夜の道の駅と軽キャン(その1)
道の駅はとてもよくできた施設だ。
ドライブの時に立ち寄って買い物をしたり、休憩したりと、利用者は多い。
特に、地域産品の販売コーナーが充実している道の駅は立ち寄るのが楽しい。地元の農家で採れたての野菜や果物が安く置いてあったり、地元のお母さんたちが手作りで作ったお惣菜などを置いているところも多い。
1993年に建設省道路局監修でまとめられた「道の駅の本 個性豊かなにぎわいの場づくり」は、道の駅構想の立ち上げメンバーの方々による臨場感のある記録となっていて面白い。それによると道の駅には次の3つの役割がある。「休憩」「情報交流」「地域連携」。このうち、「休憩」は、主にトイレと洗面、自販機コーナーやレストランなどで構成され、高速道路のサービスエリアのような機能。比較的新しい施設が多いからか、道の駅のトイレはどこも綺麗に清掃されており快適に利用できる。「情報交流」は道路情報は観光情報などを展示配布している。中には観光協会などが情報提供を行い、係の人が案内をしてくれるところもあるが、一般的にはただパンフレットがずらりと並べられ地図が掲示してあるだけの通り一遍のものが多い印象だ。「地域連携」が一番バリエーションに富んでいて、地産地消のマーケットやイベントなどが行われている道の駅は賑わっている。逆にこの部分で工夫のない道の駅は寂しい感じがする。
道の駅が成功しているポイントは、「地域連携」で、地元の農家や家庭が手作りの野菜や果物、お惣菜などの商品を、自分で搬入し、値段をつけ、一定の(スーパーなどよりは低めの)販売経費を支払って代金を受け取るという仕組みだろう。農協などに比べて規格に縛られ過ぎず、自由競争的に価格も決めることができる。有機農業などの付加価値のある商品はそれなりに高値であっても人気がある。
このように地域性を最大限に取り入れた特色づくりが道の駅の魅力だと思うが、それぞれの道の駅がもう少し運営上の工夫をすれば、日本が世界に誇れるパブリックスペースになると思う。
だいたいの道の駅が、夕方17時から遅くとも夜20時には閉まる。しかし、「休憩」機能のトイレと洗面、「情報交流」機能の資料展示室は24時間開放されている事というのが道の駅の取り決めで、駐車場も24時間開放されており、夜間の利用者もそれなりにいる。施設が閉まると管理者はほとんどの場合不在で、利用者任せの夜の時間。今回は、数回に分けて、この夜の活用を中心に道の駅の可能性を考えてみたい。
夜の「道の駅すばしり」2020年10月初旬 土曜日の20時30分ごろに撮影
夜の駐車場。車中泊。国土交通省によると、道の駅での仮眠は良いとされているが車中泊はグレーゾーン。
実際には車中泊は行われているし、禁止するほどの困った状況にはないから黙認されているようだ。最近では、車中泊が流行し、雑誌などでも特集号が何冊も発行されている。また、キャンプと同じで、普段から車中泊のノウハウを蓄積しておくと、災害時にはとても役に立ちそうだ。
また、何よりも宿泊費はかからない。低コストの旅行ができる。
実地調査をしたところ、今のところ、多い場所でも車中泊しているとみられる車の数は10−20台程度で、道の駅の運営上はそれほど支障はない様子。
大型キャンピングカーは、だいたいいつも数台見られるが、1台に当たりの利用者は少人数。観察したところ、リタイア世代の夫婦が旅行している様子が多く見られる。全国キャンピングカーツアーの旅路か。
若い世代は友人同士やカップルが普通車で車中泊している様子も多く見かける。フラットにならない狭い車で寝心地は良く無いだろうなと思う。また、車は断熱性能が低いため、夏は暑く冬は寒い。走ってエアコンをつけっぱなしにした状態を想定した居住環境は車中泊には向かない。
たまたま、ゼミナールの卒業制作で学生が軽トラックに積む移動販売ユニットを作ってくれた。コロナ禍でしばらく大学で移動販売のイベントはできない状況なので、簡単に改造して軽トラックキャンピングカー(軽キャン)仕様にしてみた。改造で初めに行ったのは、厚さ30ミリ、畳サイズのスタイロフォームを買ってきて床、天井、外壁、建具のフレームの間にひたすらはめ込む作業。その上から仕上げ材を貼り、ついでに施工精度の問題で隙間だらけだった建具の隙間も塞ぎ、環境性能はかなり向上した。
断熱作業の途中段階。天井面の垂木の隙間に水色のスタイロフォームを嵌め込み、その上から仕上げのベニヤなどを貼っているところ。スタイロフォームはホームセンターで売っており、軽く、カッターで切れるため作業は簡単。嵌め込む際には補助的に両面テープなどで固定すると作業がしやすい。コツさえ覚えれば誰でも簡単にでき、施工前と施工後で全く居住性が変わるので絶対にやったほうが良い作業だ。
夜の「道の駅すばしり」にて2020年6月初旬 土曜日の20時ごろに撮影
