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6/15-6/16 IRON finance TITAN崩壊事件

①前書き

この一件で心を痛めた方々の傷が少しでも早く癒える事を祈っています。

②参加者が見た光景

IRONのロジックに関しては様々な方が記事にされておられるので大部分省略します。

前日

わたしもこういった相場にテクニカルが通用しないという事はある程度理解してはいましたが、対数チャートで角度をあげて直線を維持し続けるという前代未聞の動きに対して、正直な所では恐怖を感じざるを得ませんでした。

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(1時間足logチャートで綺麗に直線を維持)

普段使うインジケータ類はほぼ見たことが無いような状態になっており、仮に崩れたらダウンサイドリスクは想像を絶するだろうと言う思いがありました。

実際TITANが12$の時に起こったペグ外れに対してのアービトラージを行った際、redeemを行うタイミングというのが非常に難しく4.5$まで下落するのを見る事になりました。

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(チャート上では残ってないのですがquickやsushiのレートを監視していた私は4.5まで見ました)

その後はV字回復しました。しかしこの時redeemは下げ止まった時にしなければならないので、同様に考える人が居る場合に下げ止まらない事に気づきます。

この経験が後の行動に影響したと言えます。

元々このプロトコルにおいてTITANの時価総額はペグ維持の残り生命力そのものです。

これは当初から理解していましたので、時価総額がゼロになる可能性は常に警戒していました。



加えて、これは結構前から起こっていたのですがTITANの単体ステークのAPRがUSDC-IRONのAPRより遥かに低い状況にもやはり懸念はありました。

これは何故かというと、(一応)ローリスクのペアより遥かにハイリスクの単ステークのAPRが低いというのは本来異常で、TITAN単体ステークのAPRは実質USDC-IRONのAPRの天井であるはずだからです。


それを余裕でぶち抜いて単体はAPR10%とかその程度になっており、一方でUSDC-IRONは500%オーバーといった状態ですからそんなバカな、という気持ちでした。

この件についてはある程度議論を行い、adamantで単ステークするとAPYが高いから放置されているとか、beefyから放置されているとか、運営が自分達の給料用に単ステしているとか検討していました。

運営の動きもチェックして、本来の循環枚数20M、運営の取り分30%で6M、実際の循環は4M、で枚数がおかしかったので売っている可能性を検討しました。

しかしSCANで見る限りでは表示循環よりsushi等にある枚数が多かったので運営分は循環に入っていないという暫定結論と、頂いたログでの動きを見た限りでは当時はTITANを彼らもファームしている可能性があるという結論になっていました。

ECRが仮に0になった場合、TITANは=$ですからガバナンスの51%を逆に取りに行く可能性が僅かに存在しました。

3年の排出が済んだ後を見越すならば、プロトコルの持続性を維持するには彼らが大株主になってガバナンスを確実に通せる事を狙うメリットは確かにあると言えばありました。

運営がガバナンストークンを集めている可能性というのは頭から完全に外れていたので、これを考慮した場合単体ステークのAPRが臨界突破しているのは理解できたので暫定保留ということにしました。

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さて、それとは別にpolygonのtxが通りにくくなってきており、これも大変危惧していました。翌日はもっと厳しくなるかもしれないからです。

それでもECRは76%程度であり、完全に見えているダウンサイドリスクはLPの片側が76%になる、とそこまで大きい訳でも無く、果たしてどこまで行くのかはまさに未知の領域だと感じていたのも確かです。

ECRが低下するほど流動性が増加している状態になりますから、小規模な売りでは崩れにくくなります。

USDCのリソース問題に関しても検討していましたが、IRONが担保をaaveに投資しておりaaveの使用率も低いのでレンディングレバレッジが始まるとIRON→aave→IRON→aaveが起こり得る関係で、やはり先行きは何とも言えないと考えていました。(IRONでIRONするのが出てくる可能性すら意識していました)

