『危機に立ち向かう君へ』
何かが視界にはいり、思わずブレーキを踏んだ。
それはほとんどの桜が舞散った中、まだ咲いている桜だった。
品種が異なるのだろうか。
背が低いから日照時間の影響でもあるのだろうか。
満開の時には気付くことがなかったのに、この桜は今僕の視線を独占している。
圧倒的に目の前に存在している。
なぜだろう。
前からあったはずなのにこのタイミングでブレーキを踏んだ意味は。
しばらく眺めていたら、
桜の方から話しかけてきた。
「早ければ良いということではないよ。あなたのタイミングで輝くんだよ(スラムダンク最終回の『親父の栄光時代はいつだよ おれは今なんだよ』という名言もよみがえった)」
「あなたが短所だと思っている事があなたを救うこともあるよ。長所と短所は表裏一体だよ」
「人々は表面の華やかなところだけを見て勝手な事を言うけれど、一人でも大切な人があなたを理解してくれていれば大丈夫(二本の桜が一緒に咲いている)」
「同調圧力に負けてはいけないよ。誰かの人生ではなくあなたの人生を生きて。決して一人にはならないよ」
さらに桜は続けた。
「アフターコロナにはきっと残存者利益があるから、とにかく生き残るんだよ。諦めてなはいけないよ」
「Googleは最初の検索サービスではないし、Facebookは最初のSNSではないけれど、最後に動いて大きくなったんだよ」
「おまけにね、、、」
と桜は続けた。
「いつか結婚できるといいね」
えっ!?
これ以上この場にとどまることに精神の危機を感じた僕は、二本の桜(夫婦なのだろうか)にお礼を言って去ることにした。
ふと車に乗る前にもう一度、振り返って彼らを見つめた。
その瞬間 大粒の雨が降り出した。
「でもね 僕たちは最後に残っただけで 決して永遠ではないよ」
雨にうながされて桜が語りたくない真実をはきだしたようだった。
その言葉で、彼らが散った後の景色が僕の目にぱっと浮かんだ。
そこにはさっきまで見えなかった景色、新緑の美しい桜の木がずらっと並んでいる景色があった。
桜の花だけ見ていた僕は、本当のメッセージを見落としていたようだ。
土、根、幹、枝、葉。
何年も変わらずそこにあるおかげで花が咲く。
それなのに桜の咲いている時期しか 僕は彼らを見ていなかった。
何かが存在している本質的な理由は何かを考えること、
商品、会社、地域、国、ひと、自然、
あらゆる物事についてより深く本質的な問いをたてること、
その大切さを桜は教えてくれていたようだ。
ありがとう 二本の桜さん。
僕は自分の部屋にもどり、三月のライオンを読み始めた。
雨はすっかりやんで太陽が顔を出し始めている。
さっきの雨に耐えられただろうか。
後でもう一度あの桜を見ようかなと思ったけれど、僕は違う道を選んだ。
花は散ってしまってもいいんだ。
再会することに決めたのだから 僕のタイミングで。
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