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別れて久しいのに、パスワードはあの時のまま

昔の恋人に未練はない。
そしてなんというか、本当にこだわりがない。
そのせいだと思うのだが、未だにあるパスワードは前の恋人に因んだものである。これ、該当者は読まないでほしいなあ。セキュリティガバガバだもん。
別れてそのまま月日が経ち、パスワードは変えていない。それだけである。
それでも、やはり私も人の子で、パスワードを打つたびに昔の恋人を思い出す。

私とはかなり違う人だった。世の中に対峙する姿勢が違う人だった。
自分がどう見られているか、どのように評価されているかを気にしていたし、他者をどう見ているか、どのように評価しているかをはっきりと態度に表す人だった。
翻って私は競争心が不足していて、他者に対して無関心な人だった。多分、今よりももっと。
それ、疲れない?と思いつつ、仕事に勉強に邁進する姿は尊敬できたし、私とは全く異なる趣味嗜好は興味深かった。

でも、ついぞ共感できなかった。共感ができないことが、私にあの人を遠くの他者と思い続けさせたのだと思う。付き合いが長くなれば結婚の話が出るようになったが、ずっと心の中に違和感を抱え、いつか結婚したいねと真っ直ぐに言えなかった。あの人と家族になることは想像できなかった。

ただ、一つだけ言える。私たちは2人揃って「恋人のいる自分」を欲していた。私は面倒な人間関係を回避するために。あの人は、おそらくだけど他者からの評価のために。
私は条件が良かったのだ。あの人も私にとって条件が良かった。
お互いにニーズを理解してそのように振る舞っていたから、長続きしたのだと思うし、ある意味いいカップルだったんじゃないか。

なんとも身もふたもない。昔の恋人っていうのはこうも色気がない。
ないんだけど、パスワードを入れるときに思い出す。

君に幸あれ
ちょっぴり感情に浸ってしまうのも束の間、ログインが完了すればすっかり忘れてしまうのだ。パスワードはあの時のままである。

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