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#2 いい人生って何?

私は猫のトラ。
今日も一日ゆっくり日の当たるところで寝られそうと思っていたが、そろそろ学生が夏休みに入るのでゆっくりも出来そうにないのだった。
ここの喫茶店は夏休みになると多くの学生が勉強をしにくる。
なぜならマスターは学生に何時間でもいて良いと謳っているから。
それでは商売にならないと思うのだが、その辺どう考えているのだろうか。
10時を過ぎた頃から徐々に混み始めてきた。
気がつくとテーブル席はほぼいっぱいに。
後はカウンター席しか空いていなかった。
するとそこに一人の若い男性がやってきた。
この顔去年も見たような気がした。
背負っていたバッグを隣の椅子の上に置き、ハンドタオルで汗を拭う。
マスターは彼にメニューを聞き、彼はアイスコーヒーを頼んでいた。
ちなみに学生は100円引きである。
彼はバックから参考書を出しテーブルの上に広げ始めた。
他のテーブル席でも同じような光景が広がっている。
学生というのは大変なんだなと私は思った。
アイスコーヒーを飲みながら彼はパラパラとノートを捲っている。
マスターはコップを白い布で拭いている。
お客さんは多いのに静かな空気が広がっていて、私が欠伸をするのも憚られる。
そんな中、カウンター席に座った少年が何かマスターに問いかけていた。
「なんでこんなに勉強しないといけないんですかね?」
「意味わかんねいっすよね」
マスターは笑顔でうなずいていた。
「勉強しても所詮入れる大学はそれなりのとこにしか入れないですからね。頭は別に良くも悪くもないけど、この世界って頭良くないと楽しくないじゃないですか?」
マスターはコップを拭くのを止めた。
「君は、本当にそう思ってるのかい?」
「はい。結局、頭良いとお金持ちになれる確率は高まるし、お金があるということは余裕が生まれるから。心にも。結局金に支配されているんだからお金に従うしかないっすね」
マスターは難しい顔をしていた。
「まあ、君の言う通りお金は大事だ。この店だってお金がなければ開店することも出来ないし、こうやってみんなにコーヒーを出すことも出来ない。でも一つ言えることはお金は手段だよね。目的じゃなくて。何かをするためにお金を求めるのは悪くない。ただお金が欲しいだけは、なんというか寂しいね、私から見ると」
「はあ、そんなもんなんすかね」
私のご飯もお金がないと貰えないから改めてマスターに感謝せねば。
静寂な時間がしばらく続いた。
夕方、少年が帰るために教科書などをバッグにしまっていた。
マスターは洗い物をしていた。
気がつけば店内のお客さんは少年一人になっていた。
「ご馳走様でした」
バッグを背負いながら少年はカウンターに挨拶した。
マスタはー笑顔で「またいつでもどうぞ」と言った。
入り口を出る瞬間少年は振り返った。
「あの、結局人生ってお金なんすかね?」
マスターは、「お金も人生。お金じゃないも人生。何が大事かは自分で見極めるしかないかな。正解も不正解もない世界だから。だから迷った時は、そうだな一杯のコーヒーを飲むといい。落ち着くよ」
「そんなもんすかね。それじゃ」
少年は喫茶店を後にした。
私はマスターから夜ご飯をもらった。
これもお金がないともらえないのだな。
ありがたさを噛みしめながら食べる。
今日もお腹いっぱいになった。


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