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進撃のByteDanceと中国版TikTok、Douyin(前編)

  皆さんこんにちは。夏目です(@HideoNw)です。

  3回連続で中国VCについての記事を書いたのですが、今回はひとまずVC編から離れ、Baidu、Alibaba、Tencentで構成される企業群、BATに次ぐ一大テック企業であるByteDance(バイトダンス、字節跳動)についての記事を書きたいと思います。

  ByteDanceといえば、日本でもTikTokの親会社として知名度は高く、上記のBATよりも親しみのある中国企業ではないでしょうか。ByteDanceは現在、中国国内でもBATをリプレイスする最有力候補としても取り上げられると同時に、世界最大のユニコーン(評価額15兆円ほど)、唯一のヘクトコーンとして市場に君臨します。そんなByteDanceは、主事業であるメディアや動画以外にも、教育や医療、半導体、ゲームなど実に様々な領域で事業を展開しています。そこで、今回の記事はここ最近のByteDanceの動向を振り返ると同時に、主事業の一つである中国版TikTok、Douyinの解剖を行いたいと思います!→こちらは後編で!

  またByteDanceの創業史や、創業者であるジャン・イーミン(張一鳴)について知りたい方はぜひEV平田くん(@t_10_a)が運営するスタタイ(@Startuptimez)のポッドキャストを聞いていただければと思います!

バイトダンス創業者チャン・イーミンについて(学生時代編)
バイトダンスの投資ラウンドを勢いよく解説する
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  ByteDanceの初期を振り返ると、事業の主軸としてあったのが推薦アルゴリズムをベースとしたメディア事業の「今日頭条」(Toutiao)。当時、北京本社である“矮樓”(中国語で低いビルという意味)にも現在のByteDance社のロゴではなく、Toutiaoのロゴがビルに貼ってあったり、BATに次ぐ企業群としてTMD(Toutiao、Meituan、DiDi)が取り上げられたように、全社を挙げてToutiaoの事業開発に取り組んでいました。その後、2016年9月にはショート動画の共有アプリであるDouyinが誕生し、若者の間で一世を風靡。翌年9月には、musical.lyを買収し、グローバル版のDouyinであるTikTokもこの時期に誕生しました。2017年に、TikTokは日本でもリリースされ、2018年の流行語大賞にノミネートされるほど若者の人気を博しました。

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筆者が2018年にByteDanceを訪問した際には、まだToutiaoのロゴがビルに貼ってありました。

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ByteDance本社が所在する地域は中関村という清華大学や北京大学など、中国を代表する大学が点在する地域。ByteDanceの周辺にはEdTech企業のNew Orientalや、TAL、OTAのQunar、動画サービスを展開するiQiyi、ニュースポータルサイトSohuなどが本社を置いています。

  そんな日本では、一般的にByteDanceという企業名が出ると、自ずとTikTokを連想する方が多いのかと思いますが、実際本社がある中国では、メディアや動画以外にも、教育や医療、半導体、ゲームなど幅広い領域で事業展開しています。まずは昨年12月に、中国のスタートアップデータベース、「IT桔子」が出したByteDanceのM&A図と共に、解説していきたいと思います。

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「IT桔子」が出したByteDanceのM&A図。EdTech企業や、モバイルゲームの開発企業、SaaSプロバイダーなどが目立ちます。

  近年のByteDanceといえば、主軸であるメディア、動画事業以外にも、特に力を入れているのが教育事業になります。早くも2018年から、オンライン教育市場に目をつけたByteDanceは、当時すでにユニコーンとなっていたオンライン英語教育サービスの「VIPKID」に対抗するべく「GOGOKID」をリリース。ビジネスモデルからプラットフォームまで、ほぼVIPKIDのレプリカとして運営していたGOGOKIDは、ByteDanceの莫大な資金力をバックに、着実とユーザーを伸ばすも、やはり業界トップのVIPKIDには叶わず苦戦を強いられます。

