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『国債の格付けがボツワナと同じところまで落ちた』久保利英明×冨山和彦

久保利英明×冨山和彦(株式会社経営共創基盤共同経営者(パートナー)/IGPI グループ会長)対談Vol.3

久保利「先生の経歴からみると」
冨山「はい」
久保利「再生機構のところが大きいんですよね」

冨山「そうですね。2003年に産業再生機構ができて」
久保利「はい」
冨山「そこのいきなりCOOに42歳の時になったんです」
久保利「うん」


冨山「今から考えたら若いんですよ」
久保利「若いですよ」

冨山「(笑)実務は私がやってましたから、急に10兆円をどこに投じるかと決める立場になりました」
久保利「うん」
冨山「よっぽど困ったんでしょうね。あのときね(笑)」
久保利「(笑)」

冨山「みんな忘れてますけど、あの時は国債の格付けがボツワナと同じところまで落とされて」
久保利「ああ」

(注意)
2001年当時、米国の格付け会社が日本国債を二段階格下げした。日本の信用は新興国並といわれ、格付けが日本と同等かそれより上の国として引き合いに出されたのがボツワナだった。ボツワナは国土の過半が砂漠である。最大の援助国は日本。エイズ感染率が世界最悪という報道がなされていた。

冨山「事実上、投機格付けみたいな」
久保利「確かにね」
冨山「結構危機的だったんですよ」
久保利「でしょうね」


冨山「だからそのあと、韓国がIMF(International Monetary Fund、国際通貨基金)に入っちゃいましたけど、紙一重ぐらいまでいってました」
久保利「あぁ、そっかそっか。IMFにいっちゃってましたね」

冨山「わりとあそこまでいくと、いくとこまでいくと、能力本位で人を使わざるをえない」
久保利「なるほど」


冨山「しのごの言ってられない時だったので、声がかかったんです。自分はそれまであんまり政府の仕事には関わって来なかった」
久保利「はい」
冨山「純粋に民間人だったんです」
久保利「うん」

冨山「あと、金融にもあまり関わってこなかったんですよ」
久保利「はい」
冨山「スタンフォードのビジネススクールに行っていたので、基礎的な理論とか理屈は勉強してました。だから結構びっくりしたのは」
久保利「うん」

冨山「再生機構って不良債権を買い取るわけです」
久保利「はいはい」
冨山「買い取る仕事と、その会社にエクイティを入れる、インジェクションするというこの両方をやるんです」
久保利「はい」

冨山「不良債権をいくらで評価するか、で、毀損していれば債権放棄してもらうんですね」
久保利「はい」
冨山「当然その評価をするんですけど、ポイントなのは担保評価なんです」
久保利「はい、はい」

冨山「担保でカバーされている分は信用部分からカットするので、担保評価によってすごく」
久保利「変動しますよね」
冨山「ええ。保全部分が影響を受けるんです」

冨山「担保評価の議論するときにへーって思ったんですけど、銀行さんの多くは取得原価で買い取ってくれと言うんですよ」
久保利「(笑)うんうん」


冨山「彼らの理屈はね。日本の金融というのは不動産の値が上がってきて、担保価値が増えて」
久保利「あー、増えて」
冨山「それによって信用されて、創出力が増えて経済成長してきたんだと」
久保利「そりゃそうでしょう」
冨山「これが基本なんだと」

冨山「だからここで担保価値をたたいて、価値が下がるような評価を国がやったらね、もうこれはこの国の基本的な成長モデルの否定なんだ。と言われるんですよ」
久保利「うーん」


冨山「それで(笑)「すいません。一応、私も司法試験に受かっておりましてですね。担保権ってそれ勉強しました。逆に伺いますけどね。

担保っていうのは何のためにあるんですか」って言ったら「それはね、債権が回収できなくなったら担保権を行使して、それを売却して回収するんだ」と。「そうですよね、今そう言いましたよね。そうしたら時価に決まってるじゃないですか」って言ったら「それはそれとして。それとしてこの国の金融秩序っていうのは」って頑張るんですよ」

久保利「あー。わかります、わかります。それって僕が、弁護士になったの今から52年前ですけども、そのとき、僕は会社更生弁護士だったんでね」
冨山「あー、そっかそっか。よくご存じだ」

久保利「早川種三さんと」
冨山「はいはい」
久保利「そうすると、いつも更生担保権の評価をどうするかというので」
冨山「(笑)そっかそっか」

久保利「更生担保権というのは、結局のところは売っ払うんじゃなくて、工場用地とかそういうものがあるから、ゴーイングコンサーンでやりましょうと。ゴーイングコンサーンというと、金融機関の人達は高く評価してくれると思うわけですね」
冨山「(笑)」

