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プロスポーツ法人の現場とフロントの在り方

INDEX
■お互いの違い
■相手を知ろうとする気持ち
■現場とフロントである前に

 先日私がサポートしているベルテックス静岡の代表と、現場とフロントの距離をどう縮めていけばいいのかということが話題になった。法人格としてプロスポーツ事業をしている者たちにしてみれば永遠の課題なのだろう。チームが苦境に立たされた時、優勝を目前にした時、「チームもフロントも一枚岩になって」という言葉をよく耳にするし、私も何度か皆さんを目の前にして、スタジアムでの挨拶で口にした言葉だ。

■お互いの違い

 現場とフロント、「地域の方々に豊かな時をご提供する」という点で志は何一つ変わるものではない。フロントがなくてはチームは存在し得ないし、チームがなくてはフロントのいる意味がない。然るにことさら言うまでもなく、両者は一蓮托生である。にもかかわらずこうした言葉を使うのには両者があまりにも違う性格の就労者なのだからだろう。

 働く環境、働く時間、働く内容、勝負と業務、勝敗という分かりやすい結果と管理基準を明確にしないと分かりにくい成果、双方のコミュニケーション頻度等々、一つ屋根の下で働いていても、相当に意識をしたコミュニケーションを取らないと相互を理解するのはとても難しいものだ。

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 そして何より、最も双方の関係を難しくしているのは、その雇用形態にある。現場の殆どの人間は、雇用期間に限りのある有期限雇用の個人事業主であるのに対し、フロントの殆どは正社員であれば無期限雇用である。この差は大きい。私はフロントでも有期限なので、どちらのメンタリティもよくわかるが、特に有期限雇用の現場の人間達は、雇用継続可否に繋がる自身の評価や取り扱いには無期限雇用者以上にセンシティブと言える。そして、会社へのロイヤリティにも影響を及ぼす。そのことをよくよく頭に入れながらフロントの人間は現場と対峙しなければならない。

■相手を知ろうとする気持ち

 同じ目的を持ちながらも、ここまで違う現場とフロントの人間達にとって最も大事なことは、「相手を知ろうとする気持ち」である。深い信頼に基づかなければ組織として大きな力は出せないし、そのための第一歩は相手を知ろうとする気持ちに他ならない。その過程は、認知、受容、共感という順で深まっていく。

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 例えば、アマチュア選手もプロ選手も一つのチームである。そしてそのチームは一年限定。今シーズンを終えれば、二度と同じメンバーで戦うことはない。その事実から生まれる現場の絆の強さを、相手を知るという点でフロントは深く認識すべきだ。よってアマもプロも決して差別すべきではないし、チームとして平らに接するのが筋だろう。

 また、フロントに一定の条件を満たした選手OBを迎え入れることも、相互理解の上で大事なことだ。そうしたOBは必ず現場とフロントのブリッジになってくれる。しかもチームが不振、業績が不振といった有事の際ほど役立ってくれることを、私は体験的に学んできた。このOB雇用は、選手のセカンドキャリアの間口を拡げるという点から、現場サイドからも好意的に理解され、ロイヤリティ向上にも繋がるという副次効果も生んでいる。

 ベルテックス静岡では、現場の人達がフロントの全体会議に持ち回りで出席している。取り扱う内容次第ではあるが、こうした仕組みとして現場とフロントのクロスコミュニケーションの場を持つということは素晴らしいことだ。但し、最終的には、働く環境の違いを超えて、お互いが前述した会社の目的を果たすために、双方の仕事を通して、腹を割ったコミュニケーションが出来るようになることが本旨であり、そのことを常々意識する気持ちだけは忘れてはいけない。

■現場とフロントである前に

 そもそも現場とフロントと言っても、中身は同じ人間同士。色々な距離を縮める考え方や方策も良いが、それ以前に一人一人がより根源的な信頼関係を産む意識を持てば良いと私は思っている。それは、お互いが「信頼されよう」「尊敬されよう」「感謝されよう」と胸に刻みながら仕事をしていくことだ。

 それらを心の底から突き詰めれば、相手に言う前に相手の声を聞くようになる。相手を感じる前に相手のことを考えるようになる。結果、相手の土俵で自分の仕事や立場を理解してもらう努力をするだろう。相手の仕事を相手の立場に立ちながら、自分の仕事を活かしてサポートするようになるだろう。そこには現場もフロントもない、人間同士の温かな連携が生まれるはずだ。本当の一蓮托生とは、そういうところから生まれるものだ。

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 そうした点で、ベルテックス静岡のようなまだ出来たばかりの会社は、妙な色も付いていないし、過去からの歴史に引きずられた因習もないだろう。ならばだ、もっと人間同士、現場だのフロントだの意識しないで一蓮托生になり上を目指して行けるだろう。ベルテックス静岡に限らず、そうした心持ちを大事にしていく社風の醸成に心を砕いていければ、これからのスポーツ事業も大いなるポテンシャルを得ることが出来るだろう。そして、ひたむきに持ち場立場でベストを尽くして行きながら、現場もフロントもないシームレスなスポーツ法人が増えていくことを願ってやまない。


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