  その後、ByteDanceは自社で教育サービスをリリースするよりも、買収戦略に転じることを決意し、次々とEdTech企業を買収。その中にはK12向けのオンライン教育コンテンツを提供する「清北網校」や、教育ハードウェアを開発する「大力智能」、教育系データサービスを提供する「極課大数据」も含まれます。2020年10月には、自社内で教育部門を新たに「大力教育」というブランドで独立させ、教育グループを立ち上げると同時に、「3年赤字」と教育事業を強化するため1.3万人新たに採用すると名言しました。もちろん、この大力教育のみならず、ByteDanceは全社をあげて教育事業に注力しており、Douyinの元トップであるジャン・ナン(張楠)は、19年8月24日の「抖音創作者大会」でも、教育コンテンツの配信者を最大限に支援すると言及し、コロナ下においても、Douyinにおける教育コンテンツに配信を全力でサポートしました(詳細は:休校しても教育は止めず!沸騰する中国のオンライン教育)。
  
  教育事業以外で、ByteDanceが最も注力している事業といえばゲーム事業になります。ByteDanceはここ2年間で、ゲーム会社、特にモバイルゲームの開発を行っている企業を次々と買収。この記事を執筆している最中(3月22日)にも、ByteDanceは東南アジアで人気を博す「Mobile Legends」(MOBA(Multiplayer Online Battle Arena)のゲームタイトル)を開発する「沐瞳科技」を40億米ドルで買収しました。これは海外市場において、すでにゲーム帝国を築き上げているTencentに一石を投じる案件となります。実際、世界でも人気を誇る競技系ゲームタイトルの多くはTencent傘下にあり、他にも中国企業が展開するゲームタイトルとして、NetEaseの「荒野行動」などありますが、ほぼTencentの独占状態。そこに、ByteDanceはTencentに挑戦を挑むような形で、ゲーム会社の買収戦略に臨みます。しかし、中国のゲーム業界において、特に競技系タイトルはTencent以外に成功の道筋を見出した企業はあまりありません。そういった意味でも、今後ByteDanceのゲーム業界における動向は今後も要注目です。

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  最後に、ByteDanceが注視している領域はコンシューマーブランドになります。近年、中国では米中貿易摩擦やコロナの影響もあり、内需型経済への切り替えを進めています。そこで中国発、いわゆるMade in Chinaのブランドが次々と誕生し、中国の若者の人気を博すと同時に、海外にも積極的に進出。「Perfect Diary」(完璧日記)を始め、日本進出も果たした「Florasis」(花西子)など数多くの中国ブランドが誕生し、これまで国外の商品を好んでいた若者も徐々に国産ブランドへと切り替える人も多くいます。ByteDanceはまさにこういった中国の新興ブランドへ出資をし、今後EC展開を進めるDouyinとの事業シナジーも試みます(こちらについては後編でまた詳しくご紹介します)。ByteDanceが昨年から今年にかけて投資をしたコンシューマーブランドは掃除ロボットを開発する「雲鯨智能」(2020年6月22日)、サラダチキンなど高タンパク質のスナックフードを提供する「鯊魚菲特」(2021年1月23日)、火鍋専用の食材を販売するスーパー「懶熊火鍋」(2021年2月24日)、アルコールメーカー「厚雪酒業」(2021年2月26日)、オーラルケアブランドの「参半」(2021年3月10日)になります。

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日本にも進出を果たした「Floraris」(花西子)の口紅

  中国ではByteDanceに関する記事を見ない日はないほどIT業界を賑しています。また、こちらで紹介した領域以外にも、ByteDanceは半導体の開発や、医療系サービスなど他にも数多くの市場へ進出を図ります。下記の図はここ一年(2020年3月-2021年3月)のByteDanceによる投資/買収案件になります。ぜひご参考にしていただければ幸いです。

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2020年3月-2021年3月までのByteDance(字節跳動)の投資/買収案件
*「沐瞳科技」については、ByteDanceからの直接投資ではなく、ByteDance傘下の朝夕光年が2021年3月19日に立ち上げた新ファンド(朝夕光年奇想基金)からの投資になります。

  また後編で中国版TikTokであるDouyinについて解剖していきたいと思います!

Twitter : @HideoNw

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