約6人に1人が運用型求人広告で転職。採用業務は「専門職」に - Alternative Work Lab Letters -

2010年代後半から、採用活動において採用担当者に求められるスキルや働き方が少しずつ変わってきていることを実感している人は少なくないだろう。それは、本格的な「ダイレクトリクルーティング」時代の到来、そして求人広告が運用型にほぼ全面的に移行していることに起因している。。

2000年代までは、企業が採用活動で応募者を獲得するために行うことは、「大手の求人媒体になるべく大きな広告枠を出稿する」もしくは「人材紹介会社に求職者の紹介を依頼する」などが主であった。そのため、当時の採用担当者に求められていたスキルは、どの媒体に出稿するのかを判断したり、どのような文言で求職者にアピールするのかを考えたり、応募してきた候補者の方を見極めたりすることである。

もちろん、それらのスキルの重要性は今も変わらないが、現在の採用担当者に求められている最も重要なミッションは「自ら手を動かし、応募者を集めること」「応募してきた求職者に魅力的に思ってもらうこと」に変化している。つまり、待っているだけではなく、自ら求職者に対してアプローチをする必要が出てきている。

ここまでは、採用担当者や経営者であれば、なんとなく理解できている内容だろう。
今回の記事では、ダイレクトリクルーティングをはじめとする「運用型の求人広告」がどの程度浸透しているのかについて言及していく。


IR情報から推定するダイレクトリクルーティングの現状


まず、転職市場の概観を見ていく。
経済産業省の「労働市場における雇用仲介の現状について」によると、2019年時点の年間転職者数は約521万人。最新の統計データでも、令和4年(2022年)の転職者数は約497万人となっており、毎年約500万人前後が転職をしている。

その中で、「広告」経由で転職を行う人は年によっても差はあるが、約30〜33%を推移している。つまり毎年転職する人の約3人に1人が求人広告経由ということになる。人数に換算すると毎年約150〜170万人前後が求人広告経由で転職を行なっており、現在の日本の転職市場のおいて求人広告が果たす役割は大きい。

では、その中で運用型の求人広告の比率を見ていきたい。
まず運用型の求人広告の定義について整理する。明確な定義があるわけではないが、ここでは求人広告を運営している会社の制作担当や営業担当ではなく、求人を行う企業の人事や採用担当者が自ら求人を作成したり、登録者に対してスカウトなどを送信することによって、応募の獲得を行うサービスを運用型求人広告と定義する。スカウトによって応募喚起を行うダイレクトリクルーティングもここに含まれる。

運用型求人広告経由の転職者比率のデータはないので、有名な運用型求人広告やダイレクトリクルーティングサービスを提供している企業のIR情報をもとにフェルミ推定も交え、予測していく。


まず、ダイレクトリクルーティングといえばビズリーチ。
ビズリーチを運営するビジョナルのIR資料によると、今年度のビズリーチの売上予測は590億円、そのうちダイレクトリクルーティングによる売上比率が約66%。その中で求人企業が直接候補者にスカウトを送り、採用に至っているのが約70%、人材紹介会社経由が約30%とのこと。

ビズリーチ経由で採用した場合、企業はビズリーチに採用者の年収の15-20%、人材紹介会社は採用者の年収の10%程度を支払うことになる。ビズリーチ経由で採用された人の平均年収を600万円と計算すると、年間で約39,000人がビズリーチ経由で採用されたと推定できる。

同じようにIR資料から推定していくと、Green経由では年間約6,000人前後、Wantedly経由では年間約11,000人前後が転職していると推測できる。

そして現在、日本で最も大きな運用型求人広告といえばIndeedである。Indeedを運営するリクルートホールディングスのIR情報によると、Indeedは年間300万社が利用している。この300万社のうち10%の企業が年間に1名ずつ採用していたとすると年間30万人がIndeed経由で転職していることになる。10%の企業しか採用できていないと考えるのは非常に保守的な見積もりであり、Indeed経由での転職者は50万人以上存在していてもおかしくはない。

ビズリーチ、Green、Wantedly、Indeedの4つの求人広告サービスだけでも約35万〜55万人が運用型求人広告経由で転職していることになり、求人広告経由で転職する人の約20〜33%になる。国内には他にも多くの求人広告が存在し、その多くが運用型求人広告であることを考えると、転職者の半分程度はダイレクトリクルーティングをはじめとする運用型求人広告経由で転職しているかもしれない。つまり毎年の転職者のうち、運用型求人広告経由で転職する人は約6人に1人程度は存在するのではないか。


採用の「専門職化」。これからの人事・採用担当者に求められるものとは?


上述したように、現在、日本に存在する求人広告サービスの多くが求人広告を掲載するだけではなく、採用担当者が自らスカウトを候補者に送ったり、求人をこまめに更新、修正するなどし、応募を集めることが求められる。かつて求人広告サービスは広告枠の販売、広告の作成、そして求人への応募獲得までを一手に引き受けていた。それが今の求人広告サービスは登録者データベースをできるだけ多く集め、そのデータベースへのアクセス権を販売するビジネスに変化している。また、IndeedやWantedlyをはじめ、採用担当者が自ら求人広告の作成・更新を常に行ったり、競合他社の動向も見ながら出稿戦略を考える必要もある。

採用活動は「掲載型」ではなく「運用型」に完全に移行しているといえる。
これは、企業が販促を行う広告がGoogleやfacebookなどの運用型広告へ移行したことと全く同じ流れである。運用型になり、かつ求人広告サービスごとの運用ノウハウが求められるようになってくると、採用担当者の仕事、中でも特に「応募獲得」のスキルは専門職化していく。

実際、アメリカでは「リクルーター」というポジションは専門職として考えられており、自社にリクルーターがいない会社は外部のプロフェッショナルリクルーターに依頼をし、応募獲得業務を依頼するのが主流だ。ある調査では、アメリカ国内でリクルーターは約26万人いるとも言われており、また、2024年のアメリカ国内でリクルーティング業務(応募獲得業務)のアウトソーシングは前年対比で25%前後成長するといった予測も存在する。

日本では、まだ採用担当者が一気通貫で採用業務を担うことが多く見られるが、これからは「応募獲得」に特化したスキルを持った個人や企業への需要が激化するであろう。採用を行う企業は応募獲得に特化した専門スキルを持った専門人材の採用、育成が必須である。もしくは自社では応募後の面接や入社動機作りに専念し、応募獲得に関しては専門会社にアウトソーシングするといったやり方が一般的になってくるであろう。まさに現在、インターネット広告代理店はかなりの数存在しているが、同じように採用領域における応募獲得に特化した運用代理店はこれからも増え続けるはずだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?