いただいたテーマをやる回 03

◆先輩、後輩、同期

人付き合いは上手くない方だと分かっている。
楽屋で、喫煙所で、ふっと話すこともまだ苦手で、さらに飯屋で、飲み屋で、わあわあと話すには仲が良い奴が一人はいてくれないと途端にどうして良いのか分からなくなる。
そんな私を見て、人見知りなのか、と、納得してくれる連中もいるけれど、多分人見知りではなく人付き合いがヘタなだけで、仮に人見知りだとしても、もういい年齢である。人見知り、という言葉を免罪符のように用いて人付き合いから逃げ回っていくのも情けないものがある。


特に先輩づきあいはゲボである。
多少品のない表現にはなってしまうが、本当に、完全に、ゲボなのである。

まず、先輩の酒のグラスが空いた時の「飲まれますか?」のタイミングがゲボである。

大体は会話を邪魔しないタイミングで、うまく、さらりと尋ねるのが出来る大人の所作というものだが、私の場合は、会話と会話の間で先輩が「あ、それでいうとこないださあ、」と気持ちよく話し始めたタイミングで「飲まれますかっ」と尋ねてしまったりする。
そうでなければ会話を邪魔しないようにと一旦会話に集中するのだが、集中したせいでそのまま飲み物の事をすとんと忘れてしまい、30分くらい経って「あっ」となり「飲まれますかっ」と言ったりしている。

多分だが、この「飲まれますかっ」の言い方もひどくヘタなのである。
みんなは「飲まれますか?」とさらりと、それはもう春の小川のようにさらりと尋ねているのに、私はいつも「飲まれますかっ」と、アントニオ猪木の「元気ですかっ」みたいな感じで言ってしまっている。
飲んでる最中、会話も盛り上がってるのに、途中途中で急に「元気ですかっ」みたいな感じで「飲まれますかっ」と言ってくる奴がいるというのは、心地よくはないだろうという事くらいは分かる。


先輩にビールを注ぐのがうまくできなくてビッシャビシャにするなんていう事もざらだ。
ビッシャビシャにする事がざらなんて、それはもう、完全なるゲボである。
しかし私はいくら焦燥しても顔に出ないという唯一の取り柄があるため、ビッシャビシャにしても、ビッシャビシャになどしていない、みたいな顔ができてしまう。
ビッシャビシャにして、周囲が「えっ!?どしたん?!」と言ってこようものなら、なんか勝手にビッシャビシャになった、みたいな顔もできてしまう。
そうなると、ビッシャビシャにする事がゲボなのではなくて、私の根性がゲボなのではないかという説も浮上してくるが、それは一旦置いておいてもらいたい。


また、仲良くはない先輩の前では異常に猫をかぶるというタイプのゲボもある。
打ち上げの席などで、あまり知らない先輩に、ヒコロヒーおもろいよなあ、などと言って頂いても、いえいえそんな、イヤハヤ、とか言っているだけである。めちゃくちゃおもしろくない。何のために生きているのか分からないくらいおもしろくない。

そのわりに酒は好きで、隅で一人でとくとくと飲み続けており、そのうちにまた誰かに、ヒコロヒー今日のなんとかやったな、などと言われても、いえそんな、イヤハヤ、と終わらせ、伏し目がちで手酌をしている。
おもろい事も言わんくせに隅で酒ばかりを手酌でとくとく飲んでいる女なんて、さっき刑務所から出てきたばかりのバツ4とかじゃないと許されない。
なのに私はいつも、そうしてなるべく隅にいき、なるべくその場の注目を浴びないように、あまりくちをきかなくていいように酒を飲んでいる。完全になんでこいつ打ち上げ来たん案件である。ゲボだ。
そんなんだから、誰とも仲良くなりようがない。


とはいえ後輩づきあいも後輩づきあいで普通にゲボである。

ヒコロヒーさんてすごいですよね、みたいな話をよかれと思ってしてくれる子たちが一定数いるが、なんとも腹のひねくれた女である。「抜群に機嫌とりにきてるやん、そんなんせんでもカネ出すわいな」と、一気に警戒心モードに突入してしまう。
自分はこれでもかと猫をかぶるくせに、もしくはかぶるからこそすぐ察するのか、後輩が少しでも良い子ぶろうもんなら「そんなんすな」と容赦なく捕まえている。これはゲボであり野暮だ。(うまい)

また、後輩に悩みなどを打ち明けられる事もひどく苦手である。
うまく乗ってやれる気が全くしないため、事前に「お話があります」などと告知されると「内容によっては行きたくないです」と告知返しさせてもらっている。
色々と考えを巡らせた結果に私を選んで連絡してくれた後輩に対して、なかなかのゲボを披露している。
私だったらこんな先輩、影で「ゲボさん」と呼ぶに決まっている。


後輩というのはどうしたって先輩に気を使うものだと承知はしているので、ある程度は仕方がないが、気を使われると気を使ってしまう。一緒にいて楽をさせてもらえるのは「こちらに気を使っているそぶりを見せてこない」連中である。

もちろん礼儀正しいというのは大前提のもと、腹いっぱい、腹減った、眠たい、帰りたい、まだ遊びたい、とかを分かりやすく教えてくれる、という気づかいをしてくれる連中は楽なのだ。
それが気づかいかどうか分からないレベルの、ただのがさつ屋でも有難いものである。そしてそんな連中は、やはり上から好かれている。

例えば私みたいに、何を考えているのかいまいち分からないような、隅でイヤハヤ言いながら酒飲んでる奴などは気味悪がられて当然である。織田信長の世なら理不尽に首を切られていてもおかしくない。いやおかしくないことあるか。


というわけで、やはり仲が良い同期、という存在は大変に有難いものである。

あまり数多くいるわけでもないし、ましてや仲が良いと枕につく連中など片手で数えられるかどうかだ。
その片手連中ばかりと遊んでいるため、輪も一向に広がる気配を見せないが、正直な事を言えば広げる気もあまりない。この片手に私は十分満足している。

先輩にも後輩にも、こちらも多くはないがずっと付き合ってくれる人たちがいる。何もかもがゲボな自分を許容してくれる人たちだけは、ずっと幸せにしてやりたいとゲボ目線で思っている。



*頂いたテーマ「先輩」「後輩」「同期」でした。
まとめて書かせて頂きました。
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