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クリニックの医療従事者の給料に関して

給料への不満は賃金労働者の大きな悩み

現在、勤務医である先生方にズバリお訊ねします。ご自身が受けとっている給料はおいくらでしょうか? そして、その額に満足しておいででしょうか? 開業を目指す先生の中には、「勤務医は激務の割に給料が低い」と感じている方も少なからずいらっしゃることと思いますが、その不満が積もり積もれば病院への不信感が高まったり、医師という仕事自体へのモチベーションが下がったりすることに繋がるかもしれません。このように多くの賃金労働者にとって、給料への不満は働くことの意義に関わる問題であり、解消すべき重大な悩みでもあるのです。

しかし開業し院長となるからには、その“悩みの素”である給料の額をご自身が決定し、クリニックのスタッフに支給していかなくてはなりません。いったいどうやって金額を決めていけば、スタッフたちは納得してくれるのでしょうか。今回のコラムでは、その基本的な考え方をお伝えしていきます。看護師や事務スタッフなど、職種も様々である全員を満足させる“正解”を導き出すことは難しいかもしれませんが、一定の合意を得るためのガイドラインとなれば幸いです。

近隣医療機関の給与相場を頭に入れておく

給与額を決めていくにあたって、まずは相場を頭に入れておきましょう。医療業界の労働市場は、看護師・事務職ともに転職が盛んに行なわれる傾向にあります。つまりクリニックは常に人材流出の危険と隣り合わせといっても過言ではありません。近隣医療機関の給与水準を把握し、自院スタッフの賃金が低くなり過ぎないよう気をつけておく必要があるのです。

一昔前までは、こういったお金に関する生々しい情報は人づてでないとなかなか得られなかったものですが、最近はインターネットの医療業界向け転職サイトなどの充実ぶりも著しいものがあります。一度も覗いたことのない方はぜひ情報収集に活用なさって下さい。相場を調べる際にはモデルとする従業員属性が細か過ぎると煩雑になるため、業務経験や保有している資格ぐらいまでを参考としながらおおよその年齢ごとに目安をつけていくと良いでしょう。余談になりますが、給与額に限らず経営に関わる様々な金額について、日常的にリサーチを欠かさない姿勢というのも、これからのクリニック経営者に求められる心構えと言えるのではないでしょうか。

手当での金額調整で公平性を担保する

しかしながら、相場はあくまでも相場。近隣エリアの給与水準をそのままスタッフの賃金にあてはめるだけでは、「安易ではないか」と指摘されても返す言葉がありません。相場を踏まえた上で、個人個人の能力やライフスタイルを考慮した金額調整を行いましょう。ただしこの調整作業には客観性が必要。院長の胸三寸で決めてしまうと、先生にそのつもりはなくともクリニックのスタッフからは不公平に見えてしまうことがあるのです。特に看護師と事務職の間に大きな給与差がある場合はなおさらです。

そこで、給与体系にあらかじめ各種の手当を設けておくことをお薦めします。たとえば働きや責任に伴って付与する役職・職責手当や、配偶者や子どもがいる場合に付与する家族手当、さらに通勤手当や住宅手当などがあげられます。一般企業でもよく採用されている手法ですが、名目化された手当での賃金調整であれば公平性がある程度担保されている印象となるため、不満も出づらくなるのです。相場を反映しながら、スタッフそれぞれの暮らしを尊重し全体のバランスもとる──。難しいことではありますが、一度決定した給与はそう簡単に変えることができないため、ぜひ熟慮の上で決定なさって下さい。

高い離職率のままでは生産性が上がらない

自分のクリニックを持ち経営者になると様々な数字に神経をすり減らすものすが、今回のメールマガジンのテーマもそんな気になる数字、「離職率」です。もし今、「離職率が高かろうが低かろうが、クリニックに必要な人数を確保できてさえいれば結局は問題ないのでは?」と考えた先生がいらっしゃるなら要注意。「ブラック企業」という言葉の流行が示す通り、以前にも増して現代人は雇用環境にシビアです。高い離職率を放置していると、いつの間にか「退職者を量産しているブラッククリニック」という噂が立たないとも限りません。

またスタッフが頻繁に退職することによる負担増は、補充採用のためのコストと時間ばかりではありません。少人数で運営しているクリニックでは一人ひとりが受け持つ仕事が多岐に渡る上、特定人物のスキルに依存する「業務の属人化」も起きやすいため、退職者が出る度に業務フローの見直しを迫られることも。離職率の高いクリニックでは、日々の業務の効率化・洗練化が進まず生産性が上がりづらいのです。

離職率の低下でクリニックに好循環が生まれる

一般的な企業に比べ、クリニックのスタッフには女性が多いことにも目を向けなければなりません。男女平等が進む現代にあってもなお、結婚・出産・育児の大きなライフイベントが発生した際に進退を問われるのは女性、という家庭は多数派だからです。女性の働きやすさに関する各種支援制度や取り組みを見直すことが、離職率低下に繋がる場合も相当数あるでしょう。

もう一つ、少人数のクリニックに特徴的な職場環境としてあげられるのが、アットホームな人間関係です。それ自体は決して悪いことではないのですが、人と人との距離が近過ぎるゆえに大小問わずイザコザが起こりやすいことも事実。「どの新人も長続きしないと思ったら、古参スタッフによる職場イビリが原因だった」ということも珍しくありません。院内がオープンな雰囲気を保っているかどうか、常に気を配っておくことが院長には求められます。
離職率の低い状態が続くと「働きやすいクリニック」という自覚がスタッフ間に芽生え、安心して仕事に取り組める土台となります。そしてその安心感は、さらなる離職率の低下をも引き寄せることでしょう。クリニックの「健やかな好循環」は、そこに働くスタッフの健やかさから生まれるのです。

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