セミが怖い

梅雨が明けて暑さもいよいよ本格化してからというもの、セミの声を聞かない日はない。

セミの声も数匹なら「夏だねー」で済むけれど、それが数十匹、いやそれ以上になると、本当に恐怖でしかない。

だが、大合唱以上に恐ろしいのは、地面にひっくり返っているセミである。


セミの命は短い。

命尽きたら、木に止まり続けることは出来ない。


ただ、地面にひっくり返っているものの中には、まだ生きているものもいる。

木にしがみつく力は無くなっても、まだ息絶えていない瀕死のセミもいるのだ。

そうした絶命寸前のセミたちは、人の気配を察すると最後の力を振り絞って予測不能な動きをする。


セミ側からしたらそれこそ必死なのだろう。

ただでさえ死が近いというのに、自分よりもはるかに大きい外敵が近くにいるのだ。

そんな時セミは、まさに「火事場の馬鹿力」とでもいうべき力を発揮する。


「ジジジジジッ」と、激しい羽音を立てて動き出すのだ。


その時の恐怖といったらない。


セミも怖いだろうが、こちらはもっと怖い。


お願いだから、動かないでくれ。

何もしないから、どうかそのまま静かに天寿をまっとうしてくれ。


そう願わずにはいられない。


私は過去に、今際の際のセミに出くわして腰を抜かしたことがある。

小学4年生くらいの時だった。

人生初、と同時に人生で唯一の腰を抜かすという経験をした。

私のセミに対する恐怖は、そのとき植え付けられたのかもしれない。


それにしても、年々セミの数が増えているように感じるのは気のせいだろうか。

セミの鳴き声が大きいからそう感じるだけかもしれないけど、なんだか毎年増えている気がしてならない。


もしセミの数自体にさほど変化がないとしたら、セミが止まれる木の数が減っているのだろうか。

木が減っているから、少ない木に何匹も密集する羽目になっているのかもしれない。

セミだって、出来ることならわざわざ人の多い場所や生存の上でライバルとなる他のセミがいる木には止まりたくないだろう。


こうしている今も、窓の外から彼らの鳴き声が聞こえてくる。


窓をきっちり閉めているにも関わらず、しっかりと聞こえてくる。

それくらい、彼らの鳴き声は力強い。


熱中症に気をつけ、ウイルス対策を徹底し、セミの恐怖と闘う。


この夏は、大変過酷なものになりそうだ。



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