伊豆開国下田みなと道の駅にて 2020年6月下旬土曜日の15時ごろに撮影
外観はシンプルな箱の形状。軽キャンのユニットはサイズ規定を守れば「積載された荷物」として扱われる。つまり、キャビンごと車検を取る必要はない。
サイズ規定は、図のように荷台に収まれば平面的には問題なし。長さ方向は車長の10%まではみ出しても良いことになっている。高さは最上部で地面から2.5mの高さまでが許される。今回は長さ方向の延長は行わず、荷台に載る最大サイズの箱型とした。理由は、長さを延長した場合、安全性を確保しながら荷台に固定する方法が必要になるからだ。今回は、延長しなかったため、ユニットは荷台に固定する必要がなく、3方向のあおりを閉めることで十分に安定している。また、本当の最大サイズは、運転席のあるキャビン上部も使った状態だが、今回は形状をシンプルにするためにこの部分は省略した。
基本フレームは2x4材と垂木の組み合わせ。筋交いなどの斜材は入れず、耐水性の構造用合板を外部に張って剛性を確保している。仕上げはその上に建築部材である透湿防水シート、タイベックスを張り、角などは防水テープで補強した上に胴縁材を入れ、杉の羽目板で仕上げている。屋根はタイベックスの上にガルバリウム鋼板を使い板金で仕上げたが、素人芸で防水性は完璧ではない。次回作る時にはここは何としても改善しなければ。FRP防水などの手法も試してみたい。
開口部は出入り口と左側に大きな開口の2箇所。大きな開口は上下半分に開き、上側の扉は庇に、下側の扉はカウンターになる。このサイズになると扉もそれなりの重量になってしまい、当初予定していたヒンジ金物では庇を支えきれないことがわかって断念した。油圧ダンパーなどの使用が必要そうだが、知識がないので、いずれ試してみよう。内部の床の高さは地面から700ミリとなった。出入りには、アメリカのミシガンラダー社製の折りたたみ式の木製踏み台を使っている。
内部は、まだ断熱すらしていない壁もあり未完成な状態。今後、コロナ禍が落ち着いて、移動販売車として使えるようになったら、棚なども作ることがありそうなので、身体が触れるエリア以外はできるだけそのまま残してある。床はスタイロフォームを張った上に耐水ベニヤを載せ、その上に汚れ防止も兼ねて、表面に銀色のアルミが蒸着されたキャンピングシートを両面テープで固定。さらにその上に杉材のスノコを乗せて使っている。塗装は全てオスモというドイツ製の天然オイル塗料のクリア。壁には自転車用のハンガーを取り付け、移動時に揺れないようにゴムバンドで固定している。床面にできるだけものを置きたくないので、奥の壁には自転車用のカゴを二つ取り付けて物入れにしている。こうしてできたスペースの内法は幅1270ミリ、奥行き1690ミリ、高さ1560ミリ。一人で使う分には、幅方向は問題ない。高さも、中でずっと立ちっぱなしなわけではないので十分。問題は奥行き寸法だ。実は、私の軽トラは三浦の農家さんから頂いたもので、農家さんが大根の箱の寸法に合わせて荷台を10センチほど延長する改造を既に施していた。にも関わらず、奥行き方向は内寸で1690ミリしか取れない。身長170センチの私は少し斜めにならなければ眠れないので、少し窮屈だ。改造されていない軽トラックで軽キャンを作っている人が沢山いるが、あと10センチ短かったらどうなっていたかと考えるととっても窮屈だ。きっと彼らも斜め仲間に違いない。
始めは単なる思いつきだったが、こうして実際に作ってみると、軽キャンは自転車+人が一人寝るのにちょうど良いサイズだ。オイルランタンの光で自転車を眺めながらコーヒーを淹れたりしてゆっくりした夜を過ごす。寝具は、Snowpeak社製のエアマットテレコの上に毛布を敷き、薄型のシュラフだけで快適に眠れる。翌朝は早朝からサイクリング。120Km(獲得標高1900m)程度の富士山一周だと6時スタートで、途中食事などをとりながらゆっくり走っても14時過ぎには帰ってこれるため、一休みしてその日中に帰宅することも苦にならない。自転車好きにはなかなか楽しい最小限サイズの移動型ベースができた。
また、軽キャンは、移動型のスモールオフィスとしても使える。コロナ禍で増えたオンラインミーティングもモバイルwifiがあればどこでもスムースにできる。電源は車にUSB端子を付けて移動中にバッテリーを充電して賄っているが、これで特に不足することも今のところない。屋根に太陽電池ユニットを搭載しているキャンピングカーもあり、車載型の大容量バッテリーなどもかなり開発されているので、よりヘビーな需要にも応えられそうだ。
道の駅では、自作の軽キャンはまだ少ない、というか、実際に車中泊しているのを目にしたことが今のところない。もしいれば、お互いに情報交換ができて楽しいのだが。
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