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ダブルダイヤモンド? それって「4RKYT」でしょ!

はじめに

最近はリスキリングということで、いろいろな研修を受けることが多いのですが、先日ある研修で「ダブルダイヤモンド」という言葉を聞きました。

「ダブルダイヤモンド」とは、2005年に英国政府のデザイン振興機関であるデザインカウンシルによって提唱されたものです。元来は産業デザインのために考案されたフレームワークですが、現在は、社会問題全般にわたる大きな課題からウェブアプリケーションのUX(利用者経験)デザインに至るまで、多くのデザイナーによって利用または応用されているデザイン思考をベースとするシンプルなフレームワークです。

「ダブルダイヤモンド」と「IoTサービスデザイン」──正しい課題と解決策の発見への近道 | Biz/Zine(ビズジン) https://bizzine.jp/article/detail/2544

ダブルダイヤモンドとは、課題案と解決案の洗い出しと絞り込みを行うためのフレームワークで、2005年から提唱されているようです。発散→収束→発散→収束の絵がまるでダイヤモンドのように見えるということからでしょうか。

ダブルダイヤモンドと4つのステージ (https://bizzine.jp/article/detail/2544 より引用)

ただ、製造業で15年以上働いている身からすると、これを聞いた瞬間

それって、昔からある4RKYTのことじゃない?

と感じました。アイデア出しのフレームワークとしてはとても似ていると思ったのですが、この二つの類似点を述べている記事が全然見当たらなかったので、今回は4RKTYについて、またその類似性について解説していこうと思います。

4RKYTとは

それぞれ分解すると以下の意味になります。以下の引用文中にあるように、「KY」とは「危険予知 (Kiken Yochi)」をローマ字表示したものの頭文字になります。

  • 4R:4ラウンド

  • KY:危険予知

  • T :トレーニング(訓練)

危険予知訓練は、職場や作業の状況のなかにひそむ危険要因とそれが引き起こす現象を、職場や作業の状況を描いたイラストシートを使って、また、現場で実際に作業をさせたり、作業してみせたりしながら、小集団で話し合い、考え合い、分かり合って、危険のポイントや重点実施項目を指差唱和・指差呼称で確認して、行動する前に解決する訓練です。
危険予知訓練は、危険(キケン、Kiken)のK、予知(ヨチ、Yochi)のY、トレーニング(トレーニング、Training)のTをとって、KYTといいます。

中災防:危険予知訓練(KYT)とは
https://www.jisha.or.jp/zerosai/kyt/index.html

1973年、中央労働災害防止協会派遣の欧米安全衛生視察団に参加していた住友金属工業(現在の日本製鉄)和歌山製鉄所の労務部長は、ベルギーのソルベイ社を訪れた際、交通安全教育用のシートに目をとめる。危険を自らが危険と感じることにより、各自安全行動に努めるようになると考え、社内にプロジェクトチームを結成。その成果としてKYTが誕生した。

https://ja.wikipedia.org/wiki/危険予知訓練

Wikipediaにもあるように、2005年より30年以上も前から提唱されており、製造業だけでなく、建築現場などでも広く知られている手法です。

4RKYTこそ完成された「発散→収束→発散→収束フレームワーク」

4RKYTの行い方については、すでに多くの文献が存在するので、ここでは概要を紹介するのにとどめます。

危険予知活動を進めるには、まず、KYTの体験学習が基本となります。KYTは4ラウンド(R)法でホンネの話し合いを進めます。
第1R(現状把握)どんな危険がひそんでいるか
第2R(本質追究)これが危険のポイントだ
第3R(対策樹立)あなたならどうする
第4R(目標設定)私たちはこうする

中災防:危険予知訓練(KYT)の進め方
https://www.jisha.or.jp/zerosai/kyt/file04.html

4RKYTは、たとえば「事故が起きた現場」あるいは「ヒヤリハットが起きた/起きそうな現場」に対して行うという安全に対して行うものではありますが、1Rで問題点の抽出を行い、2Rではそこから多数決などを行いこのチームで解決する課題を設定します。

また、2Rで決定した課題に対して、3Rでは参加者各人が対策案を多数樹立し、4Rで「すぐできそうなもの」「効果が大きそうなもの」をこれまた多数決で選び出すというプロセスを経て、チーム行動目標を設定します。そして最後は「ゼロ災で行こうヨシ!」の唱和で終わります。

