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2023.09.22お茶の間トーク02「地方で演劇をつくる」サンロク×岩田奎×江原101住民

 今回は、日本全国の地方を拠点とする俳優ユニット「サンロク」、20代の若さで数々の賞を受賞した俳人岩田奎、そして豊岡を拠点に文化活動で地域をつなげる江原_101住民の計3団体、5名のゲストと12名の参加者を迎えて行われた。トークテーマは「地方で演劇をつくる」。

 トークは江原101住民の進行により、温かな雰囲気でゲストの自己紹介から始まった。同年代のゲスト全員が都会での創作活動を経験し、その上で地方での公演や拠点として地域を選ぶに至ったと語った。中でもサンロクの松本義邦さんは、幼少期に30回近く引っ越しを経験して、その度地域に触れてきた。現在は、京都府と千葉県松戸市の二都市を拠点に活動し、「その人が生活している場所で演劇の公演がやりたい」という言葉にはとても重みがあった。

 次に話題は地方移住の経緯に移り、サンロクは新型コロナウイルスによる影響が大きいと語った。中止になった豊岡演劇祭2021の企画や準備過程を間近で見ることができたこと、授業や会議のオンライン化により都会で生活する意味を感じられなくなったことがきっかけとなり、現在の活動につながっているという。当時は、社会の混乱の中で地方移住の決断をせざるを得ない状況になったとはいえ、今はネガティブな選択とは捉えずに全員が自身の可能性を信じているように感じた。また、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、都会に残って演劇で稼いでゆくことのハードルが上がった(=地方で創作するハードルが下がった)という意見も上がった。彼らは、都市部に一極集中のような固定化した舞台芸術業界に生じた変化を肯定的に捉えていた。

 トークも中盤になりさらなる盛り上がりを見せ、「東京という場所」について話が広がっていく。文化の中心、憧れ、一度は都会の生活を経験することに価値があるなど、一見自分たちの考えを重い思いのままに語ってはいたが、一方で息苦しさやゆとりのなさ、田舎と比べて創作しづらいなど、都会に潜む問題点も多く上がった。特に竹内さんの「交流が希薄で近所との繋がりがない」にはその場の全員が食いつき、頭を大きく振って頷く人も見られた。その中で、創作の拠点選びの基準となったキーワードは「居心地の良さ」にある、という一言にはとても納得した。そして心地の良い地域は、もう一度ここに戻ってくるイメージができるそうだ。その場の全員が異なる背景を持ち異なる地域を経ているにもかかわらず、その経験と感覚を深く共有していた。

 ネタは尽きずイベントも終盤に差し掛かった頃、数分の質問コーナーが設けられた。参加者の「地方制作で距離が近いと思うこと、困ることは何か」という質問に対して山田さんは、地域へ初めてきたひとの気持ちと、住むひとの気持ちが両方あったら素敵だと応える。サンロクがフリンジ会場に選んだ植村直己冒険館の心地よさは、但馬に住んでいるからこそ忘れている人も多い。外からきた人には、そんな当たり前になったことをもう一度気付かせる効果があると話した。また岩田奎さんは最後に、地元の方との創作を通じて自分と接点のない人たちと繋がる実感があると語る。多様性とかアイデンティティが重要な社会では、逆に繋がりがない、経験しない人が増えていると主張していた。トークはここで終了を向かえたが、解散後も会場に残ってディベートや発言の深掘りが至る所で行われていた。

HIBOCO
Wakai Ayumu

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