コマーシャル・フォト特集について
『コマーシャル・フォト』2023年11月号にて特集していただきました。38ページにわたり実績や作品、インタビューが掲載されています。単独で特集いただくのは2018年10月号以来、5年ぶりで二度目になります。巻頭ページでは俳優の鳴海唯さんを撮り下ろしました。くわえてショートムービーもつくりました。また、ここ数年で変化した部分として、映画やドラマのスチール、CMやMVなどの映像のお仕事について大きく扱っていただいています。
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撮影の現場にいくと、あの人はどの美大や専門をでた、どこのスタジオにいた、どの師匠についていた、というのは当然聞こえてくる話です(親がアーティストやクリエーターというのもたまにあります)。それで広告や映像業界で働く多くの人たちがいずれかを、もしくはすべてを経験された方ばかりであることを知ります。なかでも第一線で活躍するみなさんは、いわば写真や映像制作のためのエリートたちともいえるでしょう。そして、ほとんどが東京かその近辺に居住しており、経歴と拠点が、いかにその人自身の背景を補強するうえでの信用につながっているかを実感するのです。
一方、自分はというと、前述したような経歴がひとつもないまま35歳という遅い年齢で別業種から突如フォトグラファーに転身し、未だに大阪在住です。この業界のスタンダードに照らし合わせてみると、やはり異質であるといえるかもしれません。実際「なぜ東京に住まないの?」と質問された回数はおそらく千を超えており、この仕事を始めた頃は「誰に連絡したらいいのかわからない」や「ネットでは見かけるけれど、ほんとうに存在しているのか」と言われたこともあるほどです。
反転すると、この仕事がそれほど東京中心のキャリアであり産業であることの証左になっており、その場所で、スタンダードなバックグラウンドを持つもの同士がコミュニティとサイクルを形成しながら実際の仕事に繋げているのだとわかります。(しかし、これは広告や映像の分野だけに限らない話ではあります)
東京やその近辺に住み、キャリアを積みあげ、その後"地方"にIターンやUターンする人はそれなりにいるはずで、とくに震災やコロナ禍は大きなきっかけになったと思います。対して、自分がIでもUでもなく"中心"からあえて遠方に「住む」ことで意図的にそのコミュニテイとサイクルから距離を置いているのは、ある種の実験のような意味もあります。(このあたりについては前回の特集のインタビューに詳しいです)
とくに、広告やエンタメ、CMや映画の分野では、東京に住まずに「規模の大きな」仕事に関わるのはやはり難易度が高いというのが現状です。10年かけてその状況に挑んできましたが、これを他に共有できる人はまだいません。しかし、この仕事が、東京に住んでいなくても、必要とされるバックグラウンドがなくても、なんらかの事情でそれができない人はたくさんいるはずで、それでも、挑んでもよいと思ってほしいし、この選択肢を持つことを諦めないでほしい。そういう希望があるのです。
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さて、そんな野生(?)で野良の撮り手である自分が『コマーシャル・フォト』で二度も単独特集を組んでいただけたのは大変な光栄なことで、これまで仕事をご一緒したり、応援していただいたみなさんには感謝の気持ちでいっぱいになります。今回、担当編集の方から「濱田さんがいま何を考えているのかを知りたい」とおっしゃっていただきました。どんな写真を撮っているかやどう撮ったかではなく「どう考えているか」を知りたいと思ってもらえたことは、オルタナティブな在り方を考えてきた自分にとって、とても感慨深く胸に響く言葉でした。
改めて、編集部のみなさま、撮り下ろし作品、実績の掲載にご協力いただいたみなさま、この度ほんとうにありがとうございました!
ちなみに、気になって『コマーシャル・フォト』のバックナンバーについて調べてみたところ、2010年以降(全167号)に単独特集が組まれた作家は二人で、そのうちの一人が自分というのがわかりました(もう一人はあの方)。ただ「フォトグラファー」としては自分一人だけ、みたいです。未だにスタジオライティングの知識もなかったりするので、専門誌で、しかも38ページ(!)という扱いは、ちょっと怖くもあります。なんだか後ろめたいですが、でも、そういう人がいてもいいですよね...?