そもそもIRONは自身の目的を資本効率の向上と堂々と表明していますから、担保投資に関しては当然と言えば当然ですね。

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参考、画像引用元;Fractionalized Stablecoins and Capital Efficiency

他には、polygonで2番目に流通している通貨をショートが無い状態で簡単に崩せるかどうかについては、判断しかねる所がありました。

sushiやquickにもIRONやTITANを使用してquickやsushiを貰えるペア(ETH-IRON等)が用意され、その他ファームでも受け入れが増加していってユースケースの問題も徐々に解決しつつありました。

IRON運営からもフラッシュローンアタックがvaultに多かった為か、セキュリティ重視のプライベートvaultが出たり、直近のロードマップもありましたから少なくとも完全な判断材料はその時点では完全に欠けていました。


このまま続くパターンも、ソフトランディングする可能性も視野に入れており、結果はまさに見るまで分からなかったのがその時の考えです。

多数の懸念材料と良材料が混在していました。

ただ唯一、単に怖かった。


③その時何が起こったか。

当日の午後10時頃、ペグが外れます。

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(10分足、左の1割れが始まりだった)

この時、0.88程度まで落ちましたがアービトラージ等のプロトコルの恒常性が機能し1.005まで戻りました。

わたしも0.94ぐらいでなんとかtxを通して拾い、1を超えた所で売りました。

それからしばらくは1.005を維持していましたが、わたしが気にしたのはTITANでした。

確かにペグの維持は出来たのですがsupplyが4.2M程度で安定していたのが4.8M程度に増加していました。価格は60程度から35までダウン。

この時ちゃんとTITANのリバウンドは起こっていましたが、枚数が増加している事には危機感を強めていました。

しかもtxがなかなか通らない、これは心理的にかなりきついものがありました。アービトラージしようにも時間のリスクが大きすぎて相当に幅がないと拾いにくい。

さて、それからしばらくしてTITANが50を超えたあたりで再度大きな売りが来てペグが外れました。

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(10分足、ここから1.005辺りに戻らなくなる)

ここからTITANが再度落ち始めます。

この時点ではまだ確信はなかったのですが、1に戻らないんですよね、拾うにも拾いにくい位置。

そして、そこでわたしが気づいたのはTITANの4.8Mが減ってたことです…。

普通1.005とかになっていないとmintするメリットが無いのでTITANは減らないはずなのですが、IRONが1を割っているのにTITANが減り始めていました。

正直確証は無かったんですが、下落時にmintによってアービトラージが出来る可能性が存在したのは観測していました。

これが万一行われていた場合、下落が促進されることになります。

故にわたしは全てのポジションを解消して、撤退しました。

一番大きい理由は「大丈夫だったら再度入ればいい」これに尽きます。

このシステムが機能し続けるなら、いつまでもいつ入っても大丈夫なはずですから、この判断は比較的すぐできました。

この後この事を皆さんに伝えるかは非常に悩みました、取り付け騒ぎを誘発して本当は起きないで済んだ事態が起きるかもしれなかったからです。

運営も仮に気づいていたとしても同じ状態だったと思います、言ったら余計に悪化し得る状態…。

とはいえ、悩みましたが言える事は言っておくことにしました。わたし程度の影響は無いでしょうから。


DMで逃げられたと感謝を送ってくださった皆さんには励まされました。ありがとうございます。

加えると、aaveで資金を調整しようとしたらaaveが何故かページが見れなかったというのもありました。


これも一部では影響したという説もありますね、IRONの担保はaaveにありましたから。

とりあえずわたしもaaveが見れなくて困ったのとsushiに繋ぐと何故かアンチウィルスソフトが反応する等、正直嫌な雰囲気が多すぎたのもありました。これに関して別に心配はしてなかったんですが、感覚的には嫌でした。

そこからはアービトラージ側に専念しようとするのですが、そもそもLPを抜くのすら物凄く苦労したほどtxが通らなかったので、どうしても0.9程度まではひきつけないと人力では厳しい物がありました。

