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女医の労働力的評価は男性より低いのか?

今年度で常勤としての臨床医業務を辞めることを病院側に伝えた。
予想していたより部長側も話に傾倒して頂き、強く引き止められるということはなかったが、やはり「人手不足」特に「女医の妊娠出産」に頭を悩ませていることを教えて頂いた。妊娠出産は大変望ましいことであるが、管理側としては頭を悩ませる要因にもなる。今回は女性医師の労働力的評価に関して自分の考えをまとめた。


2018年夏、東京医科大学の入学において男女不平等問題が話題になった。


女医は産休・育休で休みをとるだけでなく、辞めてしまう人も多く、男性医師や未婚女性医師に負担をかけてしまう、という内容で「女子入学生」を減らすよう点数調整がされていた、というものだった。男女平等という普遍的価値観からみれば由々しき事態だ。

しかし、とあるアンケート調査によれば必ずしもそうとは言い切れないのかもしれない。

とある医師へのアンケートでは、東京医科大学の女子一律減点に「理解できる」とした医師は65.0%もいたのだ。

(https://www.mag2.com/p/news/367368 より)

私自身、臨床現場で働く医師でもあるが、同じアンケートに答えるならばやはり「ある程度は理解できる」に票を入れるだろう。

1. 女医の離職率は40%超え
2014年に日本医師会が実施した調査では、女医は25~29歳で44%30~34歳で42%が臨床現場を離れている。そのうち55%が妊娠・出産を、37%が育児を理由に離職している。院内保育所の設置率は国内全体で約5割と不十分であったり、雇用形態や医局制度が大きな足枷になっているのは間違いない。しかし、何はともあれ女性医師は男性医師より辞めてしまうのは事実である。診療科によっては離職後は非常勤医(アルバイト)として仕事を再開するケースも多い。私自身、麻酔科医として勤務するが、麻酔科はその代表格である。非常勤勤務の方が給料は良いし、残業も少ないし、何より楽なのだ。医局に入局するメリットも、年々薄れてきているのは関係ないことはないだろう。

2. 他の大学も女性受験生を不利に扱っているかもしれない
これは医学生の頃からよく耳にしてきたし、個人的にも「まあ、あるだろう」と思ってしまう。以下のデータを見て貰いたい。2018年度の医学部医学科一般入試の男女別の受験者数と合格者数に関するデータである。男子の合格率を「1」とした場合の女子の合格率がまとめられている。(ハフポストJAPAN 記事から転載)

今回、問題になった東京医科大学は男子1に対し、合格者は女子は0.33と国内最下位であるが、山梨大学や聖マリアンナ医科大学も同水準に低い。女性医師を嫌う大学は1校ではないはずだ。もちろん、これらのデータが全てではないし、全ての入試データを完全公開させることは難しい。受験段階で既に女性受験者の方が少ないのだが、合格者はさらに少なくなっているとのデータもある。実態を反映する詳細なデータも見たいものだ。

3. 個人的には完全平等である必要はないと考える
先に断るが私は差別主義者ではない。あくまで医療現場の「人手不足」を知っている側としての意見であるが、労働力としてのリソース価値は男性医師の方が高いと思う。特に出産に関しては命を削って子供を産めるのは女性しかできないし、こればかりはしょうがない。出産することによる社会的価値のためならば、その他のスタッフ(男性医師や未婚女性など)がカバーすることは当然である。しかしスタッフが足りないのだ。私は都心のど真ん中で勤務しているが、そんな大都会でも人手が十分とは言い難い。都心部の医師が少ない所以は諸説あるが(https://dot.asahi.com/dot/2017060100037.html?page=2)、地方の病院も十分足りているとは言えないだろう。女性医師は歳をとる度に、仕事を辞めていく傾向にあるのだ。

(平成24年 大臣官房統計情報部 医師・歯科医師・薬剤師調査)

4. 次世代には労働力的評価に応じた雇用形態を
女性が出産や産後で育休や離職をしやすい環境を整えることは重要であるし、今や「産休や育休を取る」ことは世界的常識である。そのうえで、医療現場により多くの労働力を確保させるにはどうしたら良いのか。行政レベルや大学レベルの話から、各病院レベルの取り組みまで様々だろう。

今回、社会問題となった東京医科大学の男女不平等問題に関しては事前に「女子学生は△%点数を減点します」「男子学生は◯点を加点します」と公表していればシステム上は良いと思う。大学自体は労働力を確保できるかもしれない。一方で世の流れと逆行するため国際的競争力(評価)は当然落ちるし、受験生のレベルだって落ちるだろう。優秀な女子受験生はその大学を受験いなくなるし、ひょっとしたらシステムを嫌う男子も「受かりやすい」のに受けないかもしれない。その辺りは市場原理に任せたら良いと思う。

一方、行政レベルでは「不平等」を認めるわけにはいかないはずだ。事前に公表していれば「不平等もOKでーす」なんて国際社会に顔向けできない。つまり、行政としては現在までの各大学の不平等の実態の詳細な調査および公表を進めるだろう。現に、行政レベルでは患者を減らす(医療費の負担を減らす)などの課題に優先的に取り組んでいる。医学生を増やしたり、減らしたりなんて金額ベースでいくと大した話ではない。

自分たちの世代の医師(30歳前後)あるいはもっと若い世代の受験生、医学生、研修医にとって、重要なのは既存の評価軸はいつか終わるだろうと想定することである。今後は「◯◯科の先生」ではなく「△△先生(個人)に診て貰いたい」と患者に思って貰える人ほど評価される世になるはずだ。単に医療現場での必要労働力を医師数で割るような働き方ではなく、個々人で患者および評価を集める医師業を実践することが求められると思っている。個人レベルでの評価が主軸になれば性別や出産、子育てのような項目で評価されることは減るのではないか。

ここ10年で女性医師への労働環境あるいは評価体系は大きく進んだと言えるが、世界的にみればまだまだ後進国である。女医の労働力的評価は男性より低いか?という問いに対しては、統計をみる限りでは否定はできない。ただそれを単純に「男女差別だ!」と声高に叫ぶだけでは解決できない問題だろう。それぞれの立場や環境があるが、医療界にどんな問題があり、どう解決できるのかを考えることが「男女問題」への根本的解決に役立つものだと信じている。


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