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当事者による反復デザインの考察〜在宅用スタンドデスクの自作を例にして〜

新型コロナウィルス(COVID-19)の影響で在宅勤務を始めた人も多いのではないでしょうか。私も本格的に在宅勤務をはじめた1人です。在宅勤務が長引いてきて家の仕事環境をちゃんと整えたいのですが、一方で自分の要求を見定め合うものをしっかり揃えるために外出することもむずかしいです。

そこで私は、人間中心設計の考え方を活かして、自分でプロトタイピング(試作)を繰り返しながら、自分の要求を見定めつつデスクを自作しています。今回はそのプロセスを振り返ってみたいと思います。

デザインの始まりは、ばくぜんとした要求から

最初は、健康のために立って仕事がしたいな〜、ぐらいのばくぜんとした考えしかありませんでした。なので、立って仕事ができるところが家のなかにないかなぁと探すところからはじめました。

そこで着目したのが衣類をかける壁面収納でした。小さなものを置ける棚がついてたので、そこにパソコンを置いてみました。これが最初のプロトタイプ(試作品)です。

この環境で立ったまま仕事ができるか、どの高さがちょうど良いのかを確認しました。このときはもともと家にあったもの応用したので、何か買ったりする費用や時間はゼロでした。

実際に試してみて、立って仕事をすることは自分にとっては良いと確認できましたし、机の高さも仕事をしながら確かめられました。一方で、このプロトタイプだと、作業スペースが小さすぎるという気づきが得られました。つまり、このプロトタイプは立って仕事をするための機能(Utility)は満たしたものの、使いやすさ(Usability)には改善の余地がある、といえます。

機能から使いやすさへ

機能は確かめたので、次は使いやすさを考えます。最初のプロトタイプの改善を考えましたが、衣類の収納のためのものなので改善はあきらめました。

どうしたものか?と家のなかをあらためて見回してみて、カラーボックスに目が止まりました。組み合わせるとカラーボックスの上に作業スペースを作れました。また、カラーボックスの位置を部屋隅のコンセントに近いところに移動しました。もともと、第1世代のプロトタイプでデスクに必要な広さは分かっていたので、部屋隅でも大丈夫だと確信をもって動かせました。

実際にカラーボックスの上で作業すると高さが少し物足りない感じでした。とはいえ、もう1段カラーボックスを重ねるのは危ない感じがしたのでダンボール箱を上に置いてみました。ダンボール箱は軽いので積んでいても恐怖感がなく、かつノートパソコンをおけるぐらいの強度は確保できました。

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結果的に、ダンボールの上にはノートパソコンと小さい手書きノートを置ける広さと、段ボールの両脇に小物を置けるスペースも確保できました。第2世代のプロトタイプでは、狙いどおり使いやすさの顕著な改善ができました。しかも、費用は0円でかかった時間も数十分で済みました。

作って・見て・使うことで学びを得る

スティーブ・ジョブズは「人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ」という言葉を遺しています。この言葉はそのとおりだなと思っていて、実際に自分で作って・見て・使ってみることで、より具体的な要求が出てきます。

例えば、立ち仕事をしていると片足に体重をのせてしまう課題が発生しました。そこでステッパー(足踏みできる機械)を導入することにしました。メルカリで中古の安いステッパーを探して、1時間ぐらい連続で使っても大丈夫なものを選ぶことにしました。メルカリのおかげで定価の半値以下で買えました。

次に、ステッパーに乗るのでその分デスクも高くする必要があります。しかし、ダンボールをさらに重ねると不安定になることに気づきました。また、ステッパーを使わずに仕事をしたいこともあるので、机の高さを変えられると良いと思うようになりました。

自分の要求を満たす市販品がない!?

第2世代のプロトタイプで、自分の部屋の特徴や自分の要求もだいぶ見えてきたし、それらに合う市販のデスクを探して買おうかな?と思いました。しかし、探してみてもちょうどよい製品は見つけられませんでした。なので、基本はスタンドデスクで作業をして、足が固まってきたらステッパーに乗る、という運用的な対処をしばらく続けていました。

(市販品は金額が高いし、高さが足りないなど要求に合わず断念)

無関係に見えるものからの気付き

しばらくしたある日、洗面台に付けた突っ張り棒がふと目に止まりました。もしかしたら突っ張り棒が棚として使えるかも!?と思い立ったのです。突っ張り棒×スタンドデスクという思いつきは、当時の自分のなかでは画期的だったのでテンションがあがりました。

デスクの横幅のスペースを確認すると、幅145cmで両脇がしっかりした壁になっているので突っ張り棒を設置できます。次に、その幅に合う製品を探してみると。幅190cmまで対応する製品が見つかりました。耐荷重は最小でも20kgあったので、ノートパソコンと本を数冊おいて作業する位であれば特に問題ないと判断しました。

Amazonで頼んだら翌日には届いた(在宅勤務だと荷物受け取りがスムーズで便利)ので、組み立てて高さを合わせて設置してみました。基本は良い感じだったのですが、実物を見て耐荷重が不安になったので、念のため突っ張り棚の下にダンボールの支持材を入れることになりました。

思ってもみなかった体験品質へ

突っ張り棚のスタンドデスクは、ダンボールデスクの2倍以上の幅を確保でき、奥行きも少し広がり、さらに使いやすい作業空間になりました。ついでに充電ケーブルの配線も見直してスタンドデスクに備え付けることで、素早くアクセスできるようになりました。

