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過ごした時間が愛すべき時間だったと感じさせてくれるLOVE LETTER。

先日、先生がブログに書いていた交通飯店閉店しちゃいましたねと教えていただいた。

交通飯店とはチャーハンで有名な有楽町にある町中華の名店。

確かに食べログで交通飯店を検索してみると「閉店」となっていた。

またいつでも食べられると思っていた交通飯店のチャーハン。

永遠に食べることができなくなってしまった。

なんとなく口コミに目を通してみたら

まさかの涙が滲んできた。

食べログの口コミで涙を誘われてしまうとは。

見たことがないほどの長い口コミ。

というか愛していたお店へのオマージュ。

ひとりで足繁く通っていたkuidouraku11さん。

町中華でひとり黙々とチャーハン大盛りを食べる客だった彼。

毎回の滞在時間は短いものだったはずなんだけど

大盛チャーハンを頬張っていた彼が幸せを感じとっておられたことが伝わってくる。

彼のこの口コミが大将や女将さんの目に留まったらいいなぁ。


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◆以下、kuidouraku11さんの口コミの転載です。◆



ありがとう交通飯店

元々料理が好きなわけではありません。
子供の頃から食べることは質より量の人間で、店に関しては居心地の良さを多少は気にするけれども、大した拘りも無いままに訪問しています。むしろ常連としての関係が出来る方が煩わしいと思うくらいで、店の中でも目立たないようにしている事が多いです。ましてや投稿者として名乗るなど恥ずかしくてできません。一応の贔屓店で肌に合う料理を食べて、飲んで、満腹して帰るのが楽しみな…だけの、味も分からない程度の奴です。

それが、ある理由(切っ掛け)があって、食べログというサイトで頻繁に投稿をするようになっていました。次第にレビュワー同士の関係も出来てきて、その中である先輩に教えていただいたのがこの店、交通飯店でした。
ここは勤め人が多く集う有楽町駅の交通会館ビルの地下で営業する、ちょっとだけ有名な町中華の店です。

当店は決して美食の店ではありません。
塩や化学の力だってふんだんに使うし、前記事に書いたように店独特のルールも多いから、利用者からは評価が分かれるところがあります。それで私はどうかなのかというと・・・それはもう大の愛好者でありました。

当店の何が良かったのでしょうか。
店主さんが鉄鍋を豪快に振るチャーハンの出来は確かに素晴らしいです。普通サイズで他店の大盛りはあるチャーハンは来訪者の9割が注文する当店の看板メニューで、その日、その場で味を調整する技と、妥協のない力強い作業があっての料理ですから、多くの人に評価されるべきでしょう。でも、特別な素材を使っているわけではないし、毎週のように通ってみると微妙な振れ幅があって、私のような粗舌でも気づけるようになります。

では店の雰囲気が良かったのでしょうか。
いえいえ、当店のカウンターにむき出しで置かれた小銭山盛りのトレイは、客との信頼の証とは思いますけど、高所得やグルメ客を相手にする店ではありません。また、ビル自体が昭和中期の造りで、中華独特の油汚れもあって、とても綺麗とは言えないのです。そして、一番の特徴はとにかく狭い。しかも、駅そばの立地だから買い物ついでの荷物を抱えた客や、作業員やサラリーマン風の男性客も多くて、会員制や個室料理店に馴染んだ皆様からすれば、評価しづらい店だったと思います。

それでも、私にとって当店は「魔力じみた誘引力」がありました。いえ、正直に言いましょう。多分、これ以上の料理店は無いと言えるくらいお気に入りになって、毎週のように通い詰めた店であったのです。
それでも店とは初めから濃い関係があった訳ではありません。店の中にいたのは長くて15分間程度です。店主さんのコメを炒める作業音と、女将さんの気配りに魅入られつつ、殆どの時間は黙って座っていました。提供された大盛りのチャーハンをひたすら胃に放り込んでいる普通の客でありました。

だから食べログという場で書くときも、店を知り得たことに感謝こそすれ、評価について自分の押し付けをしないよう気を付けていました。食べ物のことは人それぞれの好みがありますし、何より当店における自分の評価は食に興味ある方々とは必ずしも一致しないものと自覚していましたから。
それに、そもそも店に対する自分の評価には価値があるとは思っていませんでしたしね。何故なら当店の歴史はとてつもなく長いからです。店主さん女将さんは人生の全てをかけてお店をやっておられます。だからその場所はあくまでお二人のものだと思っていました。まるでご自宅にお邪魔するような気持ちだったのかもしれません。
ちなみにそれが行き過ぎて、店主さんと女将さんは口喧嘩を始めたりします。実は当店の隠れた名物で、私が生まれる前から続いているのであろう店内でのやり取りは、時に激しい口論になる事もありました。そんな時は親せきに預けられた子供のように、縮こまって聞いていたものです。

