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保育園・幼稚園で育む「10の姿」から学ぶ、先生たちの仕事術(後編)

幼児期(小学校入学前)までに身につけてほしい「10の姿」がオトナ(社会人)の仕事にも通じるというシリーズの第3弾。今回は最終回です。
今日は⑦〜⑩の4つの視点で見てみましょう。

子どもに育みたい「10の姿」のイメージ 右は大人への応用編

⑦自然との関わり・生命の尊重→SDGs・他者への配慮と人権の尊重

(1)SDGs
子どもがこれから幸せに暮らしていくためには持続可能な社会の実現が不可欠です。特に環境問題は一朝一夕には解決できません。
子どもが自然に親しみ、生命の大切さを学び、自然を尊ぶ気持ちを養いたいのであれば、私たちオトナもしっかり意識したいところです。

国際連合広報センターによるポスター

5のジェンダー平等は実現できているでしょうか。言動には十分注意したいし、心のバリアフリーも意識したいですね。
13の気候変動対策はすぐには結果の出ないことですから、保育所、幼稚園でしっかりと子どもに意識づけ、その理念を引き継いでもらわなければなりません。
そして、これらは我が国だけの問題では無いはずです。
社会のあらゆる変化は子どもの生活に影響を及ぼします。ですから、オトナである保育者は、社会の動きに敏感でなければいけません(保育所は社会の縮図です)。
決して保育のテクニックにだけ関心を向けるのではなく、社会的な変化にも関心を向けなければならないと思います。
(2)他者への配慮と人権の尊重
2022年は保育園内での虐待事件で逮捕者が出るという衝撃的な出来事がありました。今、保育者に向けられる視線は厳しいものがあると思います。
保育者による人権への配慮については改めて書きたいと思いますが、「人権」というとあまりピンとこないというか、意識しずらい漠然とした概念にとらえられがちです。
ごく簡単に表現すれば、「自分が相手の立場だったらどうか?」ということを常に意識することに尽きると思います。
職員間の悪口であっても、相手(悪口を言われている人)の立場だったら傷つくものです。もちろん、業務上必要なことは言わなければなりませんから、その言い方には大人として十分な配慮をした上で伝える必要があります。
同様に、新人教育においても、新人は緊張し、視野も狭く、配慮が行き届かないことがあってイライラすることもあるでしょう。そんな時、自分の新人時代を思い出し、今、目の前にいる新人の気持ちに十分に寄り添ってほしいのです。
子どもに対しても保護者に対しても同様です。
「相手の立場に立って物事を考える」ことこそ、専門職の最も大事な仕事だと思います。

⑧量・図形、文字等への関心・感覚→コスト意識・課題の可視化、経営感覚

もともとの「10の姿」は数や文字への関心について育みたい、「大きい」「小さい」、「多い」「少ない」などの概念の理解を促そうとするものでしょう。
これは保育者にもとってもとっても大事な視点で、かつ、現場の保育士が最も苦手とする部分ではないでしょうか。
やはり保育現場における保育にもコスト意識は重要で、費用対効果をしっかりと見極める視点が重要です。限られた予算を有効に使うためにはどうすれば良いのか、少しビジネスライクな思考についても学ぶ必要があると思います。
例えばICTの導入です。
ICTの導入には当然ですが初期投資がかかります。しかしその結果職員の残業代が減ったり、子どもと関わる時間が増えたりすれば、それは十分にペイできるものと考えられるでしょう。
また、保育をより良くしようとするならば、課題を可視化する視点も欠かせません。ビジネスの世界では常識的に行われているこれらのことを(ビジネスマン並に行う必要はありませんが)、保育現場でもできるだけ実践できないものかと思うのです。
私も大学の教員ですから経営感覚はとても鈍いです。
そのため、ビジネス書をたくさん読んで(あるいはこのnoteとかTwitterの仕事術を参考に)経営感覚を身につけようと努力しています。
これらの感覚を駆使すると、結果として保育施設の組織としての質が確実にアップデートされるものと確信しています。

⑨言葉による伝え合い

保育所ではお友達同士の喧嘩の仲裁はもはや日常業務と言って良いでしょう。おもちゃの取り合いに割ってはいる保育者の「お裁き」はとても上手です。
保育者はいろいろな思いを持っています。しかし、思いは言葉に出さないと伝わらないことが多いです。
相手に対して十分な配慮をした上で、言葉によるコミュニケーションが多い園は「良い園」といって良いのでは無いでしょうか。
その言葉によるコミュニケーションの最も大事な言葉は「あいさつ」です。
挨拶をしなければ損をすることがありますが、挨拶をして損をすることは絶対にありません。
時にいい加減になりがちな挨拶を、心を込めて(大きな声で)行うことで、職場のコミュニケーションの質がぐっと向上することは間違いありません。
この頃の大学生もなかなか挨拶をしてくれません。
でも私は挨拶をし続けます。
もっとも心を込めて挨拶をするのはお掃除の方々です。
朝早くから汗だくになってお掃除をしてくださる姿に最敬礼をするのです。
そんな姿勢を今後も貫こうと思っています。

⑩豊かな感性と表現

美しいものを美しいと感じるためには、心に余力がなければいけません。
この執筆も最終章になりましたので、私の思いの丈を記しておきます。
心に余力…今の保育士はとても忙しいです。若手の保育士も人手不足から促成栽培されてしまいます(1年目から色々任されて、どんどん心が荒んでいきます)。ゆっくり成長するゆとりがないのです。
中堅、管理職もそれぞれ家庭や仕事で全く余裕のない日々を過ごしていることでしょう。
子どもの前に笑顔で立つためには、保育士が感性豊かで、子どもとともに喜び、笑い、時に涙する余力をもって仕事をしてほしいと強く感じています。
子どもたちにもう1人保育士を!というキャンペーンがなされました。
所属は違えど、保育分野に関心を持つ新聞記者の共著による書籍です。
今、保育所で何が起こっているのかがお分かりいただけると思います。

ひとなる書房(アマゾンのリンクへ)

そして、私も「論文では伝わらない」ということに遅ればせながら気がつき、SNS(Twitter、noteなど)で発信していこうと考えています(仕事ですからもちろん論文も書きますが)。
すべては子どもたちの幸せのために、今後も研究と発信を続けていきたいと思います。
ここまで長い長い文章を読んでくださりありがとうございました。
今後もいろいろな形で保育者のみなさんを応援していきたいと思います。


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