見出し画像

多くの暗黒ファンタジー作家に影響を与えた大問題作【されど罪人は竜と踊る】公式アンソロジーレビュー

昨晩友人と飲んで話してたのですが
毎度【されど罪人は竜と踊る】のアニメ化は残念な出来だった
いう話が出ます。

天下一品はこってりドロリ濃厚とんこつスープがウリです
そんなラーメンをあっさり塩味の透き通る鶏ガラスープで出された気分。

まずくはなく美味しくはあるんだろうけど"そうじゃない感"
つまり面白くないわけじゃないんだけど面白くはけしてなくて
箸にも棒にもかからない。つまり超凡作

原作が超問題作なだけあって、
その棘が全て抜かれた出来損ないアニメ
なのが非常に悔しいです。


というわけで今回は
どれだけこの作品が同業者、つまりラノベ作家に支持されている作品か
ということを証明するために

【されど罪人は竜と踊る オルケストラ】公式アンソロジー レビュー
転載してみます。

前前職で書いてたコラムの一つですね。


されど罪人は竜と踊る とは

自然現象・物理法則の再現、
物質の生成を超物理的に行うための技術体系〈咒式〉。

この咒式によって、
人類はかつて〈魔法〉として恐れられた力を自在に操ることに成功した。

〈咒式〉は生活のあらゆる分野に恩恵をもたらし、
跋扈していた〈竜〉や〈異貌のものども〉すら駆逐する勢いで、
急速な発展を遂げていた。

咒式を使い、問題解決と賞金稼ぎの生業に明け暮れる、
ふたりの攻性咒式士、ガユスとギギナ。

混沌とした国境の街、エリダナで咒式士事務所を構える彼らに
〈竜〉を狩る仕事が舞い込むのだが、
それは絡みあう陰謀と策謀の始まりだった――。

ふたりの主人公の軽快にして絶妙な掛け合い、
〈咒式〉という独特な技術体系を綿密に描いた戦闘描写。

そしてなにより世界の理不尽な残酷さを正面から描き切るその作風で、
「暗黒ライトノベルの始祖にして最終作」と称される『されど罪人は竜と踊る』。

現在、小学館ガガガ文庫より21巻まで刊行され、
長らくアニメ化不可能と言われ続けた本作が、
TBS・BS-TBSにて2017年10月よりTVアニメ化!
ガユスとギギナ、天敵にして相性最悪で最高の「相棒」たちの物語が動き出す!


「されど罪人は竜と踊る オルケストラ」とは


口絵

篠月しのぶ

氏の性別は今まで分からなかったがもしかしたら女性なのかな?
と思われるほど端正なギギナとガユスの表情が見られる。
加熱シリンダー式になっている屠竜刀がかっこいいです。

山本ヤマト

続いて【紅】【終わりのセラフ】のイラスト兼漫画版作画。
とにかくイラスト前任者デザインにかなり忠実な衣装が
良く(嬉しい)も悪く(懐古)も古参ファンを唸らせる一枚。
紫で統一された色調が新鮮で雰囲気ばっちりだ。


短編小説

榊一郎

【スクラップド・プリンセス】【アウトブレイク・カンパニー】
【ポリフォニカ シリーズ】
等々、人によって彼の代表作は違うが
何れにしろ常にヒットを飛ばし続ける生ける伝説ライトノベラーである。

浅井ラボ氏との関わりも深く、よく彼の口から逸話が語られるが
視点が悪いせいか地獄のような景色に苛まれている印象が強い。
――おっとしまった、作家レビューになってしまった。

榊が描いたのは、ロルカ屋の変哲じゃなかった一日
ホートンという【され竜】の主人公ガユス行きつけの揚げ物屋のご主人で
主要人物ではけしてない
【棄てプリ】でいうところのクーナン当たりの立ち位置である。
……いや、それでも盛りすぎかも。

まさしく脇役が脇役っぽい自分の人生を嘆くお話
アンソロジー一発目という舞台にしては激しく地味ではある。
ちっぽけな事象を大仰に過大な字面で序幕を開ける辺り、非常に榊らしい。

彼のファンでされ竜を嗜む者であれば想像した通りの展開となり
凶つ式が顕現するのに現実の何かに憑依しなければいけないという設定を
ひねくれた解釈で仕込むのが面白かった。

カルロ・ゼン

続いて【幼女戦記】の原作者で、氏は単純に【され竜】ファンらしい。
ようやくガユスが主人公で【され竜】アンソロジーっぽさが生まれる。

舞台は喫茶店でガユスが給仕に勤しむ非戦闘ながらの奮闘譚
物事をねじれた思考でしか捉えない主人公の特徴は
【幼女戦記】も同様なので親和性のある組み合わせだと言えよう。

しかしながら読んでて思うのは、文章の癖が強い。強すぎる。
いや浅井ラボ氏も相当湾曲的な文体をしていると常々思っているが

少しも原作に近づけようという意思すら見当たらないザ・カルロ節
その色が主張しすぎていて、独白部分はどう変換しても島﨑信長ではなく
悠木碧の声で脳内再生されてしまうほどだ。
ギギナに対する軽口も存在Xに悪態吐くターニャそのものだ。

また、無駄な文章が多すぎてなかなか本筋に戻らない
つらつらと長ったらしく脇道にそれてそのまま突っ走るタイプの文章で
ページ数を気にしながら簡潔に収めるという
商業小説とは真逆を行く造りに思える。