そうそう、実は当店の訪問回数は正確に把握しています。写真に残したチャーハンは、そんな思い出の回数とイコールです。食べる度に追加していったら、しばらくして、食べログの投稿写真の数には上限があることに気付きました。まぁサーバーの都合もあるので当然ですが。そのため、全部の写真を掲示できませんが、それでも何年もの間に撮り溜めたフォルダの中にあるチャーハンの写真から、今更ながらこの店での出来事を思い返しています。

それだけ通えば、暫くすると目礼も交わすようになり、世間話をするようになり、微妙な距離感を保ちながらではありますが、当店との関係は続いていたのです。

ちなみに当店には独特のルールがあります。
店外での並び方はこうだとか、コートは脱いで入れだとか、店内では本やスマホは弄らないといった類のものです。コロナ問題が発生してからは、店内でのおしゃべり注意がプラスされました。列に並んでいる間に女将さんから都度の説明を受けるのですが、近年は有楽町(銀座)の利用者も代替わりが進み、またイチローが通った店などとメディアで紹介されたこともあって、日々客が入れ替わる皆さまへの案内は、本当は大変だったのかもしれません。東京交通会館は元々闇市を由来とする露店の解消や駅前の整備のために作られた建物ですが、その後も周囲にあるガード下の店など大きく入れ替わりました。都庁が移転して既に30年、すしや横丁を知る人は稀になっています。昭和は遠くなりにけり、です。

客が変われば常識も変わります。中には手指消毒をせずに店内に入る人、店内で電話を使用する人、注文を聞かれてから長く考える人、、、まぁ、何とも残念に思うようなケースがあります。そのたびに私などは同じ客として目配せして配慮を促すのですが、全員の方が改まる訳ではありませんから、けっこう女将さんに気づかれて叱られるケースも見てきました。

そんなある日、これは何年目の事だったか覚えてませんが、ちょっとしたトラブルが起きました。私の前の客はかなり上等なスーツを着た男性だったのですが、列で待つ間にイライラしだして、ついには顔を真っ赤にして怒鳴り出したのです。
「なぜ私より後に並んだ人間を先に入れるんだ」
「なぜ私の注文が後回しなんだ」
本当に頭から湯気を出して怒っています。

これは交通飯店のローカルルールの最たるものなのですが、店側の都合による料理提供の順番入れ替えですね。当店ではこの変更はかなりの頻度でありえます。
この仕組みは直接聞いたわけではありませんし、そもそも店が決めることだと思うので本来詳しく説明する事でもないのですが、例えば団体や女性連れのお客はテーブルに案内されやすい配慮があって、一人客はその煽りを受けて案内が前後するのです。また、セットメニューは餃子やラーメンのタイミングを考慮するため基本遅くなります。逆にチャーハン単品は鍋の使用枠に空きがあると前倒し繰り上げが起こり得るのです。特にチャーハンの大盛りは注文者が希少なことと、2名分がひと鍋での調理になるために繰り上げが起こりやすく、自分などは10名以上の飛ばしが発生することがあり、恐縮しながら食べる事もあったのです。
ですが、一見のお客さんはそんな事情を知りません。店外での説明にも順番を入れ替えることはなかなか入らないため「失礼だ」と、怒鳴りだす人がたまにいたりするのです。

そんなお客に対して、割って入ろうかとした事が何度かあります。しかし、女将さんは普段はとても闊達に話される方なのですが、何も言い返しません。店主さんも調理の手を止めて話を聞くのですが、その間もじっと黙っています。

出ていけとも、ウチはこういうルールだ、とも仰らないのです。
ただ悲しい顔をして黙っているのです。

それはなぜでしょうか。私は、店の価値観に合わない人だと分かっているからだと思っています。
交通飯店は決して注文の多い店ではないのですよ。

その客が言い散らかして帰った後、何人かのお客さんと目が合いました。お互い名も知らない仲ですが、何回か店で一緒になったことがある相手です。
そして、微妙な空気を和らげるように、やれやれ困ったねと眉を上げたあと、お互い何事もなかったように食事に戻りました。そして私はこの店と、この店が客と共有する配慮、世界観のようなものがとてつもなく好きになったのです。

3月上旬に閉店の知らせを聞いて、直ぐにお店を訪問しました。
交通飯店は人気店とはいっても昼時を外せばスムーズに入店できるお店でした。間を取るため席数を少なくしてから回転は鈍りましたが、1名あたり80秒くらいのペースで進みますから、入店時間を配慮すれば実は並ぶ時間も少なくて済むのです。開店20分前、いつもと同じ10時40分に着くと既に30人の行列になっています。しばらくはコロナの影響で待ち列は少なくなっていたのに、報道を聞いてお別れに来る人が多かったのかもしれません。