さらに、突っ張り棚になったことでスタンドデスク下のスペースも拡がり、作業には使わないけど手元に置いておきたいノートやスマートフォンを置けるようになりました。この特徴は、プロトタイプを作る前は全く考慮していなかったのですが、良い体験品質になりました。なお、第3世代のプロトタイプの費用は3000円ぐらいで、作業時間はおよそ30分ぐらいでした。

新たな側面(ライティング)の要求の発生

第3世代のプロトタイプは自分の要求をほぼ満たしていたので、満足してしばらく使っていました。しかし、オンラインミーティングをするときに自分の顔がやたら暗くなることを指摘されることに気づきました。机が高くかつ部屋隅にあるので、シーリングライトだけだと逆光になるようでした。

ためしに光目覚まし用に使っていたHueを使ってみたのですが、光量が強くかつ直線的ま光なので自分が眩しいしカメラ映りも悪いという課題が起こりました。

新しいライトを買うことも考えていたのですが、探しても自分のデスクに合うライトが見つからず悩みました。

ランプシェードのプロトタイプ

どうしたものかと2〜3日考えていたところ、プリンター用紙がふと目に入りました。そこで、テープとA4のプリンタ用紙でHueに合う大きさのランプシェードのプロトタイプを作ることにしました。いい感じの紙に光が吸収されるので自分の眩しさが軽減されるのと、光が柔らかく広がるようになりました。さらにHueを置く場所をかえることで、逆光問題と眩しい問題を解決することができました。

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第4世代のプロトタイプによって、スタンドデスクのライティングについても機能やユーザビリティ的には満足いくものになりました。もちろん、意匠デザイン的にはかなり難があるので、より良くするには、要求に合う良いプロダクトを買いたいなと思っています。なお、このときのプロトタイプの費用は0円、制作に掛かった時間は10分ぐらいでした。

使いやすさから、心地良さへ

ここまでくるとスタンドデスクの心地よさが気になってきます。たとえば、いまのデスクは金属的な質感が強いし、メッシュ構造なので小物を置けないという課題があります。

なので第5世代のプロトタイプとして、ヒノキの端材を買ってそれをつなぎ合わせることによって天板を作る予定です。ヒノキの端材は送料込で1000円〜3000円位で手に入りますし。柔らかいので自分で加工しやすいです。

私のスタンドデスクのケースでは第5世代までいって心地の良さを考えるまでに至りました。ここまでモチベーションが続いたのは、小さく早く試しながら繰り返すなかで、当事者(自分)が何を求めているのか学びを得られていったことが大きいと思います。きっと、当事者が違えば重要視する要求も変わってくるはずで、何から学ぶべきかは変わっていくはずです(最初に見た目から入りたいとか)。

解決したいことはまだまだ湧いてくる

他にも工夫したいポイントはあります。第一に、突っ張り棚の高さを変えるには、バネを緩めたり、水平をとったりするのに力仕事が必要になります。なので、突っ張りをワンタッチで緩められるような機能があれば、より楽になると思っています。あとは、デスクの支持材も床から天井に突っ張るポールで支えられれば安定するし耐震性に優れたデスクになりそうです。

探しても、突っ張り棚を組み合わせるというコンセプトのスタンドデスクは見つけられませんでした(あれば買いたい)。このコンセプトならデットスペースや部屋の角を利用して、安めに昇降機能付きのデスクを導入できそうです。

1人の当事者の問題解決から広がる可能性

はじまりは、当事者(私)が立って仕事をしたい、というばくぜんとした要求でした。そして、小さく早く作って学びをえることで改善が進みました。そして当事者の要求と得られた学びを整理することで、新しいスタンドデスクのコンセプトを示せました。

もちろん、似た要求を持つ人の人数や、いくらなら買いたいと思うのかはわかりません。プロトタイプではなく、プロダクトとして売ることまでを考えるなら、マーケットフィットや安全性などについても深く考える必要があります(少なくとも私は欲しい!)

この事例を方法の観点から捉えてみる

最後に、この事例をいくつかのよく知られる考え方に照らして考えてみます。

第一に、人間中心の反復デザイン(人間中心設計)から見ると、冒頭でも述べたようにこの事例はまさに反復デザインのアプローチです。反復のなかで、当事者の要求、ユーティリティ、ユーザビリティー、さらにユーザエクスペリエンスについて検討・洗練していきました。

第二に、Lean start-upにおけるMinimum Viable Product(MVP)から見ると、第1世代のプロトタイプで立って仕事をするというミニマムな要求は満たせているのでMVPといえると思います。そのMVPを体感した私(当事者)は、さらなる時間とお金を投資(ペイ)する価値があると判断しました。価値を感じたからこそ、第5世代までプロトタイプをしながらアップデートするモチベーションが続きましたし、コンセプトとしてまとめるところまで考えることもできました。大げさにいえばUser-Problem FitとProblem-Solution Fitを確認した、という感じでしょうか。しかし、Product-Market Fitについてはまだ未検証という段階です。

最後に、当事者自らが問題解決をするためにデザインをする「当事者デザイン」から見ると、まさに私が当事者となってデザインを進めたのでした。私が反復型のデザインの考え方を活用して、デザインを反復するなかで自分の要求を明確にし、自分に必要なものを実現するためにプロトタイプを繰り返していきました。先人のデザイナーたちが蓄積した知恵を活用できれば、当事者の誰しもが自分の課題や要求と向き合ってデザインしていけそうです。

おわりに

以上が私のスタンドデスクのプロトタイピングの紹介でした。良い考え方は身近なことの問題解決にも活かせます。当事者たち自身が、自分たちの身近な問題を自分たちで解決できるようになっていったら素敵だと思ってます。皆さんも何かの当事者として、身近なところからチャレンジしてみてはいかがでしょう?


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