※ちなみに、この「ヨシ!」という掛け声は、もしかしたら現場猫というインターネットミームで知られているかもしれませんが、製造現場では結構真面目に唱和します。ただ、このポスターはまだ現場で見たことはありません…

4RKYTがフレームワークとして優れているところ

4RKYTが「発散と収束をまとめるためのフレームワーク」としてとても優秀である点を、具体的にいくつかご紹介します。

「~なので~して~になる」という肯定型

危険を考えることを危険の洗い出しもしくは洗い出しといい、第1Rでの現状把握において重要なポイントになります。
危険の洗い出しが甘くなると、第4Rの行動目標があいまいなものとなってしまいますが、うまく洗い出しをする方法としての「決まり文句」があります。
「~なので(~ので)」 + 「~して」 + 「~になる」
不安全な状態、つまり危険になる要因「~なので」プラス、不安全な行動「~して」が現象、そして結果「~になる」が起こって、労働災害となるという文章にすることです。

第1ラウンド「どんな危険がひそんでいるか」|(一財)中小建設業特別教育協会
https://www.tokubetu.or.jp/kyk/kyk02-1.html

1Rや3Rはアイデア出し(ここでは「洗い出し」と表現)のフェーズなので、質より量というのはもちろんなのですが、それよりも実は「~なので~して~になる」という型で出す、という決め事の方が実は重要なのです。これは

現状をありのまま表現するために否定形を用いない

ということを型から縛っている良い例です。1Rに慣れていない人だと

  • 設備が固定されていないので、倒れる

  • 保護メガネをかけていないので、目にかかる

など否定形を用いがちなのですが、これでは「答えを知っている人が答え通りになってないことを指摘しているだけ」です。つまり

話している人の思惑が含まれていて、事実をありのまま表現していない

ことになるのです。現状を表現するには、あくまで予断なく、ありのままを表現しなければいけません。

ポイント毎にメンバー間の認識合わせを行う

最後に「危険のポイント ~なので~になる、ヨシ!」と全員で指差し唱和して、第2Rを終わります。

第2ラウンド「これが危険のポイントだ」|(一財)中小建設業特別教育協会
https://www.tokubetu.or.jp/kyk/kyk02-2.html

実は4RKTYでは、最後だけでなく中間の2Rでも「ヨシ!」の声出しを行います。

アイデア収束のフェーズでは、全員で認識合わせを行う

ということの重要さが、型としてきっちりと決められている点が素晴らしいです。

自分事として案を出してもらうために否定はしない

チームリーダーは◎印をつけた重要事項について、事故を予防するために「あなたならどうする」とメンバーそれぞれに問いかけることからはじめましょう。
(中略)
ここでは数多くの案を出してもらいましょう。
絶対避けたいのは出てきた案を批判することです。
基礎4ラウンド法はグループ活動を前提にしていますので、「参加することに意義」があります。
自分の出した案が否定されると、参加しにくくなりますし、他のメンバーも発言しにくくなりますので、どんな案でもまずは受け入れ、書き留めましょう。

第3ラウンド「あなたならどうする」|(一財)中小建設業特別教育協会
https://www.tokubetu.or.jp/kyk/kyk02-3.html

アイデア出しで「ほかの人のアイデアを否定してはいけない」とはよく言われますが、4RKYTでは「方針決定後は自身が即実行できる案を出す」ことを想定しているので、とにかく自分ができること、自分が行いたいことを書くフレームワークになっています。つまり、

その人の案を否定することは、その人の行動方針を否定することに繋がる

わけです。そのため、4RKYTでも他の人のアイデアは否定してはいけないのです。

終わりに ~ 4RKYTの手法で考えてみましょう!

今回は4RKYT(4ラウンド危険予知トレーニング)について、およびダブルダイヤモンドとの類似性について解説しました。調査の結果、

4RKYTは、ダブルダイヤモンドと類似性はあるものの、より古くからあり、またより完成されたフレームワーク

であることがご理解いただけたと思います。

4RKYT=ダブルダイヤモンド #一枚絵図

「ダブルダイヤモンドによるアイデアの整理」というと、いかにもカタカナでおしゃれ・見栄えのする資料も多いのかもしれませんが、こと製造業の人「拡散→収束→拡散→収束」についてアイデア出しの提案をしたいのであれば、歴史的に日本の製造業が昔からやってきた言葉を使って、

今回のアイデア出しは4RKYTの手法で考えてみましょう!

と言った方が腹落ちすると思われます。ぜひご活用ください。

(おわり)

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