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ぶったん偉人伝#1 エトベス

 エトベス・ロラーンド(Eötvös Loránd)は、日本人にはあまり馴染みが無いかもしれませんが、ハンガリーの物理学者です。正式な名前は、ヴァーシャーロシュナメーニ男爵エトベス・ロラーンドだそうです。日本では爵位制度は現在はありませんが、エトベスさんは男爵だったようです。日本語読みでは、姓をエートヴェシュ、エトベシュ、エトベスなどと表記されたりしますが、ここでは発音しやすいエトベスで統一します。名前の方は少し間違いやすいのですが、ローランド(×)ではなくロラーンド(〇)です。

 エトベスは重力に興味を持って、重力質量と慣性質量の等価性を示したエトベスの実験で知られています。彼は、キャベンディッシュが使ったねじり秤を応用して、1890年に重力偏差計を発明しました。重力偏差というのは、重力勾配とも言いますが、重力の微分値(空間的な変換量)のことです。重力については、ケーターの振り子を使って測定できましたが、測定に多大の時間がかかりました。エトベスの重力偏差計は比較的小型だったので、屋外でも使用することができました。

 エトベス自身は純粋な物理学のための実験に利用したのですが、この重力偏差計が将来は資源探査に使われるだろうと予言します。予言は的中し、エトベス型の重力偏差計は資源探査に利用されることになりました。日本でも、地磁気の反転で有名な京都大学の松山基範博士などが、重力偏差計を用いて積極的に南方の島々の重力偏差を測定しています。松山博士は地磁気の研究が有名過ぎて、地磁気の専門家と思われていますが、実は重力に関する研究の方が多いのです。

 重力偏差計は一時期よく使われましたが、バネを利用した相対重力計が開発されると、衰退していきました。重力偏差は重要な測定値ですが、重力偏差計の作業効率が悪くて(1日に数点)、相対重力計にとって代わられました。相対重力計の測定作業は簡単で、測り方にもよりますが、1日に数十点以上測ることもできます。

 しかし重力偏差は、最近復活を遂げました。それは、新しい重力偏差計が開発されたためです。新しい重力偏差計は加速度センサを使ったハイテクセンサで、これまで軍事技術だったために使用できませんでした。しかし、使用が解禁された後は、航空機やヘリコプタを使った空中からの重力偏差測定に利用されています。重力偏差は、密度分布の変わり目の検出能力に優れているので、概査(広域調査)のステージで利用されることが多くなってきました。

 エトベスの名前を冠した物理現象があります。それはエトベス効果で、移動体上で重力測定すると見掛けの重力加速度が静止時と異なる現象のことを言います。航空機や船舶で移動しながら重力を測定する場合、エトベス効果が混入するので、この効果を差し引く必要があります。これは重力補正の一つで、エトベス補正といいます。

 エトベスは、ハンガリーでは超有名な偉人で、ハンガリーで最も古い国立ブダペスト大学を改名して、エトベス・ロラーンド大学にしたくらいです。日本で言えば、東京大学を小柴昌俊大学(?)と変えるようなものです。それくらい、エトベスさんはハンガリーの誇りです。タイトル図のように、彼の肖像と共に重力偏差計が何度も切手の図案になっています。

 エトベスは、この旧ブダペスト大学の教授でしたが、さらにハンガリーの教育大臣となって半世紀にわたってハンガリーの学術を指導しました。2015年には、エトベスが残した研究論文がユネスコ記憶遺産に登録されました。

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