見出し画像

【#1】ドキュメンタリー三点盛り

今回から動画サイトやサブスクで配信されているドキュメンタリー作品を紹介するマガジンを始めます。1作品500文字前後のサクッと読める内容です。

【#1】はNetflix配信作から中国・アメリカ・ジョージアを舞台にした3作品です。

『ワタシが"私"を見つけるまで』(Netflix)

画像1


 1975年から2015年の間、中国は人口増加を抑えるため一人っ子政策を敷いた。15万人以上の子供が海外に養子に出されその大半は女児だった。実の親を知らぬままに中国から旅立った子供たちが世界中に暮らしている。

 本作の主人公は3人のティーンエージャー。シアトル在住のユダヤ教徒の家族に育てられた13歳のクロエ。ナッシュビルのクリスチャンの家族に育てられた14歳のサディ。オクラホマのカトリック教徒のコミニュティで育った17歳のリリー。彼女たちは全く接点のない人生を歩んできたが、それぞれが受けたDNAテストの結果によりいとこ同士であることが判明する。成長とともに感じる育ての親への感謝。同時に自分のルーツである中国や生みの親への関心が高まる。

 3人は北京在住の女性コーディネーターの案内で中国は広州の孤児院へと向かう。初めてやってきた祖国の文化。自分たちが最初にやってきた日のことを昨日のことのように語るシッターとの再会。中国の地を踏んで生き生きとする少女たち。果たして3人は生みの親と対面することができるのか。期待と失望の狭間で彼女たちは懸命にアイデンティティを模索する。

●監督:アマンダ・リピッツ 2021年 98分


『"エクストラオーディナリー"ジョン・デロリアン』(Netflix)

画像2


 デロリアン。映画史に残るあのメタリックな自動車の名前が、人名から取られていることをごく最近まで知らなかった。そしてこの男の人生がハリウッドで何度も実写化の企画が持ち上がり立ち消えとなっていたことも知らなかった。

 この作品はジョン・デロリアンの生涯を、GM時代の成功と上層部との対立、DMC(デロリアンモーターカンパニー)の設立と北アイルランドでの車両生産、破産からの起死回生を狙ったコカインの裏取引などを、関係者へのインタビューや再現ドラマを通して描いている。とりわけコカイン取引にまつわる合衆国政府を巻き込んだ腹の探り合いは、犯罪ドラマをみているかのようで非常にスリリングだ。

 半ば罠にはめられたかのような逮捕劇が終わると今度は法廷劇。いったいこの男の人生にはどれだけのドラマが盛り込まれているのか。事情通であればこの裁判の結果はご存知だろう。普通なら「かつての起業家は静かな晩年を過ごしました、めでたしめでたし…」となるはずなのだが。年老いてもなお波乱が待ち受けている。全くの自業自得ではあるものの、マッチョなアメリカ人を体現したかのようなデロリアンの豪快さには憎みきれないものを感じる。

●監督:シーナ・M・ジョイス、 ドン・アーゴット 2019年 109分


『物ブツ交換』(Netflix)

画像3


 日本で生まれ育った人ならば「物々交換」と聞くと昔話「わらしべ長者」を連想するだろう。その言葉の響きはどこか古き良き時代をも思わせる。

 本作のテーマはジョージアの貧しい農村で繰り広げられる物々交換だ。物語は行商の男が日用品を仕入れるところから始まる。これから向かう村で売れそうな商品を品定めしている。

 トラック一杯の日用品と共に男が向かうのは街から遠く離れた農村。目立つ通りに車を停めて人々に話しかける。奇妙なのは男が商品を売るときは、必ずキロ単位のジャガイモと交換すること。小さな日用品。それはバッグ、電球、子供たちの遊ぶシャボン玉であったり。あらゆるものがジャガイモと交換されていく。

 印象的なシーンがある。ある老婆が「1ラリ出すからこのスプーンを譲ってくれ」と懇願する。彼女がどれだけ頭を下げても男は取引に応じない。この土地ではジャガイモだけが信用のある通貨なのだ。

 ジャガイモを積んだトラックは街へと向かう。出どころを知らずに人々はジャガイモを買っていく。その対価はもちろん現金。こうして手に入れたお金は賭けトランプの資金に消えていく。物々交換と言えど現実は生易しいものではなかった。

●監督:Tamta Gabrichidze 2018年 23分


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?