン』では、主人公のアラジンが魔法の絨毯にお姫様を乗せて、お城の外の世界を見せます。その時の劇中歌が、『A whole new world』で、その時の歌詞が、「I can show you the world.」です。直訳すれば、「私はあなたに(外の)世界をお見せすることができます」です。  アラジンは、目に見える地上の世界をお姫様に見せていますが、物理探査を使えば、目に見えない地下世界だってお見せすることができます。英語で表現すれば、「I ca

エネルギーでは『貯蔵』がキーワード

 気候変動の防止策として、世界中で二酸化炭素の削減が叫ばれています。そのやり玉に挙がっているのが、いじめられっ子の石炭です。では、どうして石炭が、エネルギー源としていまだに日本を含め世界中で使われているのでしょうか。  石炭は露天掘りや坑内採掘で大量に安価に採掘できることが、利用される一つの理由です。しかし、多くの人が見落としているもう一つの理由があります。それは、貯蔵の容易さです。石炭は固体であるため、使う(燃やす)時には工夫が必要ですが、貯蔵するためのコストは余りかかり

フーリエ変換とラプラス変換

 連続的に時間変化するデータを時系列データと呼びます。一般的にほとんどのデータはノイズなどを含み時間的に変化しますから、多くのデータは時系列データとみなすことができます。この時系列データから有意な成分を取り出すデータ処理に、フーリエ変換が使われます。フーリエ変換は、物理探査だけでなく、多くの物理現象の解析に使われるポピュラーな手法です。  フーリエ変換は、フーリエ(Fourier;タイトル図)が考案したデータ解析法で、複雑な周期関数をより簡単に記述することができるため、音や