仮に拾ってもいつredeemすればいいのか分からない問題がついてきます。

わたしは前回の4.5の時に止まったら売るならば、それを繰り返されれば止まることなくどこまでも下がる可能性を認識していましたので…。

実際TITANは本当にノンストップでした。

IRONは0.95-0.99を往復していましたが、TITANはチャートに引いていた線等は全部無意味だったのでBOTでgwei10000とかの戦いが行われていたと勝手に思っています。

そして、最初の暴落からおよそ16時間、リバウンドから10時間程度でTITANの時価総額が尽きました…。

これによってペグを維持する事が出来なくなり、既に0.93ぐらいまで下がっていたIRONも0.75までダウンしました。担保率的にここがステーブルだからです。

しかし実際は最初のダウンは主に時間拘束を嫌った方なんでしょう、0.55まで下がりました。そしてもう一回0.6まで試しました。

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(IRON担保割れ)

地味にこれを拾ってredeemしたら0.74がちゃんと出てきたので、なんか虚しくなりましたが、他にも拾った方々によって一時IRONの価格は0.73程度でぴたりと止まりました。

この時redeemのページがややおかしくなっていてredeemを試みてもページが真っ暗になってしまう現象が起こっており、なかなかうまく出来なかったのでちょっとどうしたものかとなりかけていたのですが、その内通せました。

これは後に問題として運営アナウンスが入って、タイムロックの12時間後に動くようにするとの事になりました。

このredeemでTITANが数十億枚とか出てきたので、時価総額が0になった時点からは1$に足りる分を発生させようとするとこうなってしまうという事に気づきました。

わたしはとりあえず、TITAN買った人が時価総額をわずかに発生させてるので、それで1$に足りるよう補おうとしてすさまじい数が出てくる、と解釈しました。

つまり、TITAN買うとredeemした人に売られるので絶対買ってはいけない。

気づけば時間は早朝ぐらいでした。

④12時間後に0.74になるかもしれない鉄

さて、最中に取り付け騒ぎを収めようと運営はaaveにあった投資資金を全て引き出し可能資金に移動させてお金がありますよとアピールしました。

しかし特に効果は無し。結局ペグ外れになってしまいました。

その状態で12時間後にredeemを修正して再度使えるようにします、とのアナウンスが出てredeemが出来なくなりました。

この時点でTITANは新規発行が殆ど止まった訳ですから、後々考えるとここで拾うべきでした。

正確には発行されていましたが循環が兆を超えている状態で一日70万枚でてきても誤差なのでほぼ新規発行が無いと見なせるでしょう。

quickのAPRは物凄い数字になっていました、今地味にmoonしているのは新規発行がほぼない+高APRだからでしょう。

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(買うなとアナウンスされているのに8倍ぐらいにmoonしたTITAN)

加えてquick自体もレンディングに出すとAPY200%超えなので(使用率99%超え)この辺も見ておけば拾えたんでしょう…。

問題はIRONです、12時間後に取り出せるとの話ですが運営がrug pullする可能性は勿論ゼロではありません。当然それを織り込んでIRONの価格は担保率より下に下落しました。

大体0.65ぐらいまでは下がったと思ったのでここは拾う人と捨てる人が交錯した所でした。

そしてそこから緩やかに0.73に近づいていきました…。

さすがに長期戦になりすぎたので、わたしはここで終わって睡眠を取りました。

特に12時間は動きももうないと思いましたし、燃え尽きた感もありました。


結局、担保の資金は無事に帰りました。

運営は約束を果たしました。わたしもほっとしました。

⑤これは再度起きるのか?再現性のナゾ。

ひとまず以上が現場からの報告になります。

ここからの疑問は、これが何だったのか、ではないですね。

わたしが気になるのは、これはもう一度起こせるのか?という方です。

集まれば集まるほどAPRが上がるという現象を意図的に起こせるならば、あちこちで再度同じような祭りが乱発されるはずです、なのでこれに再現性があるのかという点は結構重要だと思っています。