久保利「ゴーイングコンサーンって、この工場が真っ赤かのかだからこの会社つぶれたんでしょ」
冨山「ええ」
久保利「この評価すっごい低いですよ」

冨山「ですよね。だってキャッシュローン出ないんだから」
久保利「当たり前じゃない。なんの意味もないんだから」

久保利「破産しちゃって売っ払って、マンションでも建てますかと。そんならそれでもいいですよ。でもそんなことしたら従業員が全部クビになりますよ。おたくの銀行に筵旗(むしろばた)立ちますよと。それは勘弁してくれという議論をね、僕は昭和46年からずっとやってた」
冨山「全くおなじ、だからその理論を(笑)」
久保利「全然進歩がない(笑)」


冨山「(笑)平成になってもやったわけです」
久保利「やってる(笑)」

冨山「当時、バブル崩壊でダーンと下がってましたからね」
久保利「まさにそうですよ」
冨山「回収できないんでしょうと」
久保利「うん、そう」

冨山「みんないい大学出てね。それこそMBAなんか持ってるわけですよ」
久保利「うんうん」
冨山「なんでこの人、こんな頭悪いこと言うんだろうと思ったんだけど、結局同じなんですよね」
久保利「そう」

冨山「その能務を与えられてるから。その能務を与件としてしかモノを考えなくなってるんです」
久保利「もう、そうなんですよ」
冨山「あれ、すごいですね」


久保利「そこで冨山さんに、わかったと言ったら、冨山さんから評価されるけど、上からは、もう「お前、クビだ」と言われるんでしょうね」
冨山「そうそうそう、そうなんですよ」

冨山「斉藤惇さんも私と同じ考えだったので、高木さん(高木新二郎弁護士)もそうなんですけど」

冨山「時価評価しかない。取引事例なかったら、ディスカウントキャッシュフロー(DCF)だと言ったんです。当時バッシングがすごかったですよ」
久保利「そうだよね」


冨山「こいつはアメリカの手先なんじゃないか。みたいなそんなこと言われて(笑)」
久保利「すぐそういうの出てくる(笑)」
冨山「日本の金融市場を壊してきた。壊してないじゃんか」
久保利「お前が壊してる(笑)」
冨山「お前がおかしくしてる(笑)ここはね、いまだに忘れないですね」
久保利「なるほど、なるほど」


冨山「俺たちは金融のプロだと言うわけですよ。お前なんか素人だ。みたいなこと言うんだけど」
久保利「いやいや、だからさ、プロがどうしてそんなもの貸したのよって」


冨山「僕も金融機関に友達いっぱいいるので聞いてみたら、同じ金融機関がね。アメリカでお金を貸しているときは、普通にDCF(注:ディスカウントキャッシュフロー方式)でやってるんですよ」
久保利「そうでしょう」

冨山「どうしようかなと思ったんです。ただ当時の小泉政権も、竹中さんたちも僕らの側に立ってくれました。金融庁の認識もこっち側の立場に立ってくれましたので」
久保利「そうでしたね」

冨山「さすがに今は担保評価は時価評価ですよ」
久保利「(笑)」
冨山「(笑)さすがに、取得原価主義というのは、もうなくなった」


久保利「あれはね、ほんとうにわけがわからない。でも、それが通ると思っていたわけですよね、彼らは」
冨山「です、です、です」
久保利「通せると」
冨山「思ってたわけです」


