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CMやドラマで使われがちな将棋の局面

はじめに

突然ですが、この局面をご覧ください。

「藤井聡太 x AMD ー Web CM メイキング動画」より
https://www.youtube.com/watch?v=ludZ1EpZ3Qg&t=134s

この局面を見て「あーあれね」という方はさぞ将棋にお詳しい方と思いますが、今回は

CMやドラマに出てくる将棋の局面

について書いていこうと思います。正直言って、将棋ファンの中で「CMとかでよく見る局面」というのはそれこそ無数にあると思いますが、今回は超有名な二つを実例付きでご紹介します。

藤井聡太の▲4一銀(2021)

まず、今回の画像についてですが、藤井聡太竜王が日本AMDと広告契約をしたことに伴い公開されたWeb CMから引用したものになります。

AMDは9月8日、将棋棋士・藤井聡太竜王が出演するブランド広告「藤井聡太 × AMD - 神の一手の裏側に」を公開した。
藤井竜王といえば、公式戦最多連勝記録など、様々な記録を打ち立ててきたプロ棋士。自宅ではAMD製のハイエンドCPU「Ryzen Threadripper」シリーズ搭載のPCを使用し、AI将棋ソフトを用いて、局面のシミュレーションを行なっていると明かしている。また2020年に“世界で一番会いたい人”を聞かれた際には、AMDのCEOであるリサ・スー氏を挙げるほどの“AMDファン”だ。
今回、AMD製品を活用し次々にタイトルに挑戦し続ける姿勢と、AMDの企業理念が合致したことから、出演をオファー。公開された動画では、シミュレーションソフトを用いて鍛錬を積む藤井竜王が、“神の一手”を指すまでが映し出されている。

指すのは駒ではなく“CPU”!? プロ棋士・藤井聡太竜王が「AMD」のブランド広告に出演
https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1438471.html

30秒のWeb CMにおいて、先に示した局面は16秒付近でモニタ画面一瞬映るだけ。しかも、かなり遠くにしか映っていないので、正直言って局面はよくわかりません。

しかし、メイキングを見ると、将棋AIソフト部分も含め結構しっかりと作りこんであることが分かります。

画面上の情報を見ると、どうやら「電竜戦【A級】第2局 ▲dlshougi vs △藤井聡太」の棋譜という設定のようです。(※棋戦名・ソフト名ともに、モデルとなったものは存在するが、いずれも実在のものとは関係がないはず)

この局面、実際には「第34期竜王戦 2組ランキング戦 準決勝 ▲藤井聡太二冠 vs △松尾歩八段(段位は当時)」のものです。この対局で藤井二冠は▲4一銀を指して勝利。その後、挑戦者決定トーナメントを勝ち上がり、豊島竜王(当時)にも勝利して竜王位を獲得します。

読売新聞オンラインより引用(読売新聞社=竜王戦の主催)
https://www.yomiuri.co.jp/igoshougi/ryuoh/20210617-OYT8T50003/3/

この▲4一銀は大変有名になり、AMDの特設サイトでも▲4一銀に関する言及があるほどです。

2021年、3月23日。
将棋界に、衝撃が走った。
ある対局で、彼の放った「4一銀」。
それは、人類には指せない「神の一手」と言われた。

AMD × 藤井聡太 | 「神の一手」の裏側に。 | AMD
https://fujiisota.amd-heroes.jp/

ところで、今回の広告画面を改めて見てみると、実はこの局面ではまだ▲4一銀を指していません。(この次の一手が▲4一銀になります。)

よく見たら△8八角成までしか指してない
https://www.youtube.com/watch?v=ludZ1EpZ3Qg&t=134s

この画面が話題になっている理由は、

次の手が▲4一銀であることをみんな知っているから

です。当時この▲4一銀がいわゆる「AI越えの手」として広く報道されたからです。

進化したAIを搭載した将棋ソフトは図の直前になって▲4一銀を示したが、数手前には示していなかった。飯島八段は「藤井二冠は涼しい顔でAI超えの手を何度も指しています。すごすぎて、同じ地球上の生命体とは思えません」と畏怖する面持ちで語った。

つわもの勢ぞろい、豊島竜王に挑戦するのは? : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/igoshougi/ryuoh/20210617-OYT8T50003/3/

ところで、AMDのCMをさらにもう一度よーく見ると「先手がAIで後手が藤井さん」なんですよね。竜王戦とは先後が逆なので、このあとの▲4一銀はAIが指したという理屈になるんですが、それはいいんですかね…?

