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電気通信におけるプライバシーのあれこれ

大学の講義の中で、COVID-19の感染拡大抑制の流れを受けた各国各組織の取り組みが紹介されました。

特にAppleとGoogleが連携した「Privacy-Preserving Contact Tracing」のP2P的な情報の交信に興味があったこと、また、駒澤綜合法律事務所のIKUOTAKA84さんがプライバシー安全に関してメモを残されていて、電気通信事業法に関心を持ったため、簡単にまとめています。
(IKUOTAKA84さんによるメモは、将来的にオプトインするという、Apple, Google両社の方針を前提としています)


また、IoTやSmart CityあるいはDigital Twinなどを要素とする、Smart Lifeを念頭においたインフラ構築の際に、しっかり押さえておかなければいけないところでもあります。



はじめに

まずはプロジェクトについてですが、以下がプロジェクトのコンセプトになります。

Across the world, governments, and health authorities are working together to find solutions to the COVID‑19 pandemic, to protect people and get society back up and running. Software developers are contributing by crafting technical tools to help combat the virus and save lives. In this spirit of collaboration, Google and Apple are announcing a joint effort to enable the use of Bluetooth technology to help governments and health agencies reduce the spread of the virus, with user privacy and security central to the design.
(from. https://www.apple.com/covid19/contacttracing/, 2020.04.13)

(Transrate by DeepL  Transrator)
世界中で、政府や保健当局が協力してCOVID-19パンデミックの解決策を見つけ、人々を守り、社会を回復させるために活動しています。ソフトウェア開発者は、ウイルスと戦い、命を救うための技術的なツールを作ることで貢献しています。この共同作業の精神に基づき、グーグルとアップルは、ユーザーのプライバシーとセキュリティを設計の中心に据え、政府や医療機関がウイルスの拡散を減らすためにBluetooth技術を使用できるようにするための共同作業を発表しています。

また、当ソフトウェアでは個人端末の識別子をシステム的に匿名な形で利用するため、データやり取りに関するフローを公開しています。

以下にContact Tracing - Framework API, Contact Tracing - Bluetooth Specification, Contact Tracing - Cryptography Specification


また、仕組みとしてのポイントを冒頭で紹介したIKUOTAKA84さんのメモから引用します。

明示的なユーザーの同意が必要です
個人を特定できる情報やユーザーの位置情報を収集しません
接触したリストはスマホから送信されません
陽性と判定された人は、他のユーザー、GoogleやAppleに特定されません
COVID-19パンデミック管理のための公衆衛生当局による連絡先追跡にのみ使用されます。
あなたがAndroid携帯電話やiPhoneを持っているかどうかは問題ではありません – 両方で動作します。
(from, http://itlaw.komazawalegal.org/?p=636, 2020.04.13)


改めて簡単に仕組みを示すと、AさんがBさんに当アプリをお互いにセットアップした状態で、接触します。すると、Aさんの端末には、Bさんの接触識別子が生成されます。(また、Bさんがのちの検査の結果、陽性と分かりかつ情報提供に同意した場合、Aさんの端末に「陽性患者との濃厚接触あり」といった旨の通知が入ります)




接触識別子と通信の秘密

本記事は、AさんとBさんの通信に関する以下の点についてのお話になります。


両者の通信が、仮に個人情報を含んでいないとしても、その通信の存在自体を識別子の生成から把握できてしまうため、憲法第21条の「通信の秘密」が適用されるのではないか


また、参考に

憲法21条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。


通信の秘密が保障する範囲は、総務省が以下のように説明しています。
「5.通信の秘密、個人情報保護について」の5−2の3項にあるように「ー通信の存在の事実の有無を含むものです。」

また、過去のプライバシー保護に関連する過去の判例も参考になります。
Wikipediaの概説にて、大阪高判昭和41年2月26日高刑集19巻1号58頁が取り上げられています。


電波法と電気通信事業法

ここで、憲法21条以外に「通信の秘密」を扱っている法律は以下の3つです。

①電波法第59条・第109条

②電気通信事業法第4条・第179条

③有線電気通信法第9条・第14条

罰則の条項や直接関連しない電気通信事業法第4条や③を省き、e-Gov法令検索を参照し、以下に示します。

①電波法
第59条(秘密の保護)
何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信(電気通信事業法第4条第1項又は第164条第3項の通信であるものを除く。第109条並びに第109条の2第2項及び第3項において同じ。)を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。


直接関係するのは、電波法第59条でした。しかし、本文を読むと無線通信に例外があります。

電気通信事業法第4条第1項又は第164条第3項の通信であるものを除く。第109条並びに第109条の2第2項及び第3項において同じ。


それぞれを順に示します。

電気通信事業法第4条第1項
e-Gov法令検索の電波法第59条よりリンクで飛べますが総合検索ページにリダイレクトされるので、見つけられません。

同法第164条第3項
電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務(ドメイン名電気通信役務を除く。)を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業


さらにいくつかの用語の定義を以下のサイトを参照し示します。

電気通信設備
電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気的設備をいう。
(電気通信事業法第2条第2号)

電気通信役務
電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいう。
(電気通信事業法第2条第3号)

他人の通信を媒介とは
電気通信設備を⽤いて「他⼈の通信を媒介する」とは、他⼈の依頼を受けて、情報をその内容を変更することなく、伝送・交換し、隔地者間の通信を取次、⼜は仲介してそれを完成させることをいう。
(from, 電気通信事業参入マニュアル[追補版], 2010.10.01)

電気通信回線設備
送信の場所と受信の場所との間を接続する伝送路設備及びこれと一体として設置される交換設備並びにこれらの附属設備をいう。
(電気通信事業法第9条第1号)

1.伝送路設備 (ケーブル等)
2.交換設備 (交換機等)
3.附属設備 (通信電力装置等)

ドメイン名電気通信役務
入力されたドメイン名の一部又は全部に対応してアイ・ピー・アドレスを出力する機能を有する電気通信設備を電気通信事業者の通信の用に供する電気通信役務のうち、確実かつ安定的な提供を確保する必要があるものとして総務省令で定めるものをいう。
(電気通信事業法第164条第2項第1号)

電気通信事業
電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業(放送法第108条第1項に規定する放送局設備供給役務に係る事業を除く。)をいう。
(電気通信事業法第2条第4号)

NTT東日本など




他⼈の通信を媒介しないため適用外

結果的に、AppleとGoogleによるPrivacy-Preserving Contact Tracing(オプトイン)は、個人端末間の通信であること、すなわち電気通信設備を用いて他人の通信を媒介せず、電気通信回線設備を設置しない電気通信役務であるため、電気通信事業法第164条第3項に該当し、電波法第59条に適用されないと言えそうです。




結論

以上、本記事ではAppleとGoogleによるPrivacy-Preserving Contact Tracingに出発点として、

「両者の通信が、憲法第21条の「通信の秘密」が適用されるのではないか」と言う問いに対して、

法律事務所所員によるメモや法令、関連記事などを参考に、

個人端末間の通信であり、電波法第59条に適用されない

という暫定的な立場を導きました。


また、先述したメモで導かれた結論と解釈が異なっているかもしれません。誤りがありましたらコメントいただけると幸いです。





その他参考資料




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