見出し画像

【書評】『最低賃金の目的における変化と現実の地域別最低賃金の妥当性』

文献:『最低賃金の目的における変化と現実の地域別最低賃金の妥当性』
著者:吉村 臨兵
社会政策学会誌 『社会政策』第2巻 第2号

1.本書選択理由

最低審議会の過去の体制から改善を図るにあったての検討を行うこと、システム変革期に陥る課題点を洗い出すことで、対策を行うため。

2.要約

日本の最低賃金法の目的を表す第一条では「労働条件の改善」と明記されている。
A:賃金の最低額を保障する。
 B:労働条件の改善を図る。
C:労働者の生活の安定、労働力の質的向上および事業の公正な競争の確保という理論構成になっている。
とりわけCについては、労働者の生活の安定が中心である。
 近年の議論で重きを置かれていたのは、A→Cという回路が成り立っているかどうかである。しかし、最低賃金制は時間あたりの賃金を規制することが主とされているため、水準の上昇を論論じる中で、反比例して述べ労働時間が減ったらどうなるかという問いも立ち現れてくる。

 目安設定の前は、失対賃金であった(1972-76初頭)。1995年2-3月の国会会議録によると、群馬県の例として、最低賃金が失業者就労事業就労者賃金を上回らないように地方最低審議会が誘導されていた様子が窺える。
また、大阪で失対賃金を1円上回った際には、1975年12月24日付の毎日新聞によると、「労働省が1円の取り扱いをめぐって大あわて」と報じた。つまり、失対賃金が最低賃金に違反することになるためである。

 目安設定によって、相場原則が定着した。中央最低賃金審議会による目安(ランク制度)が導入された。目安という相場原則は、再び失態賃金と同様に低位の相場原則と化した。その要因として、目安設定の当初は、中小企業賃上げ率が大手の賃上げ率よりも若干高いことを前提としていたが、前提が崩されてため。また、日本が年功賃金体系であるため、労組の有無、労働協約や産業別の協定の有無に関わらず年功賃金体系の限り、相場原則から最低賃金を設定しようとすると、相場原則は低位にならさず得ない。また、激しい物価上昇の波が去り、事業の身長が期待できなくなったことで、低位と知りつつも相場原則を受容しざる得ない状況になったことも影響している。

3.批判・感想

 労働者条件の改善が法的に明記されているにも関わらず、目先の改善を求めた政策が多いのではないか。失対賃金の誘導に関しても、最賃の引き上げだけでなく、失対賃金を引き揚げたくないからこその誘導による操作であり、そのような課題が全体的に多いことが問題である。
また、目安設定についても、中小企業賃上げ率が大手の賃上げ率よりも若干高いことを前提としていたことからも、数値的な根拠や妥当性が低いケースが多い。一方で、年功賃金の体制から変革をするべきかについては、再度検証を行う必要があると感じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?