羽生善治の△5二銀(1989)

藤井の▲4一銀が登場するまででいうと、やはり有名どころで言えば「羽生の△5二銀」だと思うのです。

最近の事例で言うと、2022年のスーパー戦隊シリーズ「暴太郎(あばたろう)戦隊ドンブラザーズ」の中でも登場しています。

https://www.toei.co.jp/tv/donbrothers/story/1229221_3246.html

天地が逆なので一瞬わかりにくいのですが、確かに「羽生の△5二銀」の局面で、これは制作側も引用していることを明言しています。

劇中に登場したこの盤面も石田さんに考えていただき、ターボレンジャーと同じ1989年の名勝負「NHK杯 羽生善治五段vs加藤一二三九段」から引用して下さいました。

暴太郎戦隊ドンブラザーズ ドン15話 おかえりタロウ | 東映[テレビ]
https://www.toei.co.jp/tv/donbrothers/story/1229221_3246.html

羽生善治名誉NHK杯は現在までに通算11回優勝しているわけですが、「羽生の△5二銀」は最初の優勝に至るまでの一局で登場します…などという話はもうすでに山ほど語られていますので、ここでは以下の引用にとどめます。

私が今でも強烈に覚えているのが、第38回NHK杯テレビ将棋トーナメントの4回戦、羽生善治五段対加藤一二三九段戦(段位は当時)で、羽生五段が敵陣にタダで打ち込んだ61手目の5二銀です(図1参照)。
対局は1989年1月9日、元号が平成に変わった翌日で、テレビ放映が2月5日の日曜日でした。テレビ解説の米長邦雄九段が5二銀を見た瞬間、「おぉー」と奇声を発したことで印象に強く残っています。後には、相手の加藤九段がこの手を見て座布団から30cmも飛んだとの尾ひれも付きました。
タダ捨てに打った5二銀を後手が何で取っても、2七の香車が2筋に効いているので、先手の1四角で即詰みになります(△5二同金ないし△5二同飛でも、▲1四角、△4二玉、▲4一金で詰み)

ソフトウェア工学的には羽生善治の「5二銀」は最善手ではない!? 東工大入試問題をプログラムで解く:組み込みエンジニアの現場力養成ドリル(32)(1/4 ページ) - TechFactory
https://techfactory.itmedia.co.jp/tf/articles/2011/04/news019.html
https://techfactory.itmedia.co.jp/tf/articles/2011/04/news019.html

ところで、この物語では「高校生棋士がベテラン棋士に△5二銀を指され、負けたショックで怪人になる」というストーリーになっています。ですが、元ネタを知ってる人が見たらやはりなんか高校生とベテラン側が逆なんじゃないのかと感じます…

おわりに

今回は、CMやドラマで出てくる将棋の局面について超代表的な二つについて書きました。正直言ってまだまだあるとは思いますが、今回の例を見ると

  • 静的な状態=駒が止まっている、画面越しに見る

  • 動的な状態=駒を打ち据える動作も含んで映る局面

は何か違うのではないかとも感じました。後者は特に

「飛車切り」とか「成る」とかが映えそう

だなと感じています。飛車という駒が大きいことや、裏返すというひねりを加えた動作にカッコ良さを感じます。

藤井さんで言うと、竜王戦の△7七同飛成(同飛車大学)が両方の条件を満たしていますし、あるいは飛車切りだけでも、先日の「お~いお茶杯王位戦」の△6三飛(と金と飛車の交換)や、防衛までの詰みを読み切った△8四飛のようなかっこいい飛車切りはたくさんあるので、こういうのは動作込みで映えるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか? 個人的には、これから撮影だったら△8四飛がいかにもCMっぽくて採用されそうな気がしています。

これからも、CMやドラマで出てくる将棋の局面には注目していきたいと思います。

(おわり)

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