そしてそれは個人的に嫌いじゃないから困ったものだ。
いい意味で同人っぽく、
完全に自分色に【され竜】を調理したという印象だ。


望公太

【異能バトルは日常系のなかで】原作者で、
氏もまた【され竜ファン】を公言している。

なんとストラトスを主人公に添え
彼の学生生活を紐解く謎解き短編となっている。

【いのバト】はアニメのみで原作を読んではいないのだが、
カルロ・ゼンの直後だったこともあり
素直な文体が非常に読みやすい。

が、ここで描かれる物語はまったく素直じゃなく、
むしろ素直に読んで綺麗に騙されてしまった方が楽しめるだろう

また、ストラトスには熱狂的な女性ファンが付いているので
なかなかに挑戦的だとも付け加えておこう。

 【され竜】ファンは
書かれている内容を文字通りに解釈しない癖がついているので
割と序盤で真相が推測出来てしまうと思うが、
ミステリー出身の作家というわけでもないのに
読み直させる作品としては優秀だと思う。

【いのバト】原作も読んでみようかな。
あの鳩子ちゃんの長回しを是非読んでみたくなった。


 高殿円

【銃姫】【ポリフォニカ】の白シリーズ作者で、浅井ラボ氏のご友人。
上記2作品は漫画で読んだことはあるが小説は未読。
よって彼女本来の文章はよく知りません申し訳ない。

ストーリーとしては本編でも時折描かれる
家具偏愛教のギギナVS家計で火刑なガユスによる価値観の違い口論バトル
高殿の描くギギナの方が若干狡猾で、
らしくない切れる頭脳戦を見せてくれる。

女流作家らしい心情の流れの表現が見事
ガユスの閃きに至るまでのプロセスがなめらか。
くわえて舌戦も小気味よくて読んでいてまったくストレスを感じない。

このアンソロジーで唯一雑念を挟まずに読めるだろう。
こんなに爽やかな二人の物語が読めるなんてね。(当社比)

三雲岳斗

【アスクライン】【ダンタリアンの書架】【ストライク・ザ・ブラッド】
作風を変えつつ若年層を刺激するヒットメーカーで、浅井ラボ氏のご友人。

見方によっては【され竜】ミステリー2作品目で、
また構成も本作に比較的近しい作り方をしていて非常に楽しめた。

内容はオリジナル襲撃者によって「わたし、入れ替わってる!?」となる
ある意味ラノベ界におけるお遊び回の鉄板ネタ

【君の名は】もあったことだし
男性が女性に入り込んだらとりあえず胸を揉むのはもはや以下略だ。

視線誘導、ならぬ思考誘導も巧みで、読者に
「あー、こう思わせといて、こうなんだろうな」と
ドヤ顔で真相を解明できてると思わせておいてからの
もう一段回、別の回答を用意しているあたり憎たらしい。

まんまと術中にハマったわちくしょー!

おかげで次の話に行く前にもう一回最初から読み直させられた。
なんの破綻もない良質な短編でしたごちそう様。


ベニー松山

唯一まったく知らない作家さん。

ストーリーは純日本で、
原因不明の大災害が起きて死の街と化した東京を舞台にした
近代ファンタジー

非戦闘員の案内人(男)を主人公として未開の地へ赴き真相を探る冒険譚で
爛漫+無表情の美少女2名(+地図役の男性もう1名)が奮闘する。

……いったいどこに【され竜】要素があんねん!?
と一瞬昏い気持ちになったが、そこと切り離してみれば普通に面白い。

逆に言えば切り離さないと少し苦痛かもしれない
咒式もちょこっとしか出てこないしね。


そして最後に一人だけ少し長文で紹介します。 

長月達平

【Re:ゼロから始める異世界生活】の原作者、鼠色猫こと長月達平。
多分そうじゃないかなとは薄々感じていたが【され竜】の熱狂的なファン

おそらく、この著書を読む者の一番の目的が彼の作品を読むためで
またこの作家陣の中で一番気合が入っていたのも確実に彼で、
言葉を選ばなければ彼の書いた【され竜】を世に出したくて
この企画が持ち上がったのではないか
と深読む程の選出である。

その期待は見事に裏切られた。


――思いっきり良い方向で。

もはや浅井ラボ氏が誉めてる文章を信じる者はいないと思うが
「これは完全補完されたもう一つの結末」と言わしめるほどの作品が
ここに生まれてしまったと思っている。

ストーリーは本編第1巻のヘロデル最期の6日間を彼視点から映したもの
親友ガユスとの再会から彼との学生時代の回想、別れ、
最愛の者を通して彼が辿ったその荊道に
流した涙と血と理想に抱かれて溺死するまでが描かれる。

果たして、溺れたのはそれだけじゃなく、
モルディーンの思想が足された結果でもあるのだが、それがまた”らしい”。

そしてそれらはすでに我々が”知っている”物語なのが凄い。 

【リゼロ】も【され竜】と同じく英語の存在しない世界観だからか
人名と地名以外のカタカナが少なかったのも好感
(※ないとは言ってない)

ページ数もほぼ半分を占めているし、
これを読むためだけでも購入をお勧めしたい

友情ものに弱いので、しっかり号泣させてもらいました。
本編にもあった最後のガユスの一幕はズルいって……。


まとめ

というわけで最後までお読みいただきましてありがとうございました。

どうしてもされ竜の世界観で「カウンター」とか「シースルー」とか
和製英語みると違和感あるよなぁ、と思いながらも
知ってる作家さんが多くて読み応えのある単行本でした。

繰り返しになりますが、長月達平さんの「道化の六日間」を読むだけでも
買う価値はあると思ってます。


次回の更新は3/8(火)です。

note執筆半年経過につき
noteの振り返り回になります。

よしなに。







最後まで長文お読みいただき誠にありがとうございました。 つっこみどころを残してあるはずなので 些細なことでもコメント残してくれると嬉しいです!