通常はAPRは人が集まると下がりますので。

実際同じループにはいる事を狙って、BSC側での仕掛けもありましたし、DNDでの仕掛けもありました。しかしどちらもループには入りませんでした。(DNDはちょっと惜しかったですが)

DNDは地味にdADAのECRが22%等になっていてほぼ全部ダイア状態が発生していたり、すぐにdトークン達が数%乖離するのでアービトラージするのに非常に最適な環境と化して居ました。(というか22%になっても一応低流動性故にふらふらペグしていたので先行事例としては22%まで大丈夫という事例はあったと言えばあったとも…)

ですのでTITANと同じく価格が低い状態で時価総額が瀕死になってしまい発行数が54億枚になってしまいました。最初は1万上限だったんですけどね…。

これにより一時期380$まで落ちたDNDは2万$に達して0になりました。壮絶なボラティリティです。

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(時価総額0)

この二つのpolygon IRONとBSC DNDにより時価総額が死ぬと発行上限が無限になってしまう事が確定しました。

とはいえ時価総額が死んだらペグも外れるのは最初から分かっている事なのと、時価総額が死んだら当然価値は0なので0になった時点で終わりだったと言えます。数億分の1は0よりは多いといえばまあそうなので…。

気になるのはやはり、この状態の再現性があるのかどうかという点でしょう。

全く同じようなプロトコルを用意して始めて、もう一度高APR祭りを引き起こせるのか、恐らくこれから誰かが試すのでしょう。それはIRONチームかもしれないし、それ以外かもしれません。

今回IRONチームは特に何かしたわけではないです、TCRはIRONが買われない限り下がりませんからこのプロトコルは基本的には受動的なのです。

元々フォーク元からして市場の需要を探すシステムとの事ですから、単に需要に応えてくれるだけです。

別に我々に買えとか言ってくるわけではなく、我々が買った結果TCRが下がっていくシステムです。

むしろIRONチームは急激な集まりにビビったのかTCRが1Hに0.25%ずつ下がる所を数日前辺りから0.1%に抑えていましたから、どちらかというと保守的に動きました。(これは逆にネガティブに働いた可能性がありますが)

それ以外は完全にプロトコルの定めた通りに動いて、取り付け騒ぎが起こって破綻しました。

フラッシュローン対策のTWAP周りの欠陥をついたアービトラージが原因になった可能性は十分ありますが、完全な検証は困難でしょう。

エコシステムがpolygon全体に拡大していく途中でしたから、もっとゆっくりだったら大丈夫だったのだろうか?といった疑問は残ります。

ただ何にせよ高APRが存在しない限りUSDCを捨てる意味はさほどないので、このプロトコルは高APR連鎖上昇状態にならない限りあまり需要が無いはずです。故にECR0の極限かTITAN0の極限のどちらかしか成りえなかったのでしょう。

この高APR連鎖状態が再現可能なのか、それはこれから誰かが試すのでしょう。

なお、個人的にはこのプロトコル最大の問題は運営への信用であって、故に保険加入等の方向性で確実に信用を得ていくスタンスを目指して欲しいと思っていました。セキュリティ重視のvaultを出したりaaveより格下で運用しないとの事だったりと、方針は好みだったんですが…。

(加えるならそんなものが必要な時点で劣化BTCだとも思っていましたが、人が作った物を信用してその先の奇跡を見れたら素敵じゃないですか?)


⑥リスト名「変態」に入れられました。

わたしはdevやコミュニティとのテレグラムでのコミュニケーションなども含めて、こういった一期一会的な何かに遭遇すること自体が趣味です。

予想通り決まった通り動くのは、面白くない、再現性が無い事が好き、そういう変人です。

ですから、あらゆる気づきを与えて下さる皆さまと、この世界が折り合いをつけつつ続きますように…。

トップ画像がメダカなのは、周囲にメダカを飼うのが微妙に流行り始めているからです、心の癒しって大事ですよね…。

ここまで駄文を読んでくださった皆様、ありがとうございました。

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