見出し画像

空き家再生プロジェクト(その3)

鹿児島県岸良の古民家再生(2014〜16年)第1回改修ワークショップ

これは鹿児島という遠隔地で数回に渡るワークショップを繰り返し、地域の方々との「コミュニティDIY」で完成させた古民家のバリアフリー改修の事例です。長いワークショップだったため、数回にわたって書こうと思います。

ここで行ったバリアフリー改修は、車椅子に対応した勾配のスロープで屋外テラスにアクセスし、そこから直接室内に入ることができるよう、玄関の建具を持ち上げました。また、トイレや洗面所も改修し、車椅子でも入れるようゆったりとしたつくりにしました。実は、こうしたバリアフリー改修を古民家に適用した事例はまだ少ないそうです。地域の方々の要望に応えながら、地域の方々の協力のもとに再生した古民家は、定期的なカフェの開催など、とても良い形で活用していただいています。

鹿児島県は大きな県です。本土部分は上下逆のU字型をしていて、二つの半島からなります。薩摩半島と大隅半島です。これとは別に、600を超える島があり、南北600kmに渡っています。様々な文化が交わった地域で、言葉は全く聞き取れないくらい違います。大隅半島の南、岸良という港町にある空き家を再生して欲しいと友人から頼まれて何度も通い、小さな空き家再生プロジェクトを行いました。

西岸寺(さいがんじ)というお寺が所有する空き家でした。お寺にはかつて、保育園が併設されていましたが、高齢化が進み、同じ建物が今ではデイサービス施設として利用されています。お寺から少し離れた場所にある空き家は、デイサービスのイベントスペースとして使ったり、地域を訪れる人が泊まれるゲストハウスとして使いたいというリクエストでした。

画像1

現地視察に行ってみると、おそらく戦中か戦後の古民家で、造りはそれほど良いものではありませんでしたが、敷地の周りに飲めそうなほど綺麗で豊富な用水が流れていて水の音が心地よく、また敷地内にアコウの巨木が立っているのが素晴らしいと感じました。周りは畑に囲まれていますが、台風の風を防ぐ目的で敷地の周囲には「壁木(かべぎ)」と呼ばれる防風林が植えられているのもこの地域の独特の風景となっています。

この建物を数回に分けて改修していこうという計画です。

出雲の経験があったので、私が初めに考えたのは、「まず掃除して、外観を整える」ということでした。出雲ではお披露目会をする際に、のれんを吊るしたり、縁側を作ったりと外観を重視して手を入れました。それはまちの人に空き家の存在をアピールすることが目的でした。現地調査を終えて事務所に戻ると、下のようなスケッチを描いて現地に送り、材料などを指示しました。

画像2

岸良でも同じように、まず外観を整えて、普段気に留めなかった空き家をまちの人が意識するようにしたいというのが私の考えでした。恐らく当初は杉板で仕上げられていたと思われる空き家の外壁にはトタン板が張られ、錆びて少しみすぼらしい雰囲気になってしまっていました。そこで、外壁には、「焼き杉」という地域でもよく使われている材料を使うこととしました。黒い焼き杉で外壁を仕上げ直すことで、きりりと引き締まった外観にし、ガラリと変わった印象になればという発想でした。

画像3

今回は焼き杉をDIYで作ってみようということで、地元産の杉板をバーナーで炙り、自分たちで作ることにしました。写真は外壁用の杉の羽目板をバーナーで地元の方が炙っている様子です。

改修前の階段

また、デイサービスの施設としても使うということだったので、ゆったりとした階段を作り、お年寄りでも上がりやすいように計画しました。写真はその階段を設置しようとしている初日の状況です。階段は、玄関とは別に、敷地の入り口から目立つ位置に新しく作り、直接居間に入ります。そこにかかっていたボロボロの庇を、既存の屋根に合わせて瓦の乗ったものにすることにしました。

画像4

写真は階段の上の庇に瓦の下地となる野地板を張っている様子。地元の棟梁Sさんがこの時は手伝いに来てくださいました。Sさんの仕事の早さと素晴らしさには、ただ舌を巻くばかりでした。

瓦の様子

写真は一旦完成した階段と庇、焼き杉の外壁の様子です。瓦は、費用を抑えるために、余ったものを集めていただき、なんとか目標の数に達しました。上の写真で仕上がった屋根を見ると、手前の庇の部分だけ、寄せ集めの瓦なので色がまちまちで、不思議な模様のように見えます。それもまた面白いねと言いながら、自分たちで作った建物の外観に皆さん満足そうでした。

画像10

お寺の奉仕活動ということで、地元の方が仕事の合間にたくさん集まってくださり、毎日10名くらいの方が来てくださいました。驚いたのは、皆さんの作業の手慣れた進め方です。写真の脚立の上に乗って外壁の下地になる胴縁を打ち付けてくださっている方は地元で理容店を経営されているYさんです。作業はとてもスムースで見た目も板についています。田舎の方は、サラリーマンとは違い、農作業だけでなく農機具小屋の簡単な修繕などは自分たちでやっているため、皆さん私以上にDIYに手慣れていて、こちらからは、「ここをこんな風にしたいんですが」と相談するだけで、「それならこうしよう」という提案や解決策は、皆さんで考えてくださいます。日本の田舎の住民のポテンシャルに改めて感心するとともに、これが都市部だったら、工具の安全な使い方教室みたいなことだけで半日かかりそうだなと思い、DIYに関する地域格差を実感したりもしました。

画像7

第1回ワークショップ の作業は、そんな地元の方の思わぬDIY力の高さによって、予定よりもずっと早く終わり、3日で外壁の仕上げと階段や庇の取り付けは完了しました。時間が少し余ったので、建物の隣に建っていた、使われていない農機具小屋を解体、撤去することにしました。これをなくすことで、前庭と裏庭が繋がり、裏庭に御神木のように立っているアコウの巨木がよく見えるようになります。

解体前の小屋

写真は解体途中の小屋です。しかし、小さくてボロボロに見えた小屋も、手で壊し始めると、なかなか手強いことがわかりました。仕上げに貼ってあるベニヤやトタンはなんとか外せるのですが、柱は、掘立柱と言って、地面に穴を掘って1メートルくらい埋めてあるため、なかなか倒せません。長年の間に建物の周りの土が固まって、抜けないんです。

ユンボー解体

困ったなと思っていると、手伝ってくださっていた地元の町議会議員でもいらっしゃるKさんが、ユンボーという重機に乗ってやって来ました。なんと、近くの工事現場で使ってなかったユンボーを「ちょっとだけ貸してくれ」と頼んで借りて来てくれたということです。私の中では、この瞬間、先ほどの都市部と田舎のDIY力地域格差がさらに広がったことは言うまでもありません。ユンボーの力は偉大で、あっという間に小屋はメリメリと音を立てて崩れ、あとは手でバラバラになった木材を整理して燃やせばオッケーということになりました。都会では木を燃やすのもできないことが多いですが、田舎はおおらかです。ユンボーで地面に穴を掘り、そこにゴミや木材などを入れ、火をつけて燃やし、埋めればゴミは自然に帰ります。ついでに、ユンボーで邪魔になりそうな樹木の移植なんかもやりました。

画像11

これが第1回ワークショップの最終形です。小屋が無くなったおかげで、建物の左奥に御神木のようなアコウの木がすっくりと凛々しく立っているのが見通せるようになりました。皆さん、どうもありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?