久保利「国家権力は俺が握っているぐらいのことを、金融資本としては考えたんじゃないですか」
冨山「思ってたみたいです」


久保利「ね。それ、そうはいかないと」
冨山「ええ。いかなかったみたいです」

冨山「裏にまわって、一生懸命我々をクビにする工作をしていましたけど」

久保利「僕もね。あの時、金融タスクフォース(金融問題タスクフォース 2002年12月発足)という」
冨山「はい」

久保利「公的資金を注入するしないという、するしかないじゃないのって」

冨山「ですよね。だって、自己資本消えてるわけだから」
久保利「りそな、つぶすわけにはいかんでしょうって」
冨山「ああそっか、そっか」

久保利「その時バーターというか条件として、りそな銀行とかしかるべき金融機関は、みんな指名委員会等設置会社になりましょうという話になって」
冨山「はい」

久保利「ガバナンスを強めようという話です。僕はあの頃から、ガバナンスがしっかりしないととんでもないことが起きて」
冨山「です、です」
久保利「ですよね」


冨山「いまだにガバナンスの議論って、低劣な議論が多いじゃないですか」
久保利「うん、そう」

冨山「ガバナンスって結局、銀行の権力者を」
久保利「牽制すること」
冨山「牽制することでしょう。そこに尽きるわけですよね」
久保利「尽きます」

冨山「尽きますよね」

冨山「指名委員会の仕組みをちゃんとやらないで、ガバナンスの議論をしてるとこ多いでしょ」
久保利「ないんですよね」

冨山「謎なんですよね。他のことどうでもいいからそこだけやれよって言うんだけど、他のことみんな好きなんですよね(笑)」
久保利「いや、恐ろしいからでしょう、結局(笑)」

冨山「そうなんですよ(笑)これ半分自慢話なんですけど、指名委員会をガチでやらない場合、私は、とにかく社外取(締役)を受けませんと明言するとですね。意外と頼まれないんですよ」
久保利「ああ」
冨山「社外取(締役)」

久保利「ようするに、この国の悪の原点というか、狂ってる原点は、どこにあるかというと、古い賢くもないやつが、えばりくさって会社をこう壟断(ろうだん)してるからなんですよ」
冨山「そう、そう、そう」

久保利「それを追い出せばね、良くなるって。僕はずいぶん社長のクビ切ってますけども」
冨山「そうですよね」
久保利「まさにね」
冨山「たぶん、私以上に切ってるかもしれません(笑)」

久保利「それはもうガバナンスを効かせようというよりは、よし、このままじゃこの会社、潰れちゃうぞーと」
冨山「わかります、わかります」


久保利「みんな落ちるところまで落ちると、取締役たちもとにかく、あいつを追っ払わないとどうしようもないというんで、結局、内部から蜂起が出てきて、従業員組合と組んだり、いろんなことをしながらね、放り出すわけですよ。放り出された方は、キョトンとして、「え、お前らが俺の首切る、嘘でしょう」みたいな感じですよ」

冨山「そっかそっか、わかりますわかります。でも本来それ取締役会の仕事ですよね」
久保利「それだけが仕事ですよね」


冨山「それ以外仕事ないと思うんだけど(笑)社外を増やすと変な社外が出てきちゃって、どうでもいいことをくちゃくちゃくちゃくちゃ口出ししたり」
久保利「ありますね」

冨山「言うでしょう。それで変な執行のところに介入したりするから」
久保利「そうそう、それは違う」
冨山「違いますよね。社長の焼きが回ってないかどうかだけ、見てればいいんですよね。これ」
久保利「うん、そう。そこでしょう」
冨山「ね。そうなんですよ」

冨山「ガバナンスという言葉は、英語でね、ぼんやりした言葉なんで、結構誤解が多いですよね」
久保利「そう。だから僕は「経営者をコントロールすること」と。で、みんな、企業統治って言うじゃないですか」
冨山「あ、そうそうそう」


久保利「コーポレートガバナンス=企業統治。企業統治って、それ誰がやるんですかというと、社長がやるってみんな思うじゃないですか」
冨山「たしかにあれ言葉間違ってる」

久保利「そうじゃない、社長をやっつける、おさえこむ」
冨山「経営者統治ですよね」
久保利「ね」


冨山「経営者をどう統治するかですよね」
久保利「経営者を、なんですよ。やられる方なんですよ。やるのは社外取締役なんですよ」

冨山「ですよね。経営者がやってるんですからね」
久保利「だから企業統治は、経営統治じゃないんだということを誰もわかってないです」
冨山「はいはいはい」


久保利「企業統治とはイコールそういうものなんだ。社長がやるんだ。だから企業を統治するというと、社長ですからね。日本では」
冨山「です、です、です」

久保利「CEOというのは、チーフエグゼクティブオフィサーなだけじゃないですか」
冨山「です、です、です」
久保利「ただのオフィサーでしょう」
冨山「ええ。オフィサーです」

久保利「日本だけ、社長ですからね」
冨山「確かにそうですね。昔の合名に近い感覚ですね」
久保利「ね(笑)」

冨山「たしかにそうだな。チーフエグゼクティブオフィサーって、なぜか日本では、最高経営責任者と訳してますけど、最高執行責任者なんですよね、エグゼクティブだから」
久保利「そうそう、経営は執行なんでね」

冨山「経営の最高体は取締役会ですよね」
久保利「それはもうボードメンバーに決まってるんですよね」
冨山「ええ、ボードメンバーですよね。あれまたね、困った訳をしたやつがいるんですよ(笑)」

久保利「みんなね、わけわからずにね」
冨山「たしかに、たしかに」
久保利「やっちゃってるんですよ」


久保利「そういうとこ、イロハから本当はメディアは直してくれないといけないんだけれども」
冨山「まあでも、少なくともこういうダイナミックな時代になっちゃうと、あのモデルはもう機能しないですね」
久保利「それはもう無理ですよ」

冨山「ですよね。だからよく言うんですけど、自民党のほうがよほどマシで総裁選やるじゃないですか」
久保利「はい、やりますね」

冨山「(笑)昔はね、経済一流、政治三流とか言ってましたけど」
久保利「両方とも最近、落ちてきたんじゃないですか」
冨山「そうそう政治も三流、経済五流ぐらいになっちゃったんで」

冨山「ここは本当にちょっと、ほんとちゃんと真面目にやらないとね」
久保利「いや、正念場です」
冨山「ですね」

久保利「もう半分諦めてるというか。とにかく日本人って落ちるところまで落ちると」
冨山「そうそう」
久保利「なんとかなるよねという」


冨山「です、ですです。これもまた歴史の法則ですよね。それこそ大化の改新の時代から、落ちるとこまで落ちると、もうやばいやばいやばい(笑)」
久保利「(笑)みんなね」


冨山「植民地にされちゃいそうだみたいな。そういう意味ではちょっと、緊張感が出てくるような国際情勢になってきましたからね」
久保利「いいことですよね」
冨山「いいことです。特にアメリカはずっと守ってくれてて」
久保利「もうその時代じゃない」

冨山「ひょっとしたら、アメリカの兵隊さんは来ないかもしれないですね、日本が有事になっても」
久保利「うんうん」
冨山「もう無人兵器しか来なくて」
久保利「いや、たぶんね」
冨山「ね」

久保利「だって、兵隊さんはアメリカ人ですからね」
冨山「なんでアメリカの若者が死ぬんだという」
久保利「そりゃ、みんなそう思うでしょ」
冨山「ふつう思いますよね」
久保利「ねえ」

冨山「ちょうど自分がアメリカにいる留学中に、湾岸戦争起きたんですよ」
久保利「はいはいはい」
冨山「ずっとテレビでやってて、毎日のワイドショーのメインの話でした。例えば、カリフォルニアのワイドショーだったら」
久保利「はい」
冨山「カリフォルニア州の若者が、誰が死んだかという話なんですよ」

久保利「そうですよ。だって、あれ州兵が行くんだからね」
冨山「顔写真と名前が出されて、お母さんとかも出てこられるんです。今日は5人亡くなりました。次の日は1人亡くなった。と。それを必ずワイドショーが毎日やるんですよ」
久保利「へえ」

冨山「あれを見ててね。今のアメリカって、昔みたいな」
久保利「できない」
冨山「戦死者がいっぱい出るような戦争をね。そんな何ヶ月も出来る国じゃないなと思いました」

久保利「それは、どこの国でもそうなってくるんですよね」
冨山「なっちゃいますよね。特に先進国はね」

久保利「だって、みんな、母親がいて父親がいる人が死ぬんだから」
冨山「で、まだ若いですから」


久保利「若いでしょう。だから戦争をするってそういうことなんです」
冨山「そういうことですからね」
久保利「したくないってよくわかる」

冨山「よその国のために、たくさんのアメリカの若者が亡くなるというのは、かなりしんどいはずなんです」
久保利「September 11で、ああいうテロでチクショーと思うのは一過性でね」
冨山「その瞬間はいいんです」
久保利「あれがもう何年も、20年も続くとね」
冨山「続いちゃうと厭戦気分になってきちゃう」
久保利「出ますよね」

冨山「ベトナムもある意味そうですよね。アローワンスはちっちゃくなってるような気がするので」
久保利「もうそうでしょうね」

冨山「日本、経済的にも安全保障的にも結構大変ですから。流石に緊張感が必要です」
久保利「出てきたと思いますよ」
冨山「出てきた方がいいと思うんです」

【冨山 和彦 PROFILE】
株式会社経営共創基盤共同経営者共同経営者(パートナー)
IGPIグループ会長

1960年生まれ
東京大学法学部卒 スタンフォード大学経営学修士(MBA) 司法試験合格
ボストンコンサルティンググループ
コーポレイトディレクション代表取締役を経て
2003年 産業再生機構設立時に参画しCOOに就任
2007年 経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEOに就任
2020年10月IGPIグループ会長
2020年日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立し代表取締役社長に就任

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