書体デザインにおいて何が重要か?

ベルリンで開かれた「2019年書体デザイン修士課程修了生作品展示会」に行きました。ここ数年は毎年開かれています。2日間にわたってベルリン芸術大学の一角にアミアン(フランス)・ハーグ(オランダ)・ローザンヌ(スイス)・ナンシー(フランス)・レディング(イギリス)・パリ(フランス)の各校卒業生の作品ポスターが展示され、このタイミングでベルリンに来られる卒業生は希望すれば講演もできるというもの。何作品か写真を撮ってきました。

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このように多様な作品が並ぶのが恒例です。むしろデザインの方向性は、毎年どんどん拡散していると思う。全く新しい文字の形を追究したもの、幼児用など目的に合わせて理論的・論理的に設計したもの、多言語組版として馴染むかどうかを目標としたもの、古い書体を現代の用途に合うようアレンジしたもの、ファミリー構成を工夫したもの…… 設計上の核がさまざまなので、結果このようなバラエティが現れます。

それでいつも考えるのは、書体デザインが上手い、とはどういうことなのか? です。カーブが綺麗に描けているとか、スペーシングに大きな欠陥がないとかは「下手ではない」ことの最低条件ですが、上手いとはなんでしょう? 言い換えれば、書体デザインにおいては何が重要なのでしょう?

引っ掛かりがなく読みやすい、ということかと思いきや、いまの欧文書体の世界ではそれは目指すべきことの単なるひとつだと思われているような気がする。そうなったのは、安価で使いやすい設計ソフトや専門書・専門情報の充実、さまざまな教育機関の登場によって間口が広がり、読みやすいと感じられる普通の書体はもう溢れているからだと思います。次々に新しいフォントが発売される中、それ以外の何かで目立つ必要がある、あるいは新奇性のあるものを作りたいという熱意が内になければならない、という空気を、いまの欧文書体の世界、とりわけ若い人の間では強く感じます。

書体設計は、活字、写植、低解像度のディスプレイ…… と各時代の技術によって影響を受けてきたようですが、現在の技術(の手軽さ)が影響を与えているのは何よりも、読みやすい普通の書体こそが金字塔だという価値観かもしれない。そしてこれは、書体デザインに欠かせない「他の人からのフィードバック」の与え方や貰い方にも関わってくる問題です。この話はまた次回以降に……。


(写真の書体は上から)Spec by Ryan Bugden; Rodina by Fabiola Mejía – Maneuver by Joona Louhi; Tabloid by Angel Kwong; Rapida by Michelangelo Nigra – Prelude by Ricard Garcia; Rezak by Anya Danilova – Coat by Céline Odermatt – Decibel by Ethan Cohen; Grenelle by Claudia Fratantonio; Borel by Rosalie Wagner; Gauguin by Miquel Vila; Material by Kyeongsik Kim.

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