予防線

高校時代、国民的人気アニメの某キャラクターと同じ苗字のクラスメートがいた。どういうわけだったか、彼と一緒に過ごすことが多かった。

ある時、クラスメートと連れ立って、学校の最寄駅の立ち食い蕎麦屋に行った。どんな話の流れか、みんなカレーを食べることになったのだが、その彼だけが明らかに乗り気でなく、蕎麦を注文した。
ノリが悪いというツッコミが入るより前に彼が口を開いた。

「カレー好きなんだけどさ~。ここの福神漬け嫌いなんだよ」
「なら、入れないでって言えば良いじゃん」
「言うの面倒だし恥ずかしいし」
「じゃあ残せば」
「注文しておいて残すなんて作ってくれた人に失礼だし」

そう言った後に食べ終えた彼の器には、蕎麦つゆと刻みネギが残っていた。
「ふざけんな、食えよ!!!!!」
同席した仲間全員で盛大にブチ切れた(とは言え、その程度のことに本気で怒ったのは若気の至りとしか言い様がない)。

「そんな怒る必要ないじゃん」
「残すの失礼ってお前が言ったんだろ!」
「このぐらい良いじゃん」
「なら福神漬けだって同じだろ」
「...蕎麦食べたかったんだよ...」

そんなことだろうと思った。
彼には、わりとそういう癖があった。行動するより先に口が出る。まず「自分はこれからこういう理由でこういう行動をします、良いですか?良いですね?」と伺いを立てて予防線を張る。「言い訳」と言っても良い。注文を決める段階から「えー、カレーかぁ。えー」等と嫌そうにブツクサ呟いていたので、言い訳を探しているのだろうことは察しがついた。

国民性ジョークみたいな話で聞いたことあったような。「イタリア人はまず口説く。日本人はまず言い訳する。ドイツ人はまず働く」だったかな。言い訳というのも、心の防衛本能としては自然な働きなのかも知れない。でも、やはり程度というものはある。まず口説くほどではなくても、口より先に行動に移せるように意識しようと思う出来事だった。彼の顔も声も下の名前も忘れてしまったけど、その出来事は今も鮮明に覚えている。

もしサポートしていただけたら、本を買おうと思います。心を豊かにして、良いアウトプットができるように。また貴方に読んでもらえるように。