女将さんは、通行の妨げにならないよう両側に列を作り、消防機器の前は空けてくださいと、客に配慮を求めて一生懸命です。店内での脱衣が他の客に当たらないよう予めコートを脱いでくださいとお願いしています。列が長くなるにつれ、食事が出てからスマホをいじらないようお願いする語気も強くなります。
うーん、これも言っちゃいましょう。分かる人には分かる事なのですが、3月中旬を過ぎてから、明らかに女性や団体客が増えています。皆さんの滞在時間が長くなる傾向が出ていたのです。セットの注文が増え、料理が揃わないと食べださない人が増え、店内の撮影をする人が増えています。それを配慮が無いとは言いませんが、回転はかなり鈍くなっていました。こんなに待ち列がある状況では、とてもじっくり話をする時間はなかったので、「もう一度だけ来ます」といって退店しました。
店外では行列がますます伸びています。最後尾は交通会館を出て、営団地下鉄の構内に入り、壁沿いを奥まで進んでいました。腕章を付けたビル管理の方が、女将さんを呼び止めて、列を作らせないよう注意しているのが見えました。

そして最後の訪問をしたのは3月下旬です。
あの後、他の方からも行列の苦情が来ていたようで、入り口では整理券が用意されていました。
それでも店付近に止まる人が多いようですね。屯をしないで下さい、時間を見てもう一度来てください、と女将さんは一生懸命来客に配慮を求めておられました。

整理券は○○番台。
当店は時間で営業するのではなく、米の売り切れによって閉店時間が決まります。この順番なら足切りは食らわないとは思いますが、入店までは2時間待ちは覚悟するしかありません。

耳打ちされた時間に合わせて店前に到着します。
事前にオーダーを聞かれたので、大盛りチャーハンを注文します。
すると何故か順番を飛ばして先に入店を促されました。

案内された場所は初めて入店した時にも座った窓側の一人席です。最初の数回は偶然この席が続いたことから、紹介元の先輩からも専用席が出来てよかったなんて笑われたのを思い出しました。

コートは畳んで向かいの椅子に丸めて置きます。交通飯店は最近コロナ対策で椅子を減らしたのですが、それでも狭い印象が強いのに、昔は更に詰め詰めで使っていて、このテーブルの向かい椅子も使っていたのでしょうね。今の時代からすると信じられないような配置です。

鞄はテーブルの下に寄せますが、足を広げると通行の邪魔になるので意識して窓側に置きました。鞄の置き場所を間違えたこと、足を開いて注意されたこと、昨日のように思い出されます。そしてしみじみ店内を見まわします。もうこれで最後になるのですから。
本当はもう少しゆっくりしたかったのですが、提供まではわずか3分でした。今日のチャーハンは・・・油のノリが良くて食いでがありました。予定より早まった食事時間に、いつもより少しだけ手間取りながら。でも自分にとっては丁度よい量を楽しみます。そしていつもは水の配分も計算していて、ちょうど1杯で食事を終えるようにしてるのですが、今日ばかりは喉の乾きを覚えて、あと1杯だけとおかわりをしました。

最後に少しだけご挨拶をしました。
未練たらしくお弟子さんは店を継がないのかと聞いてみたら、(交通飯店のチャーハンは)お父さんしか出来ないからと言われました。
そりゃそうですよね。店主さん女将さんあっての交通飯店です。屋号はともかく世界観は継ぐことはできないのです。

この店は私が生まれる前からずっとずっと営業を続けてきました。有楽町の街で働く人たちに、安くて美味しくてボリュームたっぷりの特別料理を素早く提供する。その価値が分かる人たちが好いて集まることで、店は支えられていたのです。
メディアに載るような人気店になっていったのはその後の話。口コミサイトやSNSで話題になったのはもっと後の話です。イチローが最初から好きだったわけではなく、イチローを連れて来た人が愛した店だったのです。
交通飯店は人の繫がりがある店です。既に鬼籍に入られた先輩が教えてくれたのはきっとそういう事だったと思います。


女将さんからはいつも忙しそうだったねと配慮をしていただきました。昔より太ったねとも茶化されて。
私からはお元気でいて下さいとお伝えして、あとは海に近いお住まいでこれからはゆっくりしてくださいとお願いして、お別れをしました。気付けば女将さんも足が弱くなったように思えます。ご主人も鍛えられた腕が少しだけ細くなったような気がします。


時計を見れば11:11。縁起が良い数字が並んでいます。最後の配慮には鼻と目がむず痒くてたまりません。
でも、やっぱり思いました。この店の世界観は今の時代にはもう合わないのかもしれません。ここ暫く投稿を離れて、また久しぶりに当店の投稿を見て、そう思えるようになりました。

先輩、この店を好きになった理由を思い出しましたよ。
人の痛みが分かること、
私はこの店の配慮が心地よかったのだと思います。

店主さん女将さん、長い間ありがとうございました。


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※出典元のkuidouraku11さんの口コミ


※ぼくが交通飯店のチャーハンについて語った記事


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