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才能トレカ【ショートショート】

ユウジの手には3枚のカードがあった。

「『孤独』『節制』『やさしさ』か・・・」


このカードは『才能トレカ』と呼ばれ、個人が生まれ持った才能を封じ込めて携帯できる代物だ。不要な才能同士をカードの形で交換できる利便性が注目されて、爆発的に普及している。


「とは言うものの、要らないよなぁ」


希望する才能を交換してもらうには、自分が元々持っている才能に需要がなければならない。
ユウジが生まれつき持っていた才能は、他者が交換をしてまで欲するようなものではなかったのだ。才能が可視化された上でその現実を突きつけられて、公園のベンチに寝そべり無気力になっていた。


「そのカード、よく見せてくれないかい?」


ユウジは3枚のカードから視線を外して声の主を見る、そこには明るく爽やかな印象な青年が居た。ユウジに対しカードの開示を求めてくる人はほぼいないので、どう反応していいか決めあぐねていると青年は話を続ける。


「僕、ちょっとした有名人なんだよね。アヤセって言えばわかるかな?」


ユウジは当然知らなかった。なぜなら『孤独』の才能の持ち主で、他人の情報に疎かったからだ。返答を待たずにアヤセと言う名の青年は続ける。


「僕はね、人気者が故に一人になりたいのになれないんだ。この『魅力』のカードのせいで。」


ユウジは『自虐風自慢か』と思い追い払おうと思ったが、すぐさまアヤセは予想外の提案をしてくる。


「僕の『魅了』と君の『孤独』を交換してくれないかい?」


ユウジは一瞬驚いたが、やさしさを持ち、人の心が良く分かるので、彼が本気で言っていることをすぐに理解した。この提案はユウジにとっても願ったり叶ったりであり、ユウジ本人は気がついていないが、自分のネガティブな才能が誰かの役に立つことも内心では嬉しかった。


「ほら、持ってけ」
ユウジは『孤独』を差し出す。

「いいのかい・・・!ありがとう。これが『魅了』だよ。」
アヤセは『魅了』を差し出し、ユウジがそれを受け取る。


受け取ったカードは元々持っていた3枚とは異なり、いわゆるホログラム加工がされていた。他の人の才能トレカを初めてみたが、どうやら才能にもレアリティがあるようだ。


「それじゃ、僕いち早く一人になりたいから、さよなら!」

アヤセは嬉々として公園から去っていった。


『魅了』カードを手に入れたリュウジは周囲を見渡してみる。いつ来ても自分しか居ないと思っていた公園が、気がついたら人で賑わっていた。レアカードの効力に顔が引き攣るユウジだったが、才能の力はとどまることを知らなかった。


「あー!やっと見つけた!」


ユウジが後ろを振り向くと、活発そうな雰囲気を持つ女子大生が立っていた。


「その『節制』カード交換してよ!」


ユウジはその言葉を聞いてとても嫌な気持ちになった。なぜなら生まれつき持っていた3つの才能の中で『節制』は、地味ではあるが生きるため一番役に立っていたカードだったからだ。


「理由を聞きたい。それと交換できるカードは何だ?」


無碍にもできない性なので、一応そう聞いてみることにした。


「宝くじが当たったのよ!この『富』のカードでね。でも、いくらお金が手に入ってもお金の使い方が下手で全然幸せじゃないのよね。だからすぐにでも『節制』のカードを手に入れて、私はふぁいあ?っていうのをするのよ。」


明るく喋る彼女の言葉の中には、切実さが混じっているようにユウジは感じた。節制と富の交換なら悪い条件でもないし、目の前の彼女が幸せになるのなら良いかなと思えた。


「『節制』だ、大事に使ってくれ」

「話が早いわね!これが皆の羨むレアカード、『富』よ。」

交換が成立した。

冷静に考えてみたら、彼女が宝くじを当てた後に『節制』を持つ自分に遭遇するのはこの『富』のカードか、彼女が持っている他の才能のおかげなのかもな、とユウジは思った。更にユウジは2回の才能トレカの交換会を経て、交換する事そのものが楽しくなっていた。


「君、ちょっと良いかな?」


 続け様に恰幅のいい男が話しかけてきた。ユウジはこう返す。


「交換ですよね?」

「おお、まさしくその通り。わし、社長やってるの。とっても偉いの」

「はぁ」

「でもね、嫁に逃げられた。理由はやさしくないからだって。社長にまで上り詰めたのにコレじゃ全然幸せじゃないのよ。わかる?」


大体の事情を察したユウジは言う。

「つまり俺の『やさしさ』カードをくれと?」

「おお、まさしくその通り!タダとは言わん、ゴッドレアカードの『権力』をお前にやろう」


ユウジは流石に考え込んだ。なぜなら、『やさしさ』カードは自分が元々持っていた最後の才能だったからだ。
しかし、この社長は心から『やさしさ』を欲している。悩んだ結果、ユウジは自分のやさしさに従って、『やさしさ』カードを差し出した。


「わかりました。『やさしさ』です」

「おお!ありがとう、これが『権力』じゃ!」


交換は成立した。


この日3回行われた才能トレカの交換会により3人の人が幸せになったが、近い未来、ユウジの住む国が滅ぶことが